6章:十五歳~現在

ー児童福祉司。

家庭環境に立ち入る事の出来る職業。私のように苦しさを外に出せない子供たちを救う。絶対に見捨てない。

これになりたいと思ったのは、高校に入ってからだ。

家庭に問題を抱えた先輩を、純粋に救いたい、と強く思ったから。

こんなふうに自分の事を考えられるように、自分を大切に出来るようになるまで、本当に色々な事があった。

高校に受かり、入学したのはいいが、通信制高校は過去に何かがあった人が多い。そして私は入学してから1週間で、人間は面倒くさいと思い始めていた。

弱い人間、エゴだらけの人間、「自分以上の辛さを経験した人はいない」と辛さを武器に生きる人間、好きなことだけしかしない選択をした人間、など千差万別だった。

私は、そのほとんどの人間を見てきたが、私が嫌な思いをする人間は決まって「自分を誰かに認めてもらおうとする人間」だった。

自分の価値を自分で見出そうと苦しんでいた自分がバカらしくなってくる。

もしかしたら私が身近な人に恵まれないのは「恵まれない」ことにフォーカスするのではなく「恵まれなくても良い」というふうな「気持ち」にフォーカスさせるためだったのかも知れない。

誰かのせいにするのではなく、常に自分と向き合い続けられる。

それって立派な長所じゃん。私の才能だよ。

こんなふうに自分を褒められるようになったのも、成長したからなんだ。

私はみんなに生かされている。生きてて良いんだ。

ー生きる覚悟があれば、人は何だって出来る。


   ※ ※          ※ ※


「良。お待たせ」

今日は良と一緒にお出かけをしていた。

良は自分の事を『私』と言っている。

一人称が『私』。つまり、そういうことだ。

ジェンダー。私は、最近それについて興味を持ち始めた。

良の場合は、Xジェンダーというやつだけど、それでも良かった。

ー私は今、幸せだ。

「いつもありがとう」

良は微笑みながらハグをしてくる。

私は恥ずかしがりながらも、それに応える。

良は今まで出会った人とは全然違う。優しくて、いつもおっとりした雰囲気を放っている。

「光羽」

何よ…。まだ何かあるの。

緊張がピークに達していた時に上から声が降ってきた。

「大好き…」

私は赤面した。こんなふうに気持ちを素直に伝えてくれるのは嬉しいけど、たまにこっちの状況を考えない発言は私を困らせる。

ーもちろん良い意味で。

良と出会ってから、周囲の状況が変化した。

お父さんが大嫌いだったおばあちゃんが、お父さんの家に行くと言っても文句を言わなくなった。それどころか「気をつけて」とまで言ってくれるようになった。

お父さんにお母さんと離婚した事が悲しかったと手紙で伝えると、駅前のマンションを買うから一緒に住むか、という話をお母さんに持ち出してきた。もちろん断っていた。

従兄も、通信制高校に通い、バイトを始めようとしている。

オジさんは正式に離婚をする方向で、話を固めている。

お母さんは…相変わらずだけど、私がいれば大丈夫だと変な自信があった。

ーだって私は、1人じゃないから。

生きづらい世の中でも、私は自分の力で生きやすくしてやったぜ! イエイ!

だから何があっても大丈夫だ。


高校に入ってもやっぱり辛い事はあった。

でもこれだけは言える。私は誰よりも強い。

誰よりも良が好き!

誰よりも人間を想える。

誰よりも人を救える。

誰よりもー地球に生まれてきて良かったと思ってる。

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