第6話

なんだかそれ喜んでいいのか何なのか分からないなあ、と僕は微妙な気持ちになったが、その時やっと、ここでずーっと時間をつぶしている訳にはいかない、ということを思い出した。


「あの、実はほんとは今日学校でして、地上に戻る方法とかって分かりますか?」と僕はどきどきしながら尋ねてみた。よくある異世界ものだったら、ここで「戻る方法はない!」とか言われて一生この黒いアメを食べて生きる悲惨な人生になるパターンだ。


しかしボブは後ろを普通に指さすと、

「あそこに壁についてるはしごがあるから、登れば帰れるよ。」と言った。

まじかよ、すごいシンプル、と僕は思った。


でも待てよ、ここに来るときとんでもなく長い時間落ちてたことを考えると、登って帰るのってそれより遥かに大変なんじゃ、と思って僕は冷や汗をかいてきた。


「えーっと、それ、どのくらいかかります?」と僕は尋ねてみた。


「心を集中することが大切だ、変なことを考えながら登っていたら、一生かけてもたどり着かないだろう。」とのぶさんが言った。

変なことってなんだよ、と僕は思ったが、そこに突っ込んでも仕方がないので、


「分かりました。ほんとうに色々教えて頂いてありがとうございました。勉強になりました。」と言って、僕は2人と握手した。優しい手の感覚が伝わって来て、この人たち本当に良い人たちなんだな、と改めて思った。


僕ははしごに手をかけて、よいしょと登り始めた。縄ばしごみたいなぐらぐらなものを予想していたが、頑丈な作りになっているみたいで、全体重をかけても全然大丈夫だ。僕はたまに後ろを振り返って2人に手を振りながら、そのはしごを登り続けた。しばらくすると、2人は豆粒みたいに小さくなって見えなくなった。


その後もはしごを登り続けていたが、どんだけ登っても一向に地上に着く感じがしない。


うわー、やっぱりかよ、と僕は思った。ここから飛び降りればまたあそこには着くんだろうけど、そうしたらまた同じことの繰り返しである。僕は諦めてまた登っていたが、そのうちに今朝の電車の件をまた思い出してしまった。


うわー、恥ずかしい!と言おうとしたが、よーくよく考えてみると、自分がもう全然恥ずかしいと思っていないことに気が付いた。むしろ笑い話として披露できるくらいだ。


え、なんでだろ、と思って、あ、そういえばあの川に吸い取ってもらったんだった、と思い出した。僕は思わず笑顔になって、ありがたい、と思った。あのどうしようもない気持ちを取り除いてもらったんだから、もう変なことを考えて悪態をつくのはやめよう、と僕は自然とそんな気持ちになった。


その時だった。まばゆい光が僕を包み込んだのは。

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