第4話

「うわー、なんなんですか、このでっかい機械は?」と僕は尋ねた。

「この機械はね、この川の水を受け取ってアメに変えてくれる機械なんだよ。」とのぶさんは言った。


アメ?と僕は思った。


「アメって、あの、地上にふってくる雨のことですよね?」と僕は、さすがにあの舐める飴の方ではないよな、と思いながら聞いてみた。

「違う違う、あのよく舐める飴のほうだよ。」とボブは当たり前のように答えた。


えー!そっちのアメかよ!!と僕は思った。

いやいや、飴作ってるっていう割には全然出てくる気配がねえじゃねえかよ、と思い、

「あの、その飴はいつできるんでしょうか?」と僕は尋ねた。


のぶさんは腕を組んで、

「そのうちに出来るだろうから見ていなさい。」と言った。


僕たち3人はそれからしばらくの間、その巨大な機械がうなりをあげている前で、何もせずにただ待っていた。10分が過ぎ、15分が過ぎたが、特に何も起こらない。ただうるさいだけだ。


僕は嫌気がさしてきて、

「あの、そろそろですか?」と尋ねたが、2人に怖い顔で睨まれて、すんません、と言ってちょっと落ち込んだ。


明らかに30分以上が経過したあと、突然その機械の轟音が止まり、ぽっこんという可愛い音がして、小さなアメが機械の一番下から出てきた。出てくる所だけをみると、10円を入れて回すとガムが出てくるガチャガチャと同じ構造だった。


のぶさんはそのアメを拾い上げ、僕に見せてくれた。

そのアメは黒かった。黒かったというよりは、真っ黒だった。どす黒い、漆黒と言った方がより近いかもしれない。


うわー、世の中のあらゆる負の感情を詰め込んでぎっちぎちにしたら、こんなやべえ色のアメが出来ちまうのか、と僕は震えあがった。よくそんなものこの人は素手で触れるな、と僕はのぶさんに感心してしまった。


ボブは事もなげに、

「どうだ、ぼうやも舐めてみなよ。おいしいよ~。」と言った。

僕はまた、


「は?」と思った。


今日一日頭のおかしい発言を数多く聞いてきたつもりだったが、その中でも一番イカレタ発言だよこれ、と思った。なんで明らかにこの世で(ここがこの世かどうかは置いておいて)一番やべえアメを好き好んでなめなきゃいけねえんだよ。というかおいしいって舐めたことあるのかよあんたらは。


「いやー、遠慮しときますわ~。」と僕は笑顔で言った。

しかしのぶさんは真面目な顔で、

「いや、君も舐めてみた方がいい。これは立派な社会勉強だ。それにボブも言っているように慣れてくるとなかなか美味い。」と言った。


誰か助けてくれえ!と僕は心の中で叫んだが、もちろん誰も助けに来てはくれなかった。さっきも言ったように微笑んでいるミスターもいないみたいだ。


僕は遠慮するように手を振りながら笑顔であとずさりしていたが、のぶとボブは真面目な顔で僕に詰め寄って来る。しばらくそれが続いていたが、そのうちに壁際に追い詰められてしまった。


もうだめだ、あかん、この世の終わりだ、と僕は思った。やっぱりあの穴に入る前に思い直して学校へ行くべきだったのだ。人生で最大級の恥ずかしい経験をしていたせいで、頭がどうかしていたのだ。ええい、ここまで来たらこのアメをなめてどうにでもなればいい、と僕はやけくそになった。


「じ、じゃあペロッとなめるだけ。」と言って、僕はのぶさんからそのやばいアメを受け取った。

持ってみると、意外にそんなに重くはない。僕はダンベル並みの重さを予想していたので、拍子抜けしてしまった。


恐る恐る少しだけ、ペロッと舐めてみた。


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