第045話 戦乙女無双

 ワシは少し小高い丘の上にある本陣から荒野の様子を見下ろした。


「ふむ。来おったか」


 奥の峡谷からわらわらとモンスターが溢れ出してきているのが見える。


「そろそろ挨拶をお願いします」

「うむ。分かった」


 キリカがワシを呼びに来て、ワシは戦乙女ヴァルキリーたちから良く見える壇上に立った。


「皆の者。大氾濫はすぐそこまで迫ってきておる。しかし、恐れることはない。なぜなら、お主たちの体は未だかつてない程に最高の状態となっているからじゃ。それはお主たち自身も感じておろう。恐らくこれまでの10倍以上の力を感じておるはずじゃ。ここには5000人程しかおらんが、今や50000以上の軍隊に相当すると思っておる。たかだか、数倍の相手じゃ。強いモンスターはワシらが相手をする。緊張感を保ちつつも、気負いすぎぬようにして必ず最後まで生き残るのじゃ!!」

『おおーっ!!』


 ワシの言葉を聞いた戦乙女ヴァルキリーたちも自分の体が今一番充実していることに気付いておった。彼女たちの顔には希望が溢れておる。


 問題なかろう。


 それと、一応釘を刺しておかねばならん。


「それから、お主たちはこれが誰の手によって引き起こされたことなのか理解しておるじゃろう。分かっていると思うが、このことは他言無用じゃ。漏れた場合、厳罰を覚悟せよ。以上じゃ」


 師匠の孫を他国との戦争や政治の道具にするわけにはいかん。


 恐らく完全に口止めすることは不可能じゃ。親に逆らえない者もおるじゃろうし、積極的に漏らす者もおるじゃろう。


 それでも、少しでも発覚するのを遅れさせなければならない。大氾濫を乗り切れば、王族がこちらにやってくる。


 その会談が終わるまでなら持てばよい。


 ワシはそれだけ言うと、壇上から降りた。


「全軍、進め!!」


 キリカが声を張り上げると、部隊が魔装を展開して突貫する。


「むっ……これは……」


 ワシは全員から迸る魔力の奔流を見て驚いた。


 なぜなら、予想以上に魔力が上がっていたからだ。これならかなり善戦できるのではないか?


 そう思っているうちに、一直線にこちらに向かってくるモンスターと戦乙女ヴァルキリー部隊が荒野の真ん中で激突する。


 ――ドォオオオオオオオオンッ

 ――ドォオオオオオオオオンッ

 ――ドォオオオオオオオオンッ

 ――ドォオオオオオオオオンッ

 ――ドォオオオオオオオオンッ


「お、おう……」


 そして、言葉を失った。


 確かに善戦するとは言ったが、流石にこれは予想できんじゃろう。


 眼下では戦乙女ヴァルキリーたちが数倍のモンスターたちを蹴散らし、まるでゴミのようにちぎっては投げ、ちぎっては投げをする姿が繰り広げられていた。


 モンスターたちが全く相手になっていない。


「全く……規格外もここまで来るといっそ清々しいのう……」


 ワシは呆然としながら呟く。


 こんなことになっているのはレイのせいに決まっておる。


 寮で食べていた料理と、体操とマッサージによる影響はきちんと確認しておったはずなのに、今は明らかにそれ以上の成果が出ていた。


 体操とマッサージは変えようがない。おそらく食事にまた何かしたのだろう。


 レイは伝説の果物であるアーマオをイチゴだと言い張る奴だ。絶対にとんでもない食材を使ったに違いない。


「ひぃいいいいいはぁあああああっ!!」

「死ね死ね死ね死ね死ね死ね……!!」

「ひゃっはぁあああああああああっ!!」

「どう考えてもはっちゃけすぎじゃろう……」


 戦乙女ヴァルキリーたちのテンションが異常すぎる。


 師匠の孫はなんていうことをしてくれたのか……。


「ピギャアアアアアアッ!?」

「ヒィイイイイイインッ!?」

「ピェエエエエエエエッ!?」

「プギィイイイイイイッ!?」


 モンスターたちが戦乙女ヴァルキリーたちに恐れをなし、元来た方へと引き返していく。


「見よ……あれほど人間の領域に一直線に侵攻してきていたモンスターが逃げ惑っておるではないか……」


 本能で恐怖を悟ったのだろう。ワシもなんか怖い。


 ――ドォオオオオオオオオンッ

 ――ドォオオオオオオオオンッ

 ――ドォオオオオオオオオンッ

 ――ドォオオオオオオオオンッ

 ――ドォオオオオオオオオンッ


「なにあれ……もう神級じゃん……」


 そして、さらにおかしいのはルビィ君たち寮生部隊。


 たった数十人なのに、一撃で数百以上のモンスターを蹴散らしている。


 思わずワシの口調も乱れるほどじゃ。


 魔装から放たれた攻撃からはすでに神級のワシ並み。


「これ……ワシいる?」


 そう思わざるを得ない。


 こやつらならたとえ神級モンスターが来たところでどうにかするじゃろう。


「くっくっく。まさかわが先発部隊がここまで完膚なきまでに叩きつぶされるとは――プギャッ」


 なんか、空から降りてきてこの辺り一帯に聞こえるような声で何かをしゃべり始めた親玉っぽい何かもぷちっとされておる。


 おいおい、今の奴は生かしておかないとだめじゃろう。


 そう思いながら、ワシは戦乙女ヴァルキリーたちがモンスターの壊滅させるのを見守ることしかできなかった。


 気付けば、最初に魔境からあふれ出してきたモンスターたちは、ものの数十分ほどで戦乙女ヴァルキリー部隊に壊滅させられていた。


 どう見ても初戦はワシらの圧勝じゃった。


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