第034話 ラジオ体操とマッサージ
早朝まで野菜や集めて寮に帰ってくると、裏庭の畑がないところに人影が見えた。
「はっ!! やぁ!! たぁ!!」
不審人物かと思ったけど、それはコクヨウさんだった。朝の体操かなんかをしているんだろうか?
婆ちゃんがラジオ体操は健康の元だって言ってたっけ。
僕はしばらくその様子を見ていた。
「ひ、ひぇええええっ……!? レ、レイさん……!? い、いつからそこに……!?」
しばらく見てると、コクヨウさんが僕に驚いて飛び上がる。
まさかそんな驚かれると思わなかった。ちょっと申し訳ないことしたな。
「少し前からですよ」
「み、見てたんですか……?」
「はい」
「すみません、お見苦しいところをお見せして……」
何故か申し訳なさそうに言うコクヨウさん。
「なんのことですか?」
理由が分からなかったので尋ねる。
「え、えっと、魔装を発現させる練習なんて見せてしまったので……」
「いえ、とても興味深ったです。どうしてこんな時間に練習を?」
あれは魔装の練習だったのか。僕はてっきり体操か何かだと思っていた。
新しい体操なら覚えておいて損はないと思っていたんだけど、全然違ったらしい。
「え、えっと、私、まだ魔装が使えなくて……お、教わった通りにやってるんですけど、全然発現できないんです……今度の大氾濫でもわ、私だけ戦えないから、どうしても発現させたくて……」
「なるほど。そういうことだったんですね」
そういえば、学園長がそんなことを言っていた。
それが悔しかったのか。おどおどしているように見えて、芯はしっかりしている女の子だったみたいだ。
「す、すみません、こんなことを言っても男のレイさんには分かりませんよね……」
コクヨウさんはしゅんと落ち込んでしまう。
僕も何か力になれればいいんだけど……あっ、確か婆ちゃんが麓の村で似たような相談を受けていたような気がする。
「魔法は使えるんですよね?」
「は、はい……」
「その時、何か使いにくいとか、詰まってるとか、ありますか?」
「は、はい……!! な、なんで分かったんですか……!?」
ふーん、やっぱり婆ちゃんが聞いていた話によく似ていた。
思いついたことがあった僕は提案してみる。
「それじゃあ、ちょっと僕と同じ動きを真似してもらってもいいですか?」
「わ、分かりました……」
僕は婆ちゃんに教わったラジオ体操を掛け声を出しながら実演して、コクヨウさんにもやってもらった。
「こ、こんなので本当に直るんですか……?」
「とりあえず、魔装を出してもらってもいいですか?」
「わ、分かりました……」
疑うような視線を向けてくるコクヨウさんの質問には答えず、魔装を出してもらう。
「はぁっ!!」
コクヨウさんが手を前に突きだして気合を入れると、手の先に魔力が集まり始めた。
「え……」
徐々に収束していき、武器の形を取り始める。
「あっ……」
しかし、その途中で魔力が霧散してしまった。
「おしかったですね?」
「す、凄い……!! 今まで一度もここまで行けなかったのに……」
やっぱり魔力の流れがどこかで詰まっているみたいだ。普通ならラジオ体操をすれば、詰まりも開通するはずなんだけど、コクヨウさんの魔力のつまりは頑固らしい。
「でも、少し足りなかったみたいです」
「そ、そうですね……」
「もし、嫌じゃなければ、少し体を触ってもいいですか? ……触るのはほんの先っちょだけ、先っちょだけなので」
ルビィさんに男が女の人に勝手に触ったらだめだと言われているので、きちんと確認する。
「え、えっと……それはちょっと……」
コクヨウさんが体を僕から隠すように離れた。
ルビィさんの言う通り、女の人は男に体を触られるのが嫌らしい。
「そうですか……それで解決すると思うんですけど」
触りさえすれば、魔力のつまりは解消できるはずだけど、コクヨウさんが嫌なら仕方ないか。
ラジオ体操を続けていれば、そのうちつまりも解消するはずだ。
「………………わ、分かりました……そ、それで本当に魔装が出せるようになるんですね……?」
暫く悩んでいたコクヨウさんは決意した表情で聞いてくる。
「はい、勿論です」
「い、いいです……やってください……!!」
「分かりました。行きますよ、アストラル流按摩術、魔穴四十八指。アタタタタタタタタタッ……!! タァッ!!」
「うっ」
僕はコクヨウさんに近づき、魔力の流れを司るツボを突いて魔力の流れを活性化させ、魔力の強い流れによって、魔力の詰まりを貫通させた。
これで詰まっていた場所に固まっていた魔力の塊もこなごなになったはずだ。
「どうですか?」
「え、え……? す、凄く体が軽いです……!!」
コクヨウさんは腕をグルグル回したり、身体を捻ったりしながら驚いていた。
魔装のことを聞いていたんだけど、そういえば、魔力の流れが詰まると体にも症状が出るんだった。
「ああ。確かに魔力が滞ると身体機能にも影響が出るんですよね。それが解消されたんだと思います」
「か、体がこんなに軽いのは生まれて初めてです……!!」
いつもオドオドしているコクヨウさんがはしゃいでいる。これは貴重な場面かもしれない。
「それは良かった。それで魔装はどうですか?」
「は、はい……やってみます……!! ……やぁ!!」
ハッとしたコクヨウさんは両手を突き出し、気合を入れた。
再び魔力が集まり、形を形成していく。魔力は両手に収束して、漆黒の二本の短剣が顕現した。
「せ、成功しました……!!」
コクヨウさんは生み出された二本の短剣に目をキラキラさせている。
「おめでとうございます」
「あ、ありがとうございます……それもこれもレイさんのおかげです……!!」
僕は声を掛けると、コクヨウさんは深々と頭を下げた。
「いやいや、僕はラジオ体操と少しマッサージをしただけですから。そんなの気にしないでください」
「は、はい……本当にありがとうございました。それじゃあ、私部屋に戻りますね」
頭を上げさせると、コクヨウさんは去っていった。
婆ちゃんからラジオ体操とマッサージ習っといて良かったぁ。
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