第037話 謎の美少女レイナ爆誕

 ワシは学園長室でキリカと遠征の件を話していた。


「して、キリカよ、レイの件じゃが」

「はい」

「やはり、あの方法しかないじゃろうか」


 レイを連れていくとは言ったものの、レイは男。


 戦乙女部隊はこの学園と同様に、一番上から一番下まで、その全てが女で構成されておる。


 いくら大賢者カトレアの孫だとは言っても、そこにレイを参加させるのは非常に難しかった。


 そこで思いついた苦肉の策。それはレイに苦痛を強いるもの。ワシにとっても孫同然のレイにそのような思いをさせるのは心苦しいのじゃが、どうしようもなかった。


「そうですね。女性しかいない部隊。そこに男性がいるとわかったら、凄まじい反発があることは目に見えています。いくら学園長が世界に八人しかいない賢人の一人だとはいえ、批判は免れないでしょう」

「そうか、仕方あるまい。レイには涙を呑んでもらおう」


 ワシはため息を吐いて寮に戻った。



 ◆   ◆   ◆



「レイよ、お主には遠征についてきて欲しいといったのを覚えておるな?」

「はい」


 僕は夕食の後で寮の学園長の部屋に呼び出されていた。学園長の部屋には初めて入ったけど、ぬいぐるみがたくさん置いてある。可愛いものがすきなのかもしれない。


 何の件かと思ったら、大氾濫と対抗するための遠征の話だった。


 何かあったのかな?


「このままではお主を連れて行けそうにない。理由はお主が男だということじゃ」

「そ、そうですか……」


 学園でもそうだけど、できるだけ他の生徒と会わないようにしているからこそ、今ここでこうして寮母として働かせてもらっている。


 部隊についていくとなったら、隠しきれるものじゃない。学園長の話は納得できるものだ。


 こうなったら、姿を隠す魔法でこっそりついていくしかないだろうか。


「そこで、非常に言いづらいのじゃが、お主に一つ提案がある」


 学園長が神妙な顔になって僕を見つめる。


 ――ゴクリッ


 何を言われるのか分からず僕の喉が鳴った。


「なんでしょうか?」

「うむ……お主、女にならんか?」

「え?」


 男は女にはなれない。


 学園長の言っている言葉が一瞬意味が分からなかった。


「女装してくれんか、ということじゃ」

「あぁ、なるほど。そういうことですか!!」


 学園長が言い直してくれたことでようやく腑に落ちる。


 でも、思えば確かに学園長の言う通りだ。僕が女の子の見た目をしていれば、ついていくのに何も問題ないじゃないか。


「うむ。お主には申し訳ないんじゃが、本来いないはずのお主を部隊に参加させるのが難しかったのじゃ、しかも男の。でも、お主が女だとすれば話は変わる。後方支援に雇ったとしてねじ込むのも難しくはない。そこでどうじゃろうか? 女装して参加してくれるか?」

「はい、勿論です!! 一番大事なのは皆のご飯を作ること。女装をするくらいなんでもないですよ」


 申し訳なさそうな学園長だけど、女装するくらいでついていけるのなら、その程度なんてことはない。


「すまんな。こんなことを頼んで。それにしても案外すんなり受け入れたのう」

「女装、というか女の子の恰好をするのは慣れてるので」

「なんじゃと!?」


 僕の説明を聞いた学園長が目を見開いた。


「婆ちゃんと暮らしている時、良く婆ちゃんが『男の娘きたぁあああっ』って叫びながら僕に女の子の服を着せてましたから。よく意味は分からなかったですけど」


 今思えば、婆ちゃんはなんであんなことをさせていたんだろう。いなくなってしまった今、もう聞きようはないけど。


 学園長なら何か知っているだろうか。


「そ、そうか……師匠、ちょっと業が深いのう……」

「何か言いましたか?」

「いや、何でもない。承諾してくれて助かった。お主は寮生の部隊に配属するつもりなので、何かあったら皆を頼るようにの。後で必要な物を用意する。それと、あえて言うまでもない事じゃが、くれぐれもバレぬようにな」

「はい、分かりました」


 学園長はどこか遠い目をしていたのでそれ以上何かを聞くのは止めた。


 

 次の日。

 

「……ということになった。皆フォローしてやってくれ」


 朝食を食べた後で、学園長が皆に昨日の件を説明した。


「確かにそれが一番自然に参加できる形ですね」

「だねぇ」


 寮生たちは学園長の話を聞いて納得するようにウンウンと頷いている。


「学園長の話は分かりました。私たちにお任せください。遠征までにレイさんを立派な淑女にしてみせます」

「うむ、頼んだぞ」


 翡翠さんが、目をキラキラとさせてやる気を出していた。


 学園はすでに遠征に備えてお休みとなっている。


 僕は遠征に出発するまでに間、皆に淑女の立ち振る舞いを教わることになった。


「ちょっと……前から線が細いとは思っていたけど、女の子より女の子してない?」

「分かる」

「ありがとうございます?」


 ウィッグをつけ、この学校の制服を着た時、皆が苦虫をかみつぶしたような顔をしていたのはなんでだろうか。


「レイナと申します。よろしくお願いいたします」

「完璧ですね」


 皆に指導された結果、僕は立派な淑女?になることができた。

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