第018話 モンスター討伐依頼

「よく来てくれた」

「いえ、本日はどのようなご用件ですか?」


 私―ルビィ・ブラッドレイは授業終了後、学園長室を訪れていた。


 理由は緊急の呼び出しを受けていたから。


「うむ。部隊が動けそうにないので、また王級の君にモンスター討伐に出てもらいたいのじゃ」


 学園長の話はいつも通りモンスター討伐の依頼だった。


 私は入学前からすでに特級ランクの戦乙女ヴァルキリーとして国に登録され、試験の時に現役の戦乙女ヴァルキリーを倒して入学している。


 そのため、これまで何度も依頼を受けている。そして、一年かけて私は王級になっていた。


「詳しい内容を教えてください」

「分かった」


 学園長から教えてもらった内容は私にとっては簡単な部類。オークという二足歩行の豚のようなモンスターが作った小さな集落の討伐だった。


 私に頼む依頼にしては簡単すぎると思ったものの、問題ないと思った私はそのまま依頼を受けた。


 それに私は一刻も早く神級にならなければならない。そのためにも実績はいくらでも必要だ。迷っている時間なんてなかった。



 ◆   ◆   ◆



「本当に大丈夫でしょうか?」


 キリカが心配そうな表情で呟く。


「ん? ルビィ君のことか?」

「はい。虚偽の内容を伝えるなんて」


 ワシは今回の依頼についてルビィ君に嘘の内容を伝えていた。


 その理由はレイの力を実際に見るため。


 レイは寮母として学校から動かない。しかし、寮母の仕事となれば動くはずだ。それはワイバーンの件から見ても明らか。


 寮生に危険が迫れば、助けに動くのではないかと思っている。


 それに、ルビィ君はレイを嫌っておるようじゃが、ピンチにレイが颯爽駆けつけて彼女を助ければ、気持ちに変化が起きるはずじゃ。


 少なくとも悪感情は減退するはずだろう。上手くいけば、好感を抱くところまでいくかもしれん。


 そうなればこっちのものじゃ。


「ルビィ君は王級じゃし、万が一の場合は待機させている部隊が出る。問題なかろう」


 ルビィ君に伝えたモンスターのボスは超級レベル。しかし、実際は今モンスターのボスは王級。しかもボスの下には特級ランクのモンスターがうようよしている。


 ルビィ君でも危ういモンスターの質と量だ。でも、ルビィ君はボスと同じ王級。少なくとも逃げることは可能なはず。


 王級に対応可能な部隊長を付けた討伐部隊を待機させておけば、問題ないじゃろう。


「そうだといいんですが……」


 キリカは心配そうに外を見つめた。



 ◆   ◆   ◆



「明日、オーク討伐に行くことになったわ」


 夕食の席でルビィさんがそんなことを言った。


 なんでもモンスターという人々に害をなす凶悪な獣を倒しに行くらしい。


 学園の近くにある魔境と呼ばれるモンスターが沢山いる場所から時折人間の領域に入ってきて、村や街を襲い、多くの人が殺されたり、建物が破壊されたりするらしい。


 世の中にはなんとも恐ろしい存在がいるものだ。


「ルビィ一人ってことはそんなに大したことはないって感じ?」

「ええ。オーク百匹程度の群れだそうだから」

「なーんだ。それなら大丈夫だね」


 皆は焦っていないけど、そんな危ない存在がいるところにルビィさんを一人で行かせることが不安だった。


「それって大丈夫なんですか?」

「ふんっ。私はすでに国に登録された正式な戦乙女ヴァルキリーよ。その程度のモンスターはこれまで何度も倒してきたわ。問題ないわよ」

「そうですか……」


 会話に割り込んだせいか、未だに敵意があるからか、ルビィさんは不機嫌そうに腕を組んで答えた。


 この学園はモンスターを討伐する戦乙女ヴァルキリーを養成する機関。卒業後は、国を守るためにモンスターを討伐する仕事に就く。


 だから、在学中から任務に慣れておくのは良いことだという。


 それに、今回の戦う相手はそれほど強いモンスターではないので、万が一ということもないらしい。


「それと、明日、いつもよりも早く出るから朝ご飯はいらないわ」

「それだと力が出ませんよ?」

「大した依頼じゃないから食べなくてもいいわ」

「……分かりました。お弁当を作っておくので持って行ってくださいね」


 いらないという物を無理やり押し付けるわけにもいかない。僕は朝とお昼のお弁当を持って行ってもらい、道中で食べてもらうことにした。


「別にいらないのに」


 お弁当も受け取ろうとしないルビィさんだけど、目的地に行くまでなら食べる時間くらいあるはずだ。


「このくらいはさせてください」

「ふんっ。分かったわよ」


 渋々と言った様子でルビィさんは頷いた。


 ただ、話を聞いた後も僕は心配だった。


 それに、僕は寮母としてこの寮を預かる身。その業務には寮生の健康管理も含まれている。寮生を死なせるようなことがあってはならない。


 できる限り、万全の状態で討伐に臨んでもらいたかった。


「ルビィさん、マッサージはいかがですか?」

「きゃぁっ!! 勝手に入ってこないでよ、変態!!」


 そう思ってノックをしてルビィさんの部屋に入ると、彼女はまた着替え中だった。


 とても均整のとれた綺麗な体が僕の目に入る。そして、またしてもルビィさんのおっぱいに僕の視線は吸い寄せられた。


 これってなんなんだろう。


 自分の体を突き動かす感情を疑問に思った次の瞬間、殴られて部屋から叩き出された。


 あぁ~、心配する余りまたやってしまった……後で謝らないと……。


 僕はガックリと肩を落として自室へと帰った。


 次の日、ルビィさんはお弁当を忘れていった。

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