第048話 戯れ

「皆!!」


 イカモンスターの後ろにいたやつらが一人ずつ、ラピスたちそれぞれに攻撃を仕掛けた。


 全員やつらの攻撃を受けることができたけど、その威力に後方へと吹き飛ばされ、一人ずつ分断されてしまった。


 私は1人だけその場に残された。


 奴らは誰一人として本気を出していなかった。それが分かって体が震える。


「どうしました? 来ないのですか?」


 嘲笑うかのように私を挑発するイカ。


 でも、怖かろうとなんだろうと逃げ道はないし、どのみちやるしかない。


「イグニスブレード!!」


 真っ赤に赤熱した魔力が炎帝剣を覆って巨大化する。


 そのまま私は目の前のイカ野郎に振り下ろす。これは私の最大最強の技だ。


「はぁああああああっ!!」


 さっきの技でダメージがなかった以上、全力の一撃を叩き込むしかない。


 イカ野郎は躱す素振りすらない。


 絶対その余裕を崩してみせる!!


「そ、そんな……」


 しかし、そんな気持ちは一瞬で折れた。


 なぜなら、イカ野郎は私のイグニスブレードをたった2本の指で受け止めていたから。指先が少しだけ煙を出しているけど、ダメージはほとんどないと言っていい。


「くっくっく。この程度ですか?」

「こんのぉおおおおおおっ!!」


 私は一度イグニスブレードを消して再度出現させ、何度も何度も振り下ろす。


 ――キンキンキンキンキンッ


 その全てがたった一本の指で防がれてしまった。そして、ほんの少しだってその場から動かすことができなかった。


 負けない、私はこんな奴には絶対負けない!! もっと…………もっと……もっと私に力を寄越しなさい、炎帝剣!!


「負けるかぁああああああっ!!」


 私の全ての力をつぎ込んだ一撃を振り下ろした。


「むっ」


 ――ドォオオオオオンッ


 イカ野郎に当たった瞬間、前方に大爆発を起こした。


「はぁ……はぁ……はぁ……はぁ……ざまぁみなさい……」


 確かに手ごたえを感じた私は、私を舐めたイカ野郎をバカにする。


 徐々に煙が晴れ、イカ野郎の姿が露になってきた。


「な……」


 私は驚愕で言葉を失った。


 そこには煙を上げているもののほぼ無傷のイカ野郎が立っていたからだ。


「ふっふっふっ。驚きました。私の指をねるとは」


 イカ野郎の言う通り、やつの手の指が一本だけなくなっていた。


 私の全力がたったそれだけの効果しかないなんて思わなかった。


 だって今の私はレイの力で元の10倍以上にまで能力が上がっている。それなのに全力を出しても指一本。それはあまりにも信じがたい結果だった。


「でも、この程度の傷はほら?」

「なっ!?」


 しかも、イカ野郎が指を失った方の手をもう片方の手で一瞬覆い隠して、再び姿を見せた時、指がきれいさっぱり元通りになっていた。


 ほんの一瞬の出来事。


 それだけで私が与えたダメージは回復されてしまった。


「もう終わりですか? それではこちらから行きますよ?」

「!?」


 イカ野郎がそう言った瞬間、いつの間にか間合いが詰められていて、目の前にイカ野郎が現れた。


 動きが全く見えなかった。


「ほら」


 たった一発のデコピン。


「きゃああああああっ!!」


 私はそれだけで、堪えることもできずに後方に吹き飛ばされた。


「ほらほら、まだまだ行きますよ?」


 吹き飛んでいる私に追いつき、イカ野郎が再びデコピンをする。


「くっ!?」

「あっ!?」

「きゃっ!?」


 吹き飛ばすたびに追いついて、私は何度も吹き飛ばされてしまう。


「こんの!!」

「遅い、遅い」

「きゃあああああっ!?」


 反撃しようとしても、さらに動きが速くなり、全く目で追うことができずに、なす術なく吹き飛ばされ、地面に叩きつけられた。


「ぐはっ」


 その衝撃で私は口から息を吐き出す。


 一方的過ぎる。


 これでも相手はほんの少しの本気だって出していない。実力差が天と地ほどに離れていた。


「まだまだ……」


 でも、私は諦めない。


 なんとか体を動かして起き上がる。


「ふぅ……弱い……弱いですね。こんなことならもっと早く人間界に侵攻すべきでした。あの魔女がいなければ、これほどに人間が脆いとは」


 つまらないものでも見るかのような視線で見下ろすイカ野郎。


 なんのことか分からないけど、バカにされているのか分かった。


 そして、イカ野郎は辺りを見回す。


「皆……」


 私も釣られてどうにか顔を動かして周りを見ると、ラピスたちも満身創痍の状態に追い込まれていた。


 ここには、誰一人として突然モンスターの群れの中から現れた人型のモンスターに敵う戦乙女ヴァルキリーはいなかった。


「そろそろ戯れも終わりにしましょうか」


 イカ野郎が私のそばに近づいてきて手を翳す。


 手の先に膨大な魔力が集束していく。


「それでは、さようなら」


 魔力が球体を作り上げたところで、別れの台詞を吐くイカ野郎。


 魔力弾が一際輝きを増した。


 私はこんなところで終わるの?


神の怒りトールハンマー!!」


 私が絶望仕掛けたその時、視界が金色に染まった。


 ――バリバリバリバリッ、ドォオオオオオンッ


 そして、轟音とともに空から雷が降り注ぎ、人型モンスターたちに落ちる。


「すまぬ。遅くなった」


 それは最強の戦乙女の到着を知らせる音だった。

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