第011話 無実の証明

「僕は誓ってそんなことしてません!!」

「はんっ。それはどうかしら?」


 ブラッドレイさんが不機嫌そうな顔で口を挟む。


 何か言いたいことがあるらしい。


「どういうことですか?」

「僕たち、今日一日身体がおかしかったんだよね」


 僕の質問にブラッドレイさんの代わりにスカイロードさんが答えた。


「え?」


 僕にはその答えが信じられなかった。


 体に悪影響があるような食材は一切使っていない。それどころか、体調を食材ばかりだ。体調を崩すなんてありえない。


 僕は一度だって怪我も病気もしたことがないんだから。


「あっ、ごめん。言い方が悪かった。体の調子が良すぎておかしかったんだ」

「な、なるほど。そうでしたか」


 調子が悪くなったわけじゃないと知ってホッとした。


「どうやら心当たりがあるようね?」


 僕の顔を見て肩眉を吊り上げるブラッドレイさん。


「いえ、違法な薬物に心当たりはありません。でも皆が快適に一日を過ごせるように、調食材で料理を作ったので調子が良いのは当然かなと」

「言い逃れする気? それだけで魔法の威力が数倍になる訳ないでしょ!! それにさっきの掃除もどうせやましい事したんだでしょ!!」


 うーん、数倍は言い過ぎだと思うけど、調子が良くなったのになんでブラッドレイさんは怒ってるんだろ?


 僕は彼女の態度に困惑する。


「まぁまぁルビィ君。少し落ち着くのじゃ。今のところ薬物を入れたという証拠はない。それに、戦場で冷静な判断力が求められる戦乙女ヴァルキリーが最初から決めつけるようなことをしてはいかん」

「あっ、すみません……」


 ブラッドレイさんは学園長の言葉にハッと我に返って頭を下げた。


「謝る相手が違うのではないか?」

「ご、ごめんなさい……」


 学園長に指摘されて僕の方を向いて謝罪し直すブラッドレイさん。


「いえ、僕は気にしていません」

「これからは気を付けるのじゃぞ。それでレイよ。お主が朝食に使った食材を見せてはもらえぬか?」

「分かりました」


 僕は冷蔵庫に入れた食材を出して並べた。その食材を一つ一つ学園長が確認していく。


「ふむ。どれも毒物ではなさそうじゃの。後はこの食材を使って料理をして食べて、同じ効果が出たら無実はハッキリする。レイ、料理を作ってくれるか?」

「勿論です」


 僕は朝と同じメニューを作って学園長の前に置いた。


「これがそうか……いただきます。どれ……」


 手を合わせて食前の挨拶をした学園長は味噌汁を口に含む。


「これは!?」


 学園長はカッと目を見開いた。 


「美味過ぎる!! なんだこれは。ワシはこれほど美味いみそ汁を飲んだことがないぞ!! 全ての食材と味噌が完全に調和して深い味わいを実現しておる」

「あはははっ。褒めていただいてありがとうございます」


 続けられた言葉は絶賛の嵐。


 お世辞でも嬉しいな。


 見た目はともかくここで一番長生きしているであろう学園長は、美味しい料理を沢山食べてきたはずだ。その学園長が一番美味しいと思った味噌汁よりも、田舎者の僕が作った味噌汁が美味しいわけがない。


「美味い。美味い。どの料理も美味い。なんなんじゃこれは!!」


 その後も学園長は美味しそうに食べてくれた。


 お世辞でも美味しそうに食べてもらえることが僕は嬉しかった。


「馳走になったのう、力が漲ってくるのが分かるのじゃ」


 嘘でも腹を擦る学園長。


「学園長!! 今すぐ戻ってください!!」

「キリカか、どうしたのじゃ?」


 そこに血相を変えたキリカさんがやってきた。


「この学園に飛行モンスターの群れが向かって来ています」

「ほほう。それはちょうどいい。料理の成果を見てみようかの」


 その話を聞いた学園長は口端を吊り上げる。


 僕たちは全員で寮の外に出た。


「ふむ。中々の数じゃの」


 空を見上げると、黒い靄のようなものが見えた。目を凝らすとそれは全て鳥だった。


「それではいってみようかの。ライトニングストーム!!」


 学園長は手に金色に光る杖を出現させると、鳥に向けて魔法を放った。


 ――バリバリバリッ

 ――ズドォオオオオオオオオオンッ!!


 鳥の群れに稲妻の嵐が吹き荒れ、一瞬で黒焦げになって鳥たちは消滅した。


 あぁ……あの鳥美味しいのになぁ……勿体ない。


『はぁ!?』


 僕以外が口をそろえて叫ぶ。


 どうしたんだろう。


「な、なんなんじゃ、この威力は!? 普段の数倍の威力が出たぞ!?」

「やっぱり、薬なんて入ってなかったんだね」

「そんなわけが……」

「私は夢を見ているんでしょうか……」


 うーん、よく分からないけど、皆楽しそうだ。


「こ、これはどういうことじゃ? なんでこんなに調子がいいんじゃ?」


 学園長が僕の方に表情が抜けきったような顔でやってくる。


「え、体調を整える食材を使いましたから、調子が良くなって当然ですよね?」

「そんな訳あるかぁああああああああああっ!!」


 なぜか大声で怒鳴られてしまった。


 その後料理について何度も説明したけど、全然納得してもらえなかった。


 なんでだ……。


 でも、違法な薬物を使われていないことは証明され、僕は晴れて無罪となった。

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