第019話 食い違う情報
私――ルビィ・ブラッドレイはまだ日も空けぬうちから、モンスター討伐の目的地であるオルケスの森を目指している。
討伐目標は森に巣食う百匹程度のオークの群れ。群れのボスはオークキング。超級のモンスターだ。私はオークキングの二つ上の王級。簡単に終わる任務だ。移動時間の方が長いくらい。
「全く……アイツは……」
馬車に揺られていると、昨日の不快な出来事を思い出す。またアイツに着替えを覗かれた。
皆はすっかり胃袋を掴まれてしまってアイツを寮母として認める雰囲気になっているけど、やっぱりアイツが女子寮の寮母なんてお断りだ。
私はそんなにチョロい女じゃない。
た、確かに料理が美味しいし、その他の家事も完璧……それどころか異常。アイツの料理を食べたら、調子が良くなって一日数倍の力が出せるようになるし、年季が入っていたはずの寮も、外も中もピッカピカだけど……。
で、でも私は許さない。何度も他人の着替えを覗くような変態と同じ屋根の下で暮らすなんてありえないんだから!!
絶対に追い出してやる!!
「あっ」
アイツのことを考えていたら、あることに気付いて声を漏らす。
それはアイツが作ったお弁当を持ってくるのを忘れたこと。持って行ってくれと言われていたことのにうっかりしていた。
「まぁ……すぐ終わるし、問題ないでしょ」
そのとき私は楽観的に考えていた。
「ん!? これはマズいわ」
日が昇り、もうすぐ森に着くというところで私は異常に気付いた。なぜなら森の外まで強いモンスターの気配を感じるから。
今回の依頼の規模なら、森の奥で集落を形成していて、森の浅いところで少数のオークを見かけて依頼に繋がったという流れのはず。
それなのに、森の至るところからモンスターの気配を感じていた。
明らかに百匹なんて数じゃ済まない。
「私は行きますね。ちょっと危険そうなので、森から離れてください」
「あ、はい」
御者を務めてくれた人に指示を出して馬車を降り、近くの村に走る。
急いで住人たちを森から遠くに逃がさなければならない。
「すみません」
「はい、どうされましたか?」
私は村で最初に見かけた人に声を掛ける。
「私はルビィ・ブラッドレイと申します。オークの群れの討伐依頼を受けてきた
私は身分証を見せながら尋ねた。
「あぁ、オークを倒してくれる方ですか。何かご用で?」
「落ち着いて聞いてください。森から沢山のモンスターが迫ってきています。一刻も早く避難が必要です」
「な、なんだって!? それはエラいこっちゃ!!」
村人は私の話を聞いて慌てて村長の家まで案内してくれた。村長に事情を説明し、すぐに避難の準備に取り掛かる。
私は森の中に入って様子を窺う。
「武装したオークが六匹……森の端っこで隊を組んでるなんて百匹の群れじゃありえないわね。オークキングどころかもっと上、オークロード、いえ、この調子だとオークエンペラーもあり得るわ」
入って数分も経たない場所でオークの部隊と遭遇する。
オークキング程度では部下が武装しているなんてありえない。それに、隊列を組んで行動するということも。
少なくとも特級モンスターであるオークロードがいる。
ボスがオークロードの場合、その群れの規模は千匹を超える。そのくらいになると、群れの中でもきちんと階級や役割が分かれ、武具を作って装備をする者たちが出てくる。
でも、私の直感が囁く。もっと上位のモンスターだと。
オークロードが率いているにしては武具の質が高すぎる。それに末端の兵士にもかかわらず、普通のオークよりも一回り大きく、鍛え上げられている。
モンスターは弱肉強食。強いものが偉い。ここまで統治が行き届いているのだとしたら、その一番上には圧倒的な強者がいるはずだ。
オークロードでは力不足。この群れのボスはオークエンペラーに違いない。
「情報と違いすぎるじゃない……」
オークエンペラーになれば、末端まで入れれば群れの規模は一万匹以上。超級や特級のモンスターも数百匹はいるはずだ。オークキングとは危険度が違いすぎる。
きちんとした情報を掴んでいないなんて、一体、国は何を考えているのかしら……もしかして私をハメるため?
面倒な事ね。それで困る人たちがいるというのに。
でも、今はそんなことを言っている場合じゃない。まずは偵察部隊を殺して、少しでもオークの群れの足止めして時間を稼がないと。
「魔装:炎帝剣」
私は右手に魔装を顕現させる。
魔装とは自分の魂を魔力によって具現化させた武装。女だけが使える強大な敵に抗うための力だ。
私の魔装は細身で深紅のバスタードソード。
「はっ!!」
その効果は斬り裂いたモノを焼き尽くす。
オークの部隊に近づいて一閃。オークは断末魔を上げることもできないまま、斬られた傍から体が燃え上がり、一瞬で灰となる。
「ブギィッ!?」
突然現れた私に驚くオーク。応援を呼ばれたり、状況を知らされる前に、その場にいたオークを全員斬り捨てる。
六匹いたオークは灰となって消えた。
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