第036話 大氾濫に向けて

あけましておめでとうございます。

本年もよろしくお願いいたします。


■■■


「それにしても、魔力まで強くなるなんてあんたの体操とマッサージは一体どうなってんの?」

「いやいや、体操とマッサージにそんな効果はありませんよ。ただの凝りをほぐすためのものですから」


 そんな効果があるなんて初耳だ。


 婆ちゃんもそんなこと言ってなかった。


 ラジオ体操とマッサージなんて、所詮一般人の婆ちゃんが教えてくれた家庭の技術。魔力の凝りをほぐすことはできても、魔力を強くしたりはできない。


「そんなわけないでしょ!! 現に皆の魔力が数倍になってるじゃない」

「本当ですって。多分凝りがほぐれて本来の力が出せるようになっただけですよ」


 ルビィさんが僕に詰め寄ってくるけど、本当にそんな効果ないんだから仕方ない。


 もし、そんな効果を感じるのだとすれば、皆の魔力の凝りが相当に酷いからだと思う。凝りが解消されてようやく普通に力をだせるようになっただけ。


 皆ハードな訓練とかしているみたいだから、訓練後のケアが足りていなかったんじゃないかな。


「はぁ……まぁいいわ。とりあえず、私たちは普段より、相当強くなってるのは感じるわよね」


 とりあえす、ルビィさんは納得してくれたらしい。


 ただの民間療法だからね。そこまで大きな力はないのは当然の話だ。


「うん、いつもより調子がいいね。今ならどんな敵だって倒せそう」

「はい。レイさんのご飯を食べなくても同学年の方々に勝てそうですね」

「少し訓練しない?」

「いいね。面白そう」

「ぜひ、参加させてください」

「私もする」


 よく分からないけど、皆嬉しそうだから何よりだ。


「私たち、訓練に出かけてくるから」

「えっと、もう門限過ぎてますよ?」


 もう時間は21時を回っている。すでに外出禁止の時間だ。


「これは大氾濫に備えた練習。それで申請すれば問題ないはず」


 彼女たちの言う通り、今回は大氾濫という国の存亡をかけた戦いが目前に迫っている。門限なんて守っている場合じゃないか。


「分かりました。皆さんに勝ってもらわないと僕は死んでしまいますし、学園長には僕から報告しておきますね」

「はぁ……あんたが死ぬわけないでしょ?」

「え、どうしてですか?」


 ルビィさんは僕が死なない確信があるみたいだ。


 なんでそんなことが分かるんだろう?


「なんでもないわ。そんな気がしただけよ。行ってくるわね」

「……はい、いってらっしゃい」


 ルビィさんは首を振ったと、他のみんなと園内にある訓練施設に向かった。


 もしかして、僕が死なないのは、寮の皆が守ってくれるからってことだったりするのかな?


 それなら嬉しいけど、己惚うぬぼれすぎかも。


 そうだ。訓練してくるならお腹を空かせて帰ってくることになる。簡単につまめるものを作っておこう。


 僕は、一般人のために頑張る皆のために夜食を作り始めた。



 ◆   ◆   ◆



「はぁああああっ!!」

「やぁっ!!」


 ――キィンッ


 私とラピスの魔装がぶつかり合う。


 衝撃波が球状に広がり、施設内の壁をビリビリと震わせた。


「すっごいね、レイ君の体操とマッサージ。まるでグルグル巻きにされた鎖がちぎれて壊れてしまったみたいだよ」

「そうね、アイツはその効果を全く認めようとしなかったけどね」

「あはははっ。相変わらず無自覚すぎるよね」

「ホントよ。何を言っても無理そうだから、そこは諦めることにしたわ」

「それが懸命だよ」


 お互いに笑いながら剣を交える。


 レイの体操とマッサージを受けた私たちは普段の9倍は早く動けるようになったし、攻撃力も同じくらい上がっていた。


 レイのご飯との相乗効果で、絶大な力を発揮している。


 今の私たちなら幻級でも相手にできるんじゃないだろうか。


 マッサージはともかく、私たちでも体操は皆にも教えられる。体操は食事と違って続けていれば、永続的な効果を得ることができるし、国の滅亡が掛かっている以上、少しでも戦力が上がるのなら広めたほうがいい。


 多分レイなら許してくれると思うけど、勝手に情報を漏らすのは良くない。後で断りを入れておこう。マッサージの件もどうにかできないか考えてみようと思う。


「ほら、ぼーっとしてないでいくよ!!」


 考えごとをしているのを見透かしてラピスが私を弾き飛ばす。


「分かってるわ、よ!!」


 私たちは気が済むまで組み手をした。


 次の日、案の定皆で寝坊して授業に遅刻した。



 ◆   ◆   ◆

 


 それから一週間後、戦乙女ヴァルキリー部隊が大氾濫を鎮めるための遠征に出た。


 学園長に要請された通り、僕もそれについていく、として。

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