第3曲 ゼロトーキング(完成版)
タイトル:ゼロトーキング/はるまきごはん 初音ミク
ジャンル:ボカロ
URL 【 https://www.youtube.com/watch?v=2INYgH-Gcjk 】
曲構成 Intro/Aメロ/①Aメロ→①Bメロ→①サビ/②Aメロ→AB間→②Bメロ→②サビ→「一言でも」→③Aメロ→「るるるる」と③サビ→Outro
英語タイトル Zero Talking
はるまきごはんさんの新作についての考察です。初めて聞いたのは「銀河録」でした。その後、「フォトンブルー」「ドリームレス・ドリームス」「蛍はいなかった」など、たくさんの曲を聴いてきました。私が好きな7人のアーティストのうちの一人で、私の中ではナブナさんやOrangestarさんに比肩します。
⓪姉妹と違和感
この曲について、はるまきごはんさんは次のように語ってます。
「話の減った姉妹の歌」
つまり、PVに登場する二人は姉妹関係であり、話が減った。この二人はそれぞれ「大令嬢」「ドロシィ」と名付けられています。おそらく「大令嬢」の方が姉で、「ドロシィ」の方が妹でしょう。
さて、初めてこの曲を聴いた際、私が感じた違和感を一つ述べます。
それは、なぜ妹の方はメイド服のような服装なのだろうということです。
姉は「大令嬢」とあるように、お金持ちの娘です。その妹ならば、なぜこんな服を着ているのだろう。では、使用人同然の生活を送っていたとか、大富豪の家で虐げられていたとか、そういうことは考えられるのだろうか。
それは、おそらくないでしょう。
ヘリコプターから妹が上陸した際、周囲のメイドたちは頭を下げて迎えています。これは、使用人層と妹の立場の差が明確に表されています。
妹の「メイド服」ですが、1番Bメロ、ハート形に見える「夕焼け」、を前に背中合わせで座る姉妹を見ると、姉は現在と同じ服を着ているものの、妹はメイド服を着ていません。となると、昔の妹と今の妹は何か意識の変化があったことがわかります。
①「正面」と会話のなくなった関係性、そして曲構成
曲は妹の携帯電話のカットから始まります。「妹の」とわかるのは、姉は終始、黒電話を使用しているためです。
最初の歌詞「もう、着いたのね~聞けるなんて」は、姉が受話器を通して妹に向けて語っている言葉です。しかし、これに対して妹は何も言いません。
その後、妹が屋敷に入場してきます。これは画面が引いていくところから明らかで、その上に姉がいます。妹は足を止めます。電話で「正面あたりで待ってるわ」と言われたことから、姉を探しているのでしょう。
ここでいきなりですが、曲の終わり、おそらくPVの視聴者が最も驚いたであろうキスシーンに飛びます。
それはどこで起こったことなのか。
これは、間違いなく、姉が指定した「正面」(エントランス)であることがわかります。
キスシーンの背後には、鐘がつらされたオブジェがあります。
そして、これに続くシーンでは、朝、ヘリコプターが飛び去っていくところが描かれていますが、これは鐘の向こう側から入口を見ている構図になっています。
つまり、妹は屋敷に入ってきた段階で、「鐘」が見えていたことになります。そして姉は「計画」を実行する。
単純に時間軸を繋ぐなら、姉が「正面あたりで待ってる」と電話をし、妹が屋敷に上陸し立ち止まる。それを確認した姉が屋敷を暗転し、キスシーンに至り、朝、ヘリコプターが飛んでいく=妹が帰っていく、というものになるでしょう。
他の部分は、時間軸でいうならば過去のこと、妹の口を塞ぐに至るまでの道のりが描かれている、というように考えられます。
そうなると不思議なのは、「楽しみよ、あなたの声が聞けるなんて」と言いながら、口を塞ぐ矛盾です。
しかし、これはサビを通してみるとわかるように、姉の変化でしょう。後述します。
さて、二人はどうして話をしなくなったのか。
真っ先に思い至るのは「喧嘩」ですが、おそらくそうではないでしょう。これは、1番Bメロ「あの頃私たちは喧嘩もしたけど」と、最後が「けど」と逆接になっているところからわかります。これは「喧嘩もしたけど(話は尽きなかった)」という含意があるように思えます。この直後、背中合わせの二人が映し出されますが、姉妹は似た服を着ています。
そもそも喧嘩というのは意見と意見のぶつかり合いです。その段階で、互いに言葉を交わしているのであって、「ゼロトーキング」にはなりません。
どうして話が減ったのか。
それは1番のサビにこうあります。
「大きくなって 話も減って」
これは姉妹に限らず、家族関係に共通でしょう。別に互いを嫌いになったわけでもないのに、会話が減っていくことは、よくあることです。
姉の方はこれが気に食わず、とにかく妹と話そうとする。が、妹はなぜか応じない。こうしてわだかまりがうまれていく。
曲の構成を見て見ると、次のようになっています。
まず、1番のBメロ、1番のサビ、2番のBメロ、2番のサビは、とにかく妹を振り返らせ、会話をしたい姉の様子が描かれています。
つまり「ゼロトーキング」な現状を打開しようとする姿勢です。
次に、1番のAメロ①、Aメロ②、3番のAメロ(もう帰るのね~奇しくも人間ですからね)は、やや皮肉めいた印象をうけます。
「あなたの声が聞けるなんて」(1番Aメロ①)と言える根拠は何なのだろうか。
「感情論者の言葉はすっかり意味ない」(1番メロ②)とはなにか。
なぜ「織姫と彦星」に二人の関係を仮託したのか。
このあたりを探っていけるとよさそうです。
②マリィゴールド、ターキー、四つ葉、織姫と彦星
この曲にはたくさんの小道具が登場します。それをここでは確認します。
まず、マリィゴールドですが、「勇者」「健康」「変わらぬ愛」を表す花です。この曲では最後の「変わらぬ愛」が適当でしょう。数度登場しますが、3番Aメロで、床に倒れ伏す姉の側に、散らばったマリィゴールドがあります。これは、妹への愛情の揺らぎでしょうか。しかし、そうなると、直後のキスシーンへうまくつながりません。
たとえば、「従来の感情との決別」という意図が、まず考えられます。
この曲において、最後のサビは、ここまでとは別の切り口から歌詞が歌われます。無会話という意味の「ゼロトーキング」とは違う、「話さない」という意味です。(今、これを打っていて、「離さない」という変換がでた。もしや掛詞? ……いや、関係ないか)
もう一つは、このシーン(3番Aメロ)は過去のこととする考え方です。複雑になりますが、私としてはこちらがしっくりきます。
というのも、姉の妹への感情は一貫したものではないように思えるからです。
1番Aメロ②「感情論者の言葉はすっかり意味ない」というのは、「私(=姉)の言葉なんてあなた(=妹)にはどうせいらないんでしょ」と言っているように思えますし、2番Aメロ「もう好きにして」は「だったら勝手にして」と言っているように思えます。つまり、姉はつねに心の中にマリィゴールドを持ち続けていたわけではなくて、妹を思うがゆえに、なげやりな感情に取りつかれてもいます。
しかし、現在の姉は最後のキスシーンからわかるように、妹をきちんと想っています(周りは眼を覆っていますが)。それは、最終シーン、なぜかヘリポートに残された妹のキャリーバッグにマリィゴールドがあることからもわかります。Dear my sis というカードも添えられています。
ただし、このマリィゴールドは、姉が妹に渡したものなのか、妹が姉に渡したものなのか、どちらでとらえるかで大きく意味合いが変わってきます。もしも妹が持ってきたものなら、その理由はなぜなのか。妹は姉に対してあまり強い愛情を持っているようには(表向きには)見えないですし、なぜそれが残されたのかわかりません。屋敷に入ってくるとき、妹は確かにキャリーバッグを引いています。
一方、姉のものだとするならば、ある一点を除いて、ここまでの説明で納得がいきます。つまり、妹への感情はときにぶれながらも愛情として存在し続けていた。つまり、「変わらない愛情」です。しかし、ではなぜ妹はそれを置いていったのか。和解できなかったことの象徴なのか。そんなに後味の悪い物語だとは、思えません。
これは一旦保留しておきましょう。
2番サビでは唐突に「ターキー(turkey)」が登場します。これは何なのか。
ターキーとは七面鳥のことで、クリスマスに並ぶ鳥です。
さて、turkeyにはほかに「失敗作」「のろま」という意味があります。また、これはこの曲ととても親和性のあるイディオムですが、「talk turkey」という熟語があります。これは「率直に話す」という意味があり、ある意味でゼロトーキングの対義語のようになっています。そして、ターキーが出現したあと、姉の服装が鳥になります。ここにさっきの「のろま」などの意味があるのかはわかりませんが、少なくとも、言葉が先行する人として描かれているのは間違いなさそうです。まさに「感情論者」ですね。また、妹の携帯電話の呼び出し画面では鳥が行進していますが、これも七面鳥でしょう。
2番Bメロ「四つ葉」を「四つ葉のクローバー」とするなら、その花言葉は「私のものになって」や「約束」などです。前者であれば、姉の、妹に対する感情が垣間見えます。歌詞では「四つ葉の見つかる昼下がり」とあることから、ここで姉は妹に対してかなり強い感情を抱いたことがわかります。妹はそれがうっとうしかったのかもしれません。2番Bメロ後半では、束縛された姿が描かれています。それに続くサビで登場するのが前述の「turkey」です。
そして、左3番Aメロで登場するのが、「織姫と彦星」です。ここでは「まるで」がついていることから明らかなように、比喩表現として使われています。
ということは、二人は長い間離れ離れだったのではなく、隔年で会っているということになるのでしょうか。織姫と彦星の物語は、一年に一度しか会えないという物語なのですから。
そうなると、1番Aメロ②の、久々の再会のような言葉が、なにに拠るのかが気になりますが、1年も会わなければ、身長が伸びていることにも驚くでしょう。矛盾はしていません。ただ、姉妹の物語と、織姫と彦星の物語との相違点は、かたや愛しあう二人の再会であり、かたや「冷戦状態の二人の再会」であるという点です。また、妹は「リング」を付けているとあります。この「リング」は、単純に考えるならば、「指輪」か。もしそうであるならば、なおのこと織姫と彦星との違いが強調されます。片方が恋人をつくるなど、物語の破綻ですから、織姫と彦星には永久にそれは許されないでしょう。
しかし、姉妹の場合はそれが許されます。なぜならば、「奇しくも人間だから」です。
外で恋人(らしき存在)をつくった妹が帰ってくる。妹は、おそらく、自ら連絡をしたのではないかと、私は考えています。次節で、物語の流れを今一度確認してみましょう。
③助けを求める妹と姉の翻意
私の考えるこの曲のストーリーはこうです。
姉妹がいた。姉は感情的で妹は理性的。姉はともかく妹が好き(これが家族愛か恋愛感情かは、どちらでもよいとします)で、言葉が先行する。しかし、長じるにつれて、二人の間には溝がうまれる。妹は姉の反対を押し切り独り立ちした。その後、妹は何度か帰省するものの、姉との「和解」ができない。これは当然です。そもそも口論が原因ではなく、微妙なすれちがいが原因なのですから、「和解」できるものではないといえるでしょう。また、いくら姉の側からアプローチがあっても、一度拒絶して家を出た以上、その手を掴むのは抵抗があるでしょう。
一方、姉は何度も何度も「話して」(1番サビ、2番サビ)と懇願します(まさに「Talk turkey」です)。その度に拒絶され、疲弊し、なげやりになります。1番Aメロ②の「感情論者」は姉のことでしょう。とするなら、この部分は「私の言葉なんて必要ないでしょ」と言っているに等しい。また、2番Aメロ「もう好きにして」も、突き放す表現です。
そして、最後のサビでは、「何も話すな!」と、これまでとは真逆のことを言っています。
しかし、これは投げやりさとは程遠いもの。また、曲の最後であるという視点からも、これは姉が妹を慮った言葉と考えるべきです。これはどういうことなのか。
そもそも、1番Aメロ①で姉は次のように語っています。
「ええ、楽しみよ あなたの声が聞けるなんて」
それなのに、最後は「話すな!」と、逆のことを言っているわけです。
このときの姉の表情は、瞳が赤く光り、なにかを企んでいるようですらあります(実際企んでいるわけですが)。
この部分について考えていきますと、カギになるのは「リング」でしょう。あれを、妹の恋人から受け取ったものとするのなら、姉としては心中穏やかではないでしょう。これが、今回の帰省で初めてついたものなのか、それ以前の帰省からついていたものなのかは定かではありませんが、いずれにしても妹に別の誰かの影がちらついていると言えます。
さて、上に挙げた1番Aメロの姉の言葉をもう一度見ると、姉は妹と対話ができることを確信しているようです。これは、段々と会話が減ったとする今までの経緯を考えると不思議なことです。
ではなぜ姉は確信できたか。それは、妹の側から「話したいことがある」というアプローチがあったからではないでしょうか。それが何についてなのかは、今までずっと妹を愛し続けた姉ならば容易に想像がついたことでしょう。これはおそらく、外の誰かとの関係性云々でしょう。
自ら家を出た妹が「話したい」というのは、かなりの非常事態です。最後の最後に頼れるのは、姉だけだったのかもしれません。
姉の立場に立つと、「話したい」と言われたらどう思うか。
今までの自らの努力が実ったと思うかもしれません。なげやりになっていたところも考えれば、「なにをいまさら」とも思うかもしれませせん。だから、妹からのSOSを知った段階では「話すな!」という思考には至らないでしょう。1番Aメロ①のあの妖しい雰囲気は、そういう感情の表れかもしれません。
しかし、その表情は直後(1番Aメロ②)、妹が入ってきた瞬間に一変します。電話を持ったまま、姉は振り返りません。上階から身を乗り出してもいいものを、振り返らず、どこかぽかんとしている表情です。その時、その瞬間に、姉は気付いたのかもしれません。今の妹がもっとも欲していることを。
おそらく、停電はサプライズイベントとしてあらかじめ企画されていたのでしょう。すべての灯りが消えるというのは、簡単にはできないでしょうし、紙吹雪も降ってきていますから。そして、本来は明転した瞬間、目の前に姉がいて、妹の希望通り、悩みを「話してもらう」というものだった。感情を大切にする姉らしい発想です。
しかし、妹が最も欲しているのはそうではなくて、まずは「受け入れられる」ことだったのではないでしょうか。姉もそれに気づいた。
だから「口を塞いだ」。ゼロトーキング、つまり、「言葉はいらない」というメッセージです。妹からすると、いろいろな意味で衝撃だったでしょう。PV上でもあの瞬間だけ、妹の目つきが変わります。また、周りからしても予想外だったのか、明転した瞬間のメイドたちは目を塞いでおらず、やや遅れて目を手で覆っています。
姉の計画は成功したのか。それは、最後のサビのあとの描写が去っていくヘリコプターと、それを軽く見上げる姉、そして残されたキャリーバッグと、限られているため具体的には謎です。
しかし、動画のコメント欄に「音」に関する面白いコメントがありました。
キスシーンのときに、「パッ」という音がするのですが、それが3番のサビでの後半で、もう一度聞こえるというのです。聞きなおすと3分16秒当たりで、確かに聞こえています。なるほど、それが妹側からの返事だったのか、とそのコメントを見て思いました。
そして最後にはヘリコプターが飛び立ち、マリィゴールドが入ったキャリーバッグが残されます。これはどういうことなのでしょうか。色々考えられます。
もう簡単には帰ってこないという決意。またすぐ帰ってくるという決意。けりをつけてくるという決意などなど。そもそも帰っていないのかもしれません。
ただ、いずれにしても、姉妹の関係性は次の段階へ至ったのでしょう。
以上の仮説は、現在の時間軸が以下の通りに進展している、という想定が正しいものとしています。
前奏(ヘリコプター)→1番Aメロ①(姉妹の電話。妹、ヘリポートに上陸)→1番Aメロ②(妹、屋敷に入る。姉、その様子を見てはいるが、背中合わせ)→最後のサビ前(るるるる……のところ/電気が消える。キスシーンへ)→最後のサビ(キスシーン)→後奏(残されたキャリーケースの中にマリィゴールド)
謎も多く残っています。例えば、周りのメイドたちの意味、最後のキスシーンで扉が開くシーンの謎。2番Bメロの世界観と姉の喉もと近くに刺さる剣の意味。2番AメロとBメロの中間、お茶を入れるシーンの意図など。
すべてはあくまで解釈であり、無理やりな部分も多くあります。しかし次回作などで、語られる部分もあるのではなかろうかとも期待しています。
長くなりましたが、ここまで読んでいただきありがとうございました。
※追加••••••PVを見ていて気づいたことの補足です。サビの「1回だけ」のところで、出ていこうとする妹に向かってクラッカーが放たれています。これは祝砲でしょう。しかし、姉はうつむいたまま、それを直視していません。ここから、妹が家を出ていくことは、姉以外にとっては祝福すべきものだったことが分かります。
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