第13話 ラーメン屋にて。

あの日は本当に怖かった。

お父さんが暴れて、お母さんが泣いて怒って、薫くんと2週間も引き離されて、ギスギスした家には居場所もなく、心無い言葉をぶつけてくるお父さんの居る家にいたくなかったから焼肉の誘いに応じたら駅には誘ってきた男以外に4人の男がいて焼肉屋の方向と言われてホテルが近づいてきた。

のらりくらりとかわしても遂には逃げられなくなった時に薫くんからの着信で取ろうとしたらスマホを奪われてすぐに電源を切られた。

それからすぐに虎徹が「麗華!」と言ってやって来た。


私は何でここに虎徹が居るのか気になったがそれよりも「虎徹?虎徹!!」と助けを求めると虎徹は驚きの表情で「お前、薫くんの言う通り連れ込まれそうなの?」と言った。


「薫くん?」

「今あっちを探してくれてるよ」


虎徹は大学生相手でも物怖じしないで「コイツは迎えが来るから帰るわ。んじゃ」と言って私の手を取った時…背後からカゴで頭を殴られて倒れた。

そして殴られた頭からは流血していて私は怖くなって震えた。


そこに来てくれた薫くんはヒーローに見えた。

ガサツなヒーローならきっと5人組を蹴散らしてくれるが薫くんはムービーを撮りながら人を呼んで相手を逃げられなくしてから警察と救急車を呼んでくれた。


私は警察で婦警さんから怒られた。

未遂で済んだから良かったけど、タダより怖いものは無いと言われた。


お母さんとお父さんはすぐに来た。

お母さんは泣いて怒っていた。

「薫くんに助けてもらったよ」と言ったら「うん。だって薫くんは昴ちゃんの子供だもん」と言って微笑んでいた。


病院では虎徹は七針の大怪我でテンションが上がっていた。

鷲雄叔父さんのルールで男の怪我はひと針2000円の価値があるから臨時小遣いを貰って念願のゲーム機が買えるはこびとなった。

まあ14000円はお父さんが色まで付けて虎徹に払う事になっていた。


ここでお母さんがお父さんを名前で呼ばないで「アンタ」呼びしているのを薫くんが気にして来てここ最近のお父さんとの話をしたら薫くんがキレた。


キレた薫くんは滅茶苦茶怖かったがそれでも言ってる事は間違いではなく、あっという間にお父さんの胸ぐら掴んで「懲りたか!?ほら見た事か!アンタのせいで麗華さんは怖い目に遭ったんだ!」と言って何回もガクガクさせながら「褒めましたか?褒めるように言いましたよね?それに良い点数取ってきたのにどんな手を使ったかだと?勉強ですよ!べ ん きょ う!」そう言いながらお父さんをこれでもかと揺すった薫くんは「麗華さん、一気に25点も平均点が上がるなんて流石だね。今回は暗記系は時間が足りなかったから次は暗記系もやれば平均65点は行けるよ」と、私に言ってくれた。


「うん。ありがとう薫くん」

「でもさ、気になるんだけど麗華さんは警察で外と学校と家で誹謗中傷って話したんだよね?何があったの?」


私はこの質問に言葉を濁そうとしたが鷲雄叔父さんに言われて結局逃げ出せずに学校で先日の一件からお父さんとうまく行ってないお母さんが薫くんを彼氏にしているなんて与太話やテストの点数でカンニングを疑われた話、家の外ではこの前から注目の的でアレコレ聞かれたり見られたりしていると説明したら薫くんがまたキレた。


もう一度お父さんをガクガク揺すって「アンタがクソくだらないヤキモチ妬くからこんな事になってんじゃねぇですか!」と変な日本語で怒る薫くんにお母さんと私は笑った。

嬉しくて泣いて笑った。


その後はお寿司の時間では無くなったので夕飯に困っていると薫くんが「鷲雄さん!あのラーメンに行きましょう!龍輝さんが奢ってくれます!」と言う。


お父さんは立つ瀬がなくても怒りそうだったが薫くんはこそっと「麗華さん、怖かったって言って」と、言い、虎徹にも「頭痛いよね?」と聞く。


私と虎徹は意味を理解して顔を見合わせてニヤニヤしてしまいながら「あー、怖かったよ〜、薫くん、虎徹ありがとう!」「あー、痛い痛い、殴られたところが痛い、ラーメンの気分だ!」と言うと「くっ…わかった」と、いってお父さんの奢りラーメンになる。


お父さんは財布を見て「貴子…小遣い」と言い、お母さんは「ビールを発泡酒にしていいなら少し出してあげるよ」と言った。


お父さんはお母さんに返事をして貰えたことが嬉しかったのだろう。

嬉しそうに「…うす」と返事をしていた。


こんなやり取りに鷲雄さんが「お前は本当に救世主だな」と薫くんの肩に手を回して話しかけていた。



ラーメン屋は車で行きやすいので学校の連中や近所の人もちらほら居て奇異の目で私とお母さんと薫くんを見てくる。

私の居心地が悪いのを察した薫くんは「貴子さん」と声をかけて「俺、ちゃんと家庭教師で結果出しましたよ」と言う。

お母さんは驚いた顔で「薫くん?」と聞き返す。


「普段ご飯でお世話になってるからお礼で勉強見ましたけど目標点数超えたからご褒美でますか?」

「…え?…うん」


「じゃあ春には花見ですよね?父さんと母さんも呼びますね」

薫くんの言葉に鷲雄叔父さん達も嬉しそうに薫くんの顔を覗き込む。


「え?いいの?ご褒美?」

「ええ、麗華さんのおかげだよね。虎徹くんの満点のご褒美はお寿司なので今度鷲雄さん達と食べてきますね」

この会話で薫くんは本当に家族ぐるみの付き合いだと察した連中は一気に興味を無くす。



そしてラーメンにしても「虎徹くんは何食べるの?」と聞き、虎徹が「角煮ラーメントッピング角煮で餃子セットだよ」なんて会話をしてお父さんが「馬鹿野郎!角煮ラーメンって1200円だぞ!?それに角煮追加の餃子セットって全部で2000円超えるぞ?」と突っ込むと虎徹は薫くんの指示通り頭を押さえて「痛い痛い、頭痛い」と言ってお父さんを黙らせてしまう。

薫くんは満足そうに「俺はどうしよう…麗華さんと貴子さんってここは角煮とチャーシューはどっちが好みですか?」と聞いてきて結局はどっちもと言われてチャーシュー麺の角煮追加にしていた。


お父さんが「お前!?そんな肉ばかりバカか!?」と言うと「あー、自転車漕いで疲れた。俺たち速かったよね虎徹くん」と言い、虎徹も「4駅15分ってヤバかったよね。ママチャリで早そうな自転車乗った宅配イーツの連中ごぼう抜きしたもんね」とアピールをして黙らせる。


そして薫くんは正宗と宗光にも目配せすると正宗と宗光は「疲れた」「足が」と言い出す。

もう訳が分からないお父さんは「あ!?お前らはなんだってんだよ!?」と聞くと正宗と宗光は「虎徹と薫くんが乗り捨てたチャリを家まで運んでから病院にむかった。だからラーメンと味噌ラーメン。大盛り一杯じゃ足りない」「4駅遠すぎ。これは大盛りワンタン麺と餃子セットの奴」と言う。


もうどうしようもない事にお父さんが「…くそっ、好きにしろ」と言うと正宗と宗光は「よっしゃ俺チャーハン追加!」「マジか!俺キムチチャーハン追加!」と喜ぶ。

私が「薫くんは?」と聞くと薫くんはメニューも見ずに「チャーシュー盛り合わせ追加」と言った。


この会話にお母さんは本当に嬉しそうに「薫くんは本当にお肉好きだね」と言い、薫くんも「貴子さんも盛り合わせの奴一緒に食べます?龍輝さんの奢りだから美味しいですよ」と、話を広げてくれた。

お母さんは「じゃあ、ちょっと頂戴」と言って嬉しそうに頬を赤くした。


薫くんは私にも「麗華さんは何にしたの?」と聞いてくれたので「悩んでる」と返す。


「何と何で?」

「カレーラーメンと油そば」


メニューを開いた薫くんは「写真見たけど肉っ気が無いよ?」と聞いてくる。

「お肉で決めないよ」と言うと「麗華さんもチャーシュー盛り合わせ食べる?」と聞いてくれた。


「いいの?」

「食べ足りなかったら龍輝さんがお替わりくらい「食え食え」って言ってくれるよ」


お父さんが青い顔をするのが面白くて私は「おお。そうだね。じゃあ油そば食べて好みじゃなかったらお父さんにあげよてカレーラーメンにしようかな…。でもなぁ」と言う。


「どうしたの?」

「油そばって好きなんだけどスープが無いのが嫌なんだよね」


「じゃあ俺のやつ少し食べても良いよ」

これにはお母さんとお父さん、鷲雄叔父さん達も驚くが薫くんは「家族ぐるみの付き合いだから別に良いよ。食べ足りなかったらお替りさせてくれる龍輝さんいるしさ」と言うとお母さんは醤油ラーメンから辛旨ラーメンに変更して「薫くん!辛いの平気?味見する!?」と聞いていた。


薫くんは「ありがとうございます。貰いますね」と言ってお父さんはイラっとした顔をしたが、虎徹が頭を押さえて、薫くんは疲れたポーズ、私は「怖かった」と呟くとお父さんは何も言えなくなっていた。


こうして無茶苦茶な夕飯が終わって、支払金額に文句を言いたそうなお父さんに薫くんは「楽しかったから貴子さんも普通に龍輝さんと話してましたね」と言った。

お父さんは「あ…」と言って少し嬉しそうにしながら「でもまだアンタ呼びなんだよな」と愚痴る。


「それは仕方ないですよ。とりあえず明日は朝一番に担任に電話してお昼に学校ですからね?休みとか平日来いとかは言わせないでくださいね」

「あ?なんで?」


「虎徹くんと鷲雄さんにも来て貰って学校を巻き込みますよ。折角頑張った麗華さんにカンニングとか許せます?俺は母さんの勉強方法がバカにされたみたいで許せません!」

そう燃え上がった薫くんは家族としてその場に参加をしてくれた。

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