第020話 孤軍奮闘
「ふぅ……これですぐにこっちの状況が知られることはないわね」
斥候部隊が帰ってこなければいずれおかしいことに気付かれる。
でも、今は何よりもそのいずれまでの時間が欲しい。
「次はあっちね」
私は身を隠し、魔力を探ってオークの部隊を見つけては次々と斬り捨てる。
「そろそろいいかしら」
森の浅いところを徘徊していたオーク部隊は全滅させた。後は村の人たちが逃げていてくれれば、戦いに集中できる。
私は確認のため、一度村に戻った。
村に人の気配はない。全員指示通り、避難してくれたみたいね。
ここからが本番だ。
最弱の斥候部隊がやられたオークは、次にハイオークやオークジェネラルと言った上位種で組んだ部隊で威力偵察に切り替えてくるはずだ。
村はここしかないけど、一万以上の群れが森からあふれ出したら、ここ以外の村や街を侵攻していくはず。
そんな余力を持たせないように、こっちの戦力を様子見している間にできるだけ戦力を削いでおきたい。
「いた」
森に戻って奥に進むと、案の定オークとハイオークやジェネラルで構成された二十匹以上の部隊が警戒しながらこちらに向かってきていた。
私にとってはハイオークもオークジェネラルも大して変わらない。すぐに奇襲を仕掛けて灰にする。
部隊が森のあちこちに散らばっているせいで倒すのに時間がかかったけど、出てきた部隊を全て潰して回った。
「ようやくお出ましね」
何度送っても部隊が戻ってこないのを知り、強い気配が動き出す。
私もその気配に向かって進んでいく。
「ふーん、キングとロードの混合部隊なんて結構豪勢じゃない」
おそらく近衛隊みたいな部隊を送って来たって感じかしら。
「はぁっ!!」
「ブギィイイイイッ!!」
奇襲で数匹のオークキングを切り裂いた。しかし、全員は倒せていない。オークロードが私に二メートル以上ありそうな大剣を振り下ろす。
最小限の動きで躱すと、大剣が地面に叩きつけられて少し陥没する。私は大剣の上を走って飛び上がり、オークロードの頭に剣を突き刺す。
剣の熱で体内の血が沸騰し、顔がボコボコと膨れ上がった。
隙を狙って、私の左右から二匹のオークロードが挟み込むように大剣を振るってくる。
頭を蹴った勢いで剣を引き抜いて後転。オークロード同士の剣がぶつかり合い、凄まじい音と衝撃波が広がった。
その直後、私が剣を刺したオーク―ロードの頭が爆発して血肉をぶちまける。
地面に着地した私に追い打ちをかけるように囲んで剣を突き刺してくるキングとロード。弱いキングの斬撃を受け流しながら距離を詰め、胴を切り裂いて包囲網を破った。
流石の私もこのレベルになってくると一瞬で葬り去るのは難しい。
それに、何より場所が悪い。私の魔装は火だ。森とは本当に相性が悪い。
森の中では一歩間違えれば、木に火が燃え移り、大きな森林火災に発展しかねない。
そうなると、モンスターだけでなく、村や街へも影響が出るかもしれない。そして、仮に森が全焼してなくなってしまうと、自然災害が増えたり、病が流行ったりする可能性がある。
できればそれは避けたい。
そのためにも、効果範囲の広い攻撃はせず、剣を振って数を減らさなきゃいけない。
いつも、派手な範囲攻撃で敵を一気に殲滅しているので、ひどくストレスが溜まる。
あぁ~、もう!!
それに、いつもより体が重い。最近調子が良かったせいで余計にそう感じる。それもこれもレイの朝ご飯を食べていないからだ。
アイツのご飯を食べていたら、キングでもロードでも一瞬で葬り去れたのに。朝ご飯はいらないなんて言わずに食べてくれば良かった。せめてお弁当があれば…………って何考えてんの私!! アイツの力なんて借りなくたってこんなやつら簡単に倒せるんだから!!
私は無意識にアイツを頼りにしている自分に気づき、頭を振って気持ちを切り替える。
「やぁあああああっ!!」
私はモヤモヤした気持ちを吹き飛ばすようにロードたちに突撃した。
「ふぅ……なんとか倒せたわね」
格下と言えど、やはり数が揃うと厳しい。そして、相手は私を休ませる気はないみたいだ。奥から先ほどと同じようにロードだけで構成された部隊が迫ってくる。
しかも狡猾なのは、ロードの部隊を私がいる方に当ててきて、弱い部隊を森の外に送ろうとしていることだ。
小さな魔力のグループのいくつかが森の外を目指して侵攻しているのを感じる。
「知恵が回るモンスターって本当に嫌になるわね……」
少し憂鬱になりながら息を吐いて構え直してロードの部隊と相対する。
私は森の外にモンスターを出さないように、できるだけ急いでロードの部隊を倒した後、外に向かう敵を目指して走った。
何度も同じように部隊を差し向けられ、森の中を振り回されるはめに。
「はぁ……はぁ……」
そのせいで徐々に私の体力を削られていく。
戦いは戦力と体力の消耗戦に移行していた。
私の体力が尽きるのが先か、オークの戦力が尽きるのが先か。
それが勝敗を分ける。
私は必死に剣を振るい続けた。
「はぁ……はぁ……はぁ……はぁ……」
そして、私の体力が尽きかけた頃、オークエンペラーは姿を現した。
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