第14話 演技。

学校は当然罪を認めようとしなかった。

薫くんを部外者と言ってきたが、「家族ぐるみの仲、龍輝さんも貴子さんも鷲雄さんも皆俺を家族だと言ってくれますし、麗華さんも懐いてくれていて勉強にしても俺と組んだら点数が上がりましたよ。学校だけでは上がらなかった点数が上がって良かったですよね。それに何ですか?論点ずらさないでくれます?とりあえず今回はうちの麗華さんが折角頑張ったのに職員室に呼び出されてカンニングを疑われた点に抗議に来たこととあわや性暴行を受けそうになった点の話です」と言って担任に詰め寄ると担任は最後には「確かに職員室に田中さんを呼んで質問しました」と言ったが薫くんは許さなかった。


「暑い、鷲雄さん、龍輝さん、窓開けて」と言った後で窓が開くのを確認してから、「質問?職員室に呼び出して大人が数人で取り囲んで詰め寄る事の何処が質問だって言うんですか!?今回の事件にしてもあなた達がそんなだから起きたんじゃないですか!?」と声を大にすると外で部活をしているテニス部が異変に気づき、部活できている教師達が職員室に大挙してきたが薫くんは「ほらコレです!こうやってたった1人の麗華さん相手にあなた達は集まったんじゃないですか?」と声を張る。


こうなればもう止まらない。

バスケ部の生徒や顧問達まで職員室に集まった中で薫くんは「努力で勉強して点数を上げたうちの麗華さんにカンニングを疑った人は謝ってください」と言い、私にこの中に疑ってきた教師は居るかと聞いてきたので担任の他にテニス部の顧問とバスケ部の顧問を指差すと「あなた方は恥ずかしく無いんですか?麗華さんが言うまでコソコソコソコソ隠れて!謝ってください」と吠える。


鷲雄叔父さんなんかは嬉しそうにニヤニヤしている。


そうしてようやく「田中…、先日は変な疑いをかけて済まなかった。これでいいよな?」と担任が謝ったが薫くんは「先生?謝り方、知ってます?」とそれを認めなかった。


「これでいいか?それを決めるのは麗華さんで何勝手に終わらそうとするんですか?」

そう怒った薫くんは「麗華さん、何が嫌でどうだったか言って、普段から言わない麗華さんだから勝手に決めつけられたんだよ」と続けた。


この薫くんの言葉に私はハッとなった。


「先生、頑張ったのにカンニングとか言われて嫌でした。目の前で問題を解いてようやく許されたけど謝って貰えなくて嫌でした。私の見た目とかお父さんの見た目で決めつけられたのは嫌でした」


この言葉に担任達はキチンと謝ってくれた。


そして昨日の件の話になった。

担任達はそっちの方が問題で被害届は出さないで欲しい、緊急の保護者会はやりたくないと言ってきた。


なんでも虎徹を殴った赤井の親は教師らしく「赤井君のご両親は教師で」と言い出して「は?だから何です?鷲雄さん、貴子さん、意味わかりますか?俺にはわかりません」と薫くんが言うとお母さんは「わかんないや」と言い鷲雄叔父さんが「関係ないな、俺の息子は被害者だ」と言う。そして虎徹は頭を押さえて「七針痛い痛い」とアピールを忘れない。


そして主犯の刈田に至っては「成績優秀な生徒だから」と庇っていてお父さんと鷲雄叔父さんから「意味不明」と言われていた。


「ですから刈田くんは成績優秀でこのままなら良い高校に行けるんです。それを被害届なんて出されたら台無しなんです!」


この言葉に薫くんが「それ、アイツらの手口ですから。そうやって受験を意識した女の子達を何人も食い物にしてきたみたいです。今庇っても余罪が出たら庇えます?もしかしたら生徒達の中からも被害者が出てきますからね?そうしたら俺は目立ちたがり屋だからインタビューで今の先生のお言葉を聞かせちゃいますね」と言って私から借りてたスマホを見せる。


流石256GB。

ガンガンムービーが撮れる。

青ざめた担任達の顔は後で見返して笑ってしまった。


薫くんは青ざめた担任達には「保護者会、やってくださいね。後は再発防止、麗華さんに何かあったらまた来ます。それじゃあ」と言うだけ言って皆で帰る。


職員室の外では同じ学年の子やクラスメイト達も居て私を見ていた。


視線に気付いた薫くんは「麗華さん、友達に怖かったって話す?」と聞いてくれるので私は首を横に振って「ううん。また明日学校で会うし」と言う。

正直二週間以上話していないから話す事は無かったし、薫くん達にそれは知られたくなかった。


「そ、じゃあ帰ろう。あ、鷲雄さん、これからお寿司行きますか?」

「おう!とびきりなの食え!ここまで気分がいいのは久しぶりだ!」


大声で話す薫くんと鷲雄叔父さん。

後ろからは「寿司…」とか聞こえてきてそれだけで気分が良くなる。

薫くんは「やった!ありがとうございます」と言ってから私を見て「ほら麗華さん、友達にバイバイして」と言ってくれて、私は自然に同級生達の方を見て「うん。また明日」と言う。


皆は「また明日」と手を振りかえしてきた。

なんか久しぶりの感覚でゾワゾワした。


その時、薫くんが私の手を握って「麗華さんもお寿司行く?鷲雄さん?」と聞くと「あ?麗華も来んだろ?」と鷲雄叔父さんが言う。


そして薫くんはお母さんの手も握って「貴子さんもお寿司行こうよ」と言うとお母さんは真っ赤になって「薫くん!?」と驚く。背後からはどよめきが聞こえてきてお父さんが「お前!」と言った瞬間に「またヤキモチですか?本当に息子が居なくて良かったですね」と言って黙らせると「鷲雄さん、鷲雄さんは虎徹くん達にヤキモチ妬かないですよね?」と聞く。


鷲雄叔父さんは笑いながら「妬かねえよ。子供にヤキモチって龍輝くらいなもんだろ?」と言う。そして薫くんは私達から手を離すと「仕方ないからどうぞ」と言って私とお母さんの間にお父さんを誘導して手を繋がせる。


私とお母さんと手を繋げたお父さんは「お…おお…」と喜んでいて気持ちが悪い。


薫くんはわざとお母さんの逆の手を繋いで「貴子さんも行きましょう?」と誘うとお母さんは「うん。行くよ」と笑顔で答えた。


薫くんはそのまま空いた左手を見て「鷲雄さんも繋ぎます?」と聞くと鷲雄叔父さんは笑って「俺はタバコ吸いたいから虎徹行け」と言い、虎徹が「薫くーん」と言って手を繋ぎ5人で玄関を出た。

ご近所さんのどよめきも聞けて気が済んだ薫くんは少し歩いて人通りのないところで真っ赤になって「すみませんでした!」と謝ってきた。



どうやら昨日から頑張って無理をしてくれていたらしい。


「あ…あんな真似、俺がやれば丸く収まるかと思いました。俺は4年で地元に戻るけど皆さんはずっとここに居るから。龍輝さんもラーメン代はすみませんでした。鷲雄さんもすみません!貴子さんもお花見とかアレはあの場の話です!麗華さんも手とか握ってごめんね!」


必死になって謝ってくる薫くんに虎徹が「え?寿司は?花見しないの?皆昨日帰ってから楽しみにしてたよ?」と言うと「本当だぜ、寿司だ寿司。行くぞ」と鷲雄叔父さんが続く。


私は「本当、手は恥ずかしかったけど先生に怒ってくれてありがとう。アレも演技?」と聞くと薫くんは真っ赤な顔で「演技だよ。まだ心臓バクバク言ってる」と言う。


お母さんは驚いた顔で「薫くん」と声をかけると薫くんは「貴子さん、手を握ってごめんなさい!」と謝る。


「ううん。嬉しかったよ。昨日のラーメンも楽しかったよ。薫くんはシェアとかしないタイプだと思ったよ。昴ちゃんも一緒に食べ放題に行ってシェアとかしたくて美味しそうって言うと新しいのを取ってきてくれるけどひと口くれなかったんだよね。タバコ臭いからかな?って思ってたんだ」

「まあ俺も誰かとシェアはやった事ないです。多分父さんは照れていたんですよ。母さんとも最近になってやれるようになったって、昔は俺が「父さんも母さんの食べてみなよ」って言わないと出来ませんでしたから」


なんと昨日のラーメン屋での話も演技だったとは思わなかった。


「じゃあお父さんをガクガクさせたのも演技?」

「あれは本気、だって龍輝さんって普通にしてたら家族想いのいいお父さんなのにヤキモチばっかりで貴子さんと麗華さん悲しませるからさ」


これにはお父さんは「く…」と言ってバツの悪そうな顔をする。


「ラーメン屋が演技ならあの角煮とチャーシューは?」

「アレは勿論本気です。龍輝さん。美味しかったですよ」


肉の顔の薫くんがお礼を言うとお父さんは「良かったな」とだけ言った。


お母さんはその会話の後で薫くんの腕に飛び付いて「薫くん、ウチまでご近所さんが見てるから演技してね」と言い、「…が…頑張ります」と薫くんは返すとお母さんは「わ、ドキドキ聞こえてくるね」と笑い。「ほら麗華も手を繋いでご近所さんアピールしようよ」と言う。


こうして歩けばやはりご近所さんは興味津々で出てくるのでこれ見よがしに「おはようございます!」とかやって苛立つお父さんに薫くんが美空さん顔で「まだ懲りませんか?振り出しに戻します?」と睨みつけていて鷲雄叔父さんが大笑いしていた。


なんかようやく年が明けた気がした。

新年の心晴れやかなスッキリとしたあの気分。

ここが悪い事の終着点だと思った。



ちなみに寿司は本当に良いところに連れて行ってもらえたし、お父さんだけは別会計にされていてザマアと思った。


薫くんは「本当、あの日に龍輝さんが勝手に夢にヤキモチ妬いて貴子さんを突き飛ばさなかったら俺の食生活は貧相でした。ありがとうございます」と言ってからマグロを食べて「旨い。ありがとうマグロ」と喜んでいた。


それを見たお母さんが「あれ?薫くんってお刺身も好き?」と聞くと薫くんは飯の顔で「はい!」と言う。


「じゃあ今度商店街のお魚屋さんでお得な日があったら教えてあげるね」

「はい!ありがとうございます貴子さん!」

これに鷲雄叔父さんが「よし、来年の正月はマグロ買うか」と言い出した。


舟盛り確定。


私は「薫くん、ハマチ好き?」と聞き「うん。美味しいよね」と返事をしてもらい鷲雄叔父さんに目配せをしておいた。

鷲雄叔父さんは「任せろ麗華!」と言ってくれた。


早く来い正月。

まだ2月なのにもう正月が待ち遠しい。


受験?

薫くんが居れば何とかなる。

そんな気しかしない。

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