第047話 異形の存在
「なんじゃ、何が起こったのじゃ?」
顔を上げると、先ほどまで暴れまわっていた戦乙女たちが吹き飛ばされて倒れていた。
しかし、見える限り、全員死んではいないようじゃ。
ワシはホッとした。
「強大な魔力が出現しました。神級以上です!!」
「なんじゃと!?」
蹴散らされたモンスターたちの奥から禍々しい魔力をもつ存在が姿を現した。
一見二足歩行する人型だが、身体はモンスターそのもの。青い肌を持つ者や、まるでイカのような見た目の者、そして、手足が竜にそっくりな者など様々な異形の者たちだ。
全員が神級の魔力を保有している。
モンスターのランクは神級以上はない。そのため、神級以上の魔力をもつモンスターは、全員神級として一括りにされる。
しかし、神級の中にもランクは存在している。
ワシとて神級に分類される戦乙女じゃが、ワシよりも強いモンスターは存在する。フェンリルしかり、ベヒーモスしかり。
奴らからはそれ以上の魔力を感じる。
それならば、なぜランクが分けられていないのか。
それは、神級以上のモンスターたちなど分類しても意味がないからじゃ。
神級は国を容易く滅ぼす存在。それ以上の存在など分類してなんになるというのか、という話じゃ。
神級以上は総じて国や世界の脅威なのじゃ。
「キリカ、ワシが食い止める。お主たちは今すぐ撤退せよ!!」
ワシはすぐに指示を出す。
あの子らではやつらには敵わない。無駄死にするだけじゃ。そんなことをさせるわけにはいかん。
「それでは、しかし……」
「他の戦乙女がいては足手纏いじゃ。ワシが全力を出せん」
キリカは一人残るワシの身を案じてくれておるようじゃが、ワシの攻撃は敵味方関係なく、巻き込んでしまう。
「……承知しました。あ、行く前にこれをお飲みください」
「レイのスポーツドリンクか。ワシは飲んでおらなんだ」
ワシは気休めとばかりにレイのスポーツドリンクを飲み、後のことをキリカに任せて現場に急行した。
◆ ◆ ◆
『きゃああああああああああっ』
私たちの前にいた他の部隊の戦乙女たちが、私たちの後ろの吹き飛んでいく。
なに、いったい何が起きたの!?
視線の先にある峡谷の奥から凄まじい魔力が出現するのを感じた。
先ほどまでは何も感じなかったのに、何がどうなってるの!?
いや、こんな時ほど落ち着いて対処するのよ。
「皆、落ち着いて。私たち以外は後ろに下がりなさい!!」
私が声を張り上げる。
目の前にいるあいつらは、他の子たちでは敵わない存在だ。
私たち寮生で構成された精鋭部隊でなければ相手は厳しいはず。私たちは元々全員が特級以上の戦乙女だ。
レイによる体操とマッサージ、食事、スポーツドリンクによって、今では全員神級レベルの力を引き出されている。
勝てるかどうかは分からないけど、他の子たちを逃がす時間を稼いで撤退するくらいはできると思う。
「皆、やるわよ」
皆に声を掛ける。
「ちょっとアレ、強そうだもんねぇ」
「禍々しい力を感じます」
「わ、私も頑張ります……!!」
皆も私と同じ気持ちだったようでやる気だった。
コクヨウも元々魔力量と戦闘技術は特級を超えていたので、後は魔装だけだった。それもレイによって解決したので、私たちと一緒に行動している。
「私が派手にやるわ!!」
炎帝剣の火力を全開にして禍々しい魔力を持つ存在に放った。
――ドォオオオオオオオオンッ!!
凄まじい轟音と煙を巻き上げて視界を遮る。
「今のうちに、撤退しなさい!! ここが私たちが抑えるわ!!」
「邪魔だよ、邪魔!! ここに居られると足手纏いなんだ!! さっさと下がって!!」
「ここは私たちにお任せください。しんがりは私たちが努めます」
「さ、下がってください……!!」
他の皆も大声で叫んで他の部隊を撤退させた。
煙が晴れてきて中の様子が見えるようになってくる。
「倒せるわけないとは思っていたけど、まさかほとんどダメージすら与えられないなんてね……」
そこには少しだけ煤がついたモンスターたちが何食わぬ顔で立っていた。
「もうよろしいかな?」
「なっ!?」
私はモンスターが言葉を発したことに驚いた。
だって、そんなモンスターは聞いたことがないから。他の皆も同じような反応をしている。
「もしかして、人語ごときを話せないとでも思いましたか? それは少々心外ですね」
話しているのは、全身がイカの触手のようなもので人型を形作っている存在。
それだけ異様だった。
それと同時に怒気が解き放たれ、私たちに魔力の暴風が襲い掛かる。
その魔力は今まで感じたことのないほどに強大なものだった。
「あんたたちは何者なの?」
「それはお判りでしょう? あなたがたを弄ぶ者ですよ?」
私の質問に楽しげに返事をするイカ。
「話ができるんでしょう? 話しあいで解決できないの?」
「言葉が理解できるからといって、虫のような存在とあなたは話しあいなどしますか? 今話しているのもほんの戯れのようなものです」
イカのような眼が細くなり、笑っていることが分かる。
こいつらは人の言葉は分かっても、人間とは相いれない存在だということ分かった。
「……」
「勝手に殺し、勝手に飼い、勝手に支配するでしょう? それと同じことです」
これ以上話しても無駄そうだ。私は炎帝剣を構える。
「やる気ですか? それではほんの少し遊んであげましょう」
イカモンスターが獰猛な魔力を解放し、それに似た存在たちも同じように解き放った。
あまりに膨大な魔力に、私のこめかみから一筋の雫が流れおちた。
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