第046話 ワシ……ワシ……
「さて、さっきの親玉みたいなやつのことを考えると、今回の大氾濫には何かありそうじゃが、死んでしまったから何も聞けんしのう……困ったものじゃ」
誰にも死んでほしくなくてレイを呼んだが、完全にオーバーキルじゃ。
レイは劇薬過ぎる。強すぎるのも考えものじゃ。
とはいえ、まだ数万体の弱いモンスターを蹴散らしたに過ぎない。これからが本番じゃろうな。
最初の戦いで圧勝できたからと言って楽観視してはいかん。すぐに、第二波に備えて準備をしておかねばならんな。
「大氾濫の動きはどうなっておる」
「それが……規模が膨れ上がって数百万の群れになっております……」
「なんじゃと!?」
キリカの返事にワシは思わず叫んでしまった。
彼女が言いよどむのも分かる。
10倍以上に膨れ上がるとはどういう了見じゃ!!
ワシも叫びたくなった。
「今度は空を飛ぶモンスターも多数確認できます」
「相手も本腰を入れてきおったか」
空を飛ぶモンスターが相手となると、ちょっと厳しい戦いになるやもしれん。こちらは空を飛べる戦乙女は多くないからのう。
ワシの出番じゃな。
「第二波が来たら、ワシも出る。その間はお主に任せるぞ?」
「かしこまりました」
その場をキリカに任せ、ワシも魔装を展開する。
「
金色に輝く杖がワシの手に姿を現した。
これがワシの魔装"雷霆之杖”。
雷の魔法に威力を数倍に引き上げる効果と雷を自在に操る能力を有する。それに雷操作を応用することで空を飛ぶことも可能じゃ。
これでいつでもワシも出撃できる。
「ひとまず部隊を一旦戻して第二波に備えて休息をとらせるのじゃ」
「承知しました」
キリカの指示によって部隊が戻ってくる。
「ん? あれは……レイか? いったいなにをやっておるのじゃ?」
部隊が戻ってきたところにレイたち補給部隊が待ち構えていた。
全員が何やら水筒のようなものを持っておる。そして、戻ってきた隊員に配り始めた。
それを隊員たちが飲み始める。
なるほど。あれに水が入っておるのか。流石レイ、用意周到じゃな。
しかし、ワシはその光景を見て何か忘れているような気持ちになる。
何か大事なことを忘れているような気が……いや、思い出せないということは大したことではないのじゃろう。
ワシは頭を振って思考を切り替えた。
「そろそろ第二波が来ます」
隊員たちの水分補給が終わり、部隊を再度配置して数十分後、第二波がやってきた。
「敵は全て特級以上のモンスターで構成されている。くれぐれも注意するように!!」
特級と言えば、街一つくらいなら簡単に滅ぼしてしまうような強さ。全てがそれ以上で構成されている群れなど、まるで地獄のような光景じゃ。
一介の戦乙女では本来相手にできないような相手。しかし、誰一人として怯んでいる様子はない。それどころか先ほどよりもやる気に満ちている。
まぁよい。少しでも彼女たちの負担を減らすために空のモンスターは全てワシが蹴散らしてくれよう。
そして、数分後に再びモンスターの群れが現した。
「全軍、突撃!!」
『おおー!!』
隊員たちが先ほどよりもさらに素早く移動して、敵に攻撃する。
――ズバァアアアアアンッ!!
一撃で特級のモンスターが何匹も死んだ。他の隊員たちも同じように特級レベルのモンスターを軽々と屠っていく。
なんじゃ、何が起こっとるんじゃ!?
さらに、まるで光の直線を描くように空に放たれた弓矢や大砲、銃などの遠距離攻撃。
その攻撃はまるで流星が逆再生されたかのうような勢いだ。
それにより、空から襲い掛かろうとしていたモンスターが串刺しになり、一瞬にして数十以上のモンスターが地上に落下していく。
バカな……ありえん……なにがどうなっておるんじゃ!?
ワシは目の前の光景が理解できなかった。
一介の隊員では苦戦するようなモンスターばかりだったはずなのに、その群れはどんどん数を減らしていく。
特級モンスターがいなくなり、王級モンスターが群れの主体になっても隊員たちの勢いはとどまることを知らない。
王級モンスターもどんどん殺していく。
確かに隊員たちは強くなっていた。しかし、王級モンスターをこうもたやすく屠れるほどの力はなかったはずじゃ。
いったいどうなっておる……。
「あっ」
そこでさっきの光景がよみがえる。
レイたちがさっき配っていた飲み物。これまでの食べ物は全てレイが用意していた。あの飲み物もレイが用意したものに違いない。
「キリカ、さっきレイが隊員に飲ませていたものはなんじゃ!?」
「なんでも体を動かした後で飲むと、非常に効率的に栄養補給ができる飲み物だそうですよ。確かスポーツドリンクという名前だったかと」
「絶対それのせいじゃろぉおおおおおおっ!!」
隊員たちが更なるパワーアップをしたのはやっぱりさっきのドリンクのせいじゃった。
「ワシ……ワシ……準備万端で待ってたのに!! 出番がないでないかぁああああああっ!!」
ワシは人目もはばからずに、四つん這いになって地面に拳を叩きつけながら慟哭した。
『きゃああああああああああっ!!』
しかし、次の瞬間、あれだけ無双していた隊員たちの悲鳴がワシの耳朶を打った。
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