第035話 実証

「レ、レイさんのお陰で、せ、戦闘にも参加させてもらえるようになりました……ありがとうございます」


 その日の夕食の後、再びコクヨウさんに頭を下げられてしまった。


 他の寮生の方たちが何事かという表情で僕たちを見ている。


「い、いえ、僕は大したことはしてませんから」


 ラジオ体操を教えてマッサージをしただけでこんなに感謝されるとは……。


 皆の視線が恥ずかしい。


「な、何かあったら言ってください……で、できることならなんでもします……」


 今のところ、コクヨウさんにしてほしいことは思い浮かばないので保留にしておこう。


「分かりました。お願いしたいことができたら、相談しますね」

「は、はい……い、いつでも待ってます……」


 コクヨウさんは深々と頭を下げて食堂から去っていった。


「あんた、コクヨウに一体何をしたの?」


 コクヨウさんの背中を見送ったルビィさんが、僕を睨みつける。


 え、何をそんなに怒ってるんだろう。


「体操とちょっとしたマッサージをしただけですよ?」

「マッサージ!? 前に女の子の体には勝手に触るなとあれ程――」

「それは分かってますよ。きちんとコクヨウさんに許可をもらいましたから。変なことはしてません。婆ちゃんに誓って!!」


 ルビィさんから説教されそうになったので、慌てて訂正すると、彼女は落ち着きを取り戻した。


「そ、そう。それなら、コクヨウはなんであんなに嬉しそうなのよ」


 ルビィさんはバツが悪そうな顔で、コクヨウさんがああなった理由を尋ねてくる。


 別に隠すようなことでもないので、説明しようと思ったんだけど、


「コクヨウ、魔装使えるようになった」

「へ?」

「レイのおかげだって言ってた」


 セルレさんが僕の代わりに説明してくれた。


 ルビィさんはぽかーんとした顔になる。


「いやいや、ありえないでしょ!! あの子はずっと魔装が使えないことを悩んでいた。それがたった1日で使えるようになるなんて……」


 ハッと我に返ったルビィさんが叫ぶ。


 あのくらいの魔力のコリは婆ちゃんが麓の村で何度もほぐすのを見てきた。素人に毛が生えた程度の僕でも1日で治せる。


「私も最初はそう思った。でも授業で成功させてた。証人は沢山いる。嘘じゃない」

「いったいどんな体操を教えて、どんなマッサージをしたらそうなるのよ」

「やってみます? 簡単な体操なので」


 未だに魔装を使えるようになったことを信じ切れないみたいなので、実際にやってもらうのが一番だ。それに、このままじゃいつまでたっても納得しそうにない。


「そうね。俄かには信じられないし、受けて立つわ」


 僕は皆にラジオ体操を教えた。


 一緒に実際にやってみた結果、


「えぇえええええっ!? 何これ、すっごく体が軽い」

「僕も!!」

「私もこれほど体が楽になったことはありません」

「楽」


 皆大絶賛してくれた。


「これで僕はおかしなことはしていないと信じてもらえましたかね?」

「いえ、まだよ。まだマッサージが残っているわ」


 体操で満足してもらえたと思ったら、マッサージの方も検証したいらしい。


 こうなったら、最後まで付き合う他にない。


「でも、体を触られたくないんじゃ?」

「私は構わないわ。やってちょうだい」

「分かりました。アタタタタタタ……」


 4人全員の許可をもらったところで、全員の魔穴を突いた。


 これで、魔力がよりスムーズに流れるようになって、体内に溜まっていた老廃物が消えていく。


「凄い。今まではパンパンになったリュックを背負っていたんじゃないかと思うくらいに体が軽くなった」

「僕も」

「私もです」

「同じ」


 ルビィさんを筆頭に温泉に浸かっているようなとろけた顔になっていた。


「確かにこれほど効果があるなら魔装が使えるようになっても不思議じゃないかも」


 そこでようやく僕の嫌疑は晴れた。

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