第010話 認められるって嬉しい
「あれ?」
出迎えようとしたら、まだ誰も寮内に入ってきていなかった。玄関の扉を開けてみると、そこには寮を見上げて立ち尽くす三人の姿が。
「おかえりなさい、ブラッドレイさん、スカイロードさん、それと学園長? どうしたんですか、そんなところで突っ立って?」
なぜか、学園長まで来ているけど、何をしているのか気になって話しかける。
「どうしたもこうしたもないわ!! いったいこれはどういうことじゃ!?」
その途端、学園長がズンズンと僕に詰め寄ってきた。他の二人も後ろで学園長に同意するようにウンウンと頷いている。
「えっと、何のことですか?」
僕は何のことを指しているのか分からなくて困惑してしまう。
「本当に心当たりがないのかのう?」
「うーん」
もう一度考えてみる。
あっ、もしかして!!
「どうですか? 寮、綺麗になったでしょう?」
思い至った僕は、寮を紹介するようなポーズで自慢げに語った。
三人はあまりに寮が綺麗になっていて驚いたって話に違いない。
一日掛けてピカピカにしたからなぁ。朝とは比べ物にならないくらい綺麗になっているはずだ。
「な、なななな、なんで寮がこんなにきれいになっとるんじゃ!?」
学園長は目を白黒させながら僕に尋ねる。
なんでと言われても、僕がやったことはたった一つしかない。
「え、ハタキでパタパタとはたいただけですけど……」
「はぁ!? なんでそれだけで寮が新築みたいになるんじゃ!?」
「掃除ってそういうものでは?」
ハタキではたいたら、ホコリや汚れ、建物の損傷まで消える。これは実家を掃除しているときからそうだったし、世界共通認識だよね?
「は?」
「え?」
学園長がキョトンとした顔になった。
え、なに、なんなの!? 僕、何かおかしなこと言った?
学園長の反応を見て僕は不安になる。
「……本当にハタキではたいただけなんじゃな? 他に何もしていないんじゃな?」
「そうですよ?」
「うーむ」
返事をすると、学園長は腕を組んで考え込んでしまった。
真剣な表情にさらに不安が募る。
もしかして寮を綺麗にしちゃいけなかったのかな。寮の現状維持って昨日の状態を保てってことだったとか? このままじゃ解雇されてしまうかもしれない……。
「あ、あの、すみません……」
僕は居ても立ってもいられず、恐る恐る学園長に話しかける。
「なんじゃ?」
「僕……何か悪いことをしちゃいました?」
「あぁ~、いや、すまんかった。レイは何も悪くないから安心せい」
学園長はハッとした表情になって、申し訳なさそうに頭を軽く下げた。
「良かったぁ~。何か悪いことをしてしまったのかと」
僕がやったことが間違いじゃないと分かって心の底から安心した。
「いいや、むしろ悪かったの。こんなに綺麗にしてくれてありがとうな」
「いえ、これが寮母の仕事ですから」
学園長の言葉を聞いた僕は胸を大きく張った。仕事が認められて嬉しくなった。
「中も掃除したのかのう?」
「はい。勿論です」
「見せてもらってもよいか?」
「大丈夫ですよ」
学園長は寮の中が気になるらしい。
ふっふっふ、中もバッチリ綺麗にしたからぜひ見てもらいたい。
僕が先導して全員で寮内に入った。
「なん……だこれは……」
「ピッカピカだね……」
「同じ寮だとは思えないわ……」
三人が玄関を跨ぐなり呆然となる。
うんうん、そう言う反応を待ってました。僕は個室以外を案内して隅々まで綺麗にしたことを説明した。
「どうですか?」
「たった一日でまさかここまで綺麗にするとはのう。恐れ入ったのじゃ」
「ありがとうございます!!」
満足そうに頷く学園長を見て嬉しくなった僕は深々と頭を下げる。
「はっはっはっ。流石は師匠の孫じゃ……そこで、一つ提案があるんじゃが……」
学園長は鷹揚に笑った後、真剣な表情になった。
「なんですか?」
「うむ。実際に掃除をしている様子を見せてはくれんかの?」
「それは構わないんですが、寮内は全て掃除していまいまして……」
寮生の個室以外に掃除できる場所は残っていない。もし見せるとなったら、他の建物を掃除する必要がある。
他の生徒とあまり会わせたくないようだし、それは駄目な気がする。
「あっ、それなら僕の部屋を掃除してくれない?」
「ラピス!?」
スカイロードさんが手を上げて立候補する。それを見たブラッドレイさんが驚きの表情でスカイロードさんを見た。
「何?」
「部屋に男を入れるなんて……」
「別にいいじゃん。ただ掃除するだけだし。どうかな?」
困惑するブラッドレイさんを置き去りにしたまま話が進んでいく。
「ワシはお主がいいのなら構わん」
「スカイロードさんさえいいのであればやらせてください」
「分かった。レイ君にお願いするね」
任せられたからにはしっかりやらなねば。
「どうぞ」
「失礼するのじゃ」
「失礼します」
皆でスカイロードさんの部屋に入る。ぬいぐるみが好きなのか、彼女の部屋にはぬいぐるみが溢れていた。
婆ちゃん以外の誰かの部屋に入るのなんて初めてなので、思わず室内を観察してしまう。
「あんまりじろじろ見ないでほしいな……」
「すみません、それじゃあ、早速始めますね」
モジモジしながら恥ずかしそうにする彼女に頭を下げてハタキを具現化する。
「ま、魔装じゃと!?」
「あ、ありえない……」
「そんなバカな……」
後ろで何か言っているけど、僕は気にせずに壁を歩いて天井の端からはたいていく。
「な、なんなんじゃ!? ワシの目はおかしくなったのか!?」
「いえ、僕も意味不明過ぎて混乱してる」
「な、なんなのよ、こいつ……」
学園長たちはなんだか楽しそう。
「な、なんでじゃ? なんではたいたら真っ白になるんじゃ?」
「痛みや傷まで直ってる。何が起こってるの、これ」
「なんで天井に立ってるのよ……これって現実よね?」
学園長たちが三人で仲良く話している間にも僕は部屋のお掃除を続けていく。そして、十分ほどして僕は部屋を掃除を終えた。
「いかがでしたでしょうか?」
「あ~、いや、素晴らしい手前じゃったな?」
「うん、そうだね。ホント新築みたい。掃除してくれてありがとね」
「……」
ブラッドレイさんは考え込むように俯いているけど、学園長と部屋の持ち主であるスカイロードさんがニコニコと喜んでいるようなので問題ないはず。
「いえ、満足していただけたみたいで何よりです」
落ち着いたところで、ずっと疑問だったことを尋ねる。
「そういえば、なんで学園長がここに?」
「うむ。レイの仕事ぶりを見に来たのじゃ」
「そうだったんですね。それでどうでしたか?」
昨日の今日だし、学園長が心配するのも無理はないか。
「うむ。文句のつけようがなかった。一点を除けばな」
何かおかしなことがあったのかな?
「お主にとある疑いが掛かっておる」
「とある疑い……ですか?」
「うむ。それは朝食に違法な薬物を入れたのではないかという疑いじゃ」
お掃除に満足してもらえたかと思えば、別の問題が舞い込んできた。
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