第044話 開戦

「着いたぞ」


 そして、次の日。ようやく目的地にたどり着いた。


 そこは開けた荒野。待ち構えて戦いやすそうな場所だった。


 ただ、数十万と数千。数が違いすぎる。害獣や害虫なら何匹いたところで所詮ただの獣と虫。余裕で駆除できる。


 でも、モンスターは戦乙女じゃないと倒せないような凶悪な存在。こっちが不利になりそうだけど大丈夫なんだろうか。


 聞いてみると、数十万の内、その多くは弱いモンスターによって構成されているから問題ないらしい。


 そういうものなんだと納得する。


 今のところ、モンスターの姿はまだ影も形もないので、すぐに戦いになることはなさそうだ。


 僕はホッと安堵した。


「今日からここで野営だ。ここからがお前達の本番だ。戦いが終わるまでよろしく頼むぞ」

『はい!!』


 今日も皆の宿舎を建てる。


 でも、やっぱり少し心配だったので、役に立たないかもしれないけど、ほんの少しでも安全度をあげるため、今日はマンションではなく、要塞を造り出した。


 周りを城壁が囲い、その中に堅牢な造りの宿舎が入っている。城壁は学園都市をイメージして強度を目一杯に上げて造った。凶暴なモンスターの攻撃には一撃も耐えられないかもしれないけど、ないよりはましなはず。


 これで少しでも安全に皆が休めたらいいな。


 僕は出来上がった要塞の出来に満足する。


『なんじゃこりゃああああああああっ!?』


 要塞を見た隊員たちが叫び声を上げた。


 マンションとは別の建物が出てきたからびっくりしたらしい。でも、安心してほしい。全員が泊まれるだけの広さがあるから。


 基本的な使い方は学園と変わりないので、また皆を各々の部屋に割り振って今後に備える。


「あと2、3日でモンスターがやってくるそうだ。各自万全の状態にしておくように」

『はい!!』


 隊長からの指示を受けて僕たちは解散する。


 後は食事の時間くらいしかやることがないので時間を持て余し気味だ。ユキと散歩にでも行こうかな。


「レイナ、少しいいかの」

「ん? どうかしましたか?」


 そんなことを考えていると、学園長に呼び止められた。


「うむ。時間がないところ申し訳ないんじゃが、やってもらいたいことがあっての」

「なんですか? 僕にできることならぜひやらせてください」


 ちょうどやることがないところだったので、仕事があるのなら僕の方からお願いしたいくらいだ。


「そう言ってもらえるとありがたい。お主にやってもらいたいというのはほかでもない。この前やっていた体操とマッサージをやってほしいのじゃ」

「えっと……そんなことでいいんですか? それくらいならいくらでもやりますよ」


 学園長から頼まれた仕事は簡単なことだった。


 もっと大変なことかと思っていたので拍子抜けしてしまった。


 でも、ここにいるのは数千人。それだけの人数に体操を教えて、マッサージをすると考えると、時間的にちょうどいいかもしれない。


 そう思い直した。


「そうか。助かったわい。隊員たちには最高の状態で戦いに臨んで欲しいからの。スケジュールと割り当てはこっちで調整しておる。準備ができ次第すぐにやってもらえるとありがたいんじゃが、どうじゃ?」

「僕はいつでも大丈夫です」

「うむ。それでは開けた場所でやってもらうことにしよう」

「分かりました」


 僕は学園長に案内され、第一陣の人たちが集まっている場所にやってきた。


「これから、お主たちにはレイナの体操とマッサージを受けてもらう。信じられぬものが多いかもしれぬが、こやつの体操とマッサージには驚くほどの効果がある。まずは黙って受けてくれ」

『はい!!』


 学園長が体操とマッサージの効果を誇張して伝えている。


 いやいやいや、ラジオ体操とマッサージには、多少魔力の流れの滞りをなくす効果しかないぞ。

 

「それでは、レイナよ、頼んだぞ」

「わ、分かりました」


 学園長にニッコリとした笑みを浮かべられて断るに断れなかった。


 僕は用意された壇上に登り、皆の前に立つ。


「ご紹介に与りました。レイナと申します。これから私の後に続いて同じ動きをしてください」


 録音魔法で録音した演奏を再生し、体操を始める。


「まずは背伸びの運動から!! 1、2、3、4、5、6……」


 僕の動きに合わせて皆がラジオ体操を行った。


「すっごーい!! 肩こりがなくなった!!」

「私は腰痛が消えたよ!!」

「慢性的な片頭痛がしなくなったわ!!」

「毎月イライラしてたけど、どこかにいっちゃったわ!!」

 

 その結果、良く分からないけど、皆に満足してもらえる結果となった。


「アタタタタタタタタタタタッ……タァ!!」


 その後で一人ずつ按摩術をおみまいする。


「何これ、すっごい!!」

「なんだか、体がポカポカしてきたんだけど!!」

「魔力がめちゃくちゃスムーズに流れてない?」

「ホントだ!! 魔装が凄く出しやすい!!」


 マッサージの方も前評判程の効果はなかったはずなのに概ね好意的な反応を貰うことができた。


「これで体操とマッサージを終わります。体操は毎日続けると効果的ですよ」

『ありがとうございました!!』


 僕は全員にお礼をされて壇上から降りた。


「それじゃあ、少し休憩した後、第2陣がやってくるからよろしく頼むの」

「わかりました」


 それからモンスターが来るまでの間、僕は隙間時間に体操とマッサージを施すのであった。


 3日後。


 ――カンカンカンカンッ!!


 警報の鐘がなる。ついにモンスターがやってきたらしい。


「誰も怪我したりしないといいけど……」


 僕は遠くを見つめて呟く。


 そして、数時間後、ついにモンスターと戦乙女の戦いの火蓋が切って落とされた。

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