第6話 冬の事件。

お母さんの嫌いな冬が来た。

でも今年は薫くんも居るし、昴ちゃんさんとメールもしているから大丈夫だろう。

お母さんは知らないが私は前に美空さんともメアドを交換しておいたのでメールをしている。


美空さんには「すみません!また母が落ち込んでいるので薫くんとバーベキューをさせてください!」と送ったりしていて、美空さんは「あらあら、あの子よく食べるから悪いわ」と返信がくる。

「そんな事ありません!薫くんが来てくれると助かるんです!」

こう送ると「じゃあ毎回はおかしいからたまに昴さんから連絡させるわね」と美空さんは返事をくれる。


バーベキューの日、何回かに一回は報告メールに「いつもごめんね」「また?ありがとう」と言った返事の他に薫くんのスマホに昴ちゃんさんから着信が来てお母さんは大喜びで電話に出てメールのやり取りの内容を言葉で伝え合う。

その時の笑顔は40を過ぎているのにとても可愛らしいものだった。



この件でやはりお父さんは機嫌が悪くなるが鷲雄叔父さんに「別にやましい事はないだろ?隠れて知らないところで会っててほしいのか?あの笑顔が1番だろ?」と言われて引き下がる。


一度、昴ちゃんさんはお母さんを、薫くんは私を惚れさせたと言ってお父さんが薫くんに絡んだ事があったが正直恋愛とか意味不明だ。


幼い頃から今のお母さんを見てその相手がお父さんなら恋愛とかも良かったかも知れないが今はそんなのは無理だ。


それよりも私の旦那はお父さんがガサツな奴を連れてくると言い出した方のが問題だった。

これ以上ガサツ遺伝子を組み込んで何をする気だ?

お母さんが昴ちゃんさんに惚れた意味はそう考えるとよくわかる。



そう思っていたがお母さんは久しぶりに暗くなった。

見ていられないレベルだった。


うちのお正月は田中の実家は遠いし帰省ラッシュの渋滞に巻き込まれて荒れるお父さんを見たくないので2月に行っている。

正月に集まるというと亀川家になる。


なので正月の打ち合わせとクリスマスパーティーを行いに私とお母さんは亀川家にて行っている。


お母さんはソファで暗くなっていて膝を抱えてご馳走も食べずにいじけている。


そんなお母さんを見てお婆ちゃんが「今年も?」と言う。

なんでも昴ちゃんさんが実家に帰った年もこうなったそうだ。


その時は就職を控えていて悩んでいると思われていたらしい。


クリスマスに薫くんを招きたかったのだが、ようやく家族3人の団欒が迎えられる鶴田家の邪魔は出来ないし、20年かかっての団欒が迎えられる事、それは嬉しい。でも冬に地元に帰られると戻ってこないんじゃないかと不安で仕方なくなるらしい。


私はそんなお母さんをムービーで撮るとすぐに薫くんに送る。

お母さんが「団欒の邪魔しちゃうからダメ!」と言った時には送信済み。


ありがとう5G。

5Gってよくわかんないけどありがとう。


そうしたらすぐにお母さんのスマホに昴ちゃんさんから着信が来た。

暗かったお母さんは飛び上がって深呼吸をすると「昴ちゃん!」と電話に出る。


大きくて明るい声。

お母さんは別人みたいにキラキラとしていた。

そして私が鶴田家をお正月に招待した事を聞いて飛んで喜ぶと電話を切って「お母さん!麗華が昴ちゃんを誘ってくれた!3日に薫くんと美空さんと来るって!」と言う。


亀川家はお客さん大歓迎なのでお婆ちゃんも「あら、良かったじゃない」と言って喜ぶ。

お婆ちゃんも明るいお母さんがいいらしい。


私はすぐに薫くんと美空さんに「マジ感謝してます!なんか明るいお母さん見ちゃうと暗いの見たくないんです」と送ると美空さんは「良かった。でもご迷惑じゃない?困った時は言ってね。ウチから用事が出来たとか風邪を引いたって断れば貴子さんも諦めると思うわ」と返してくれて薫くんは「良かったのかな?まあ母さんも悪い顔はしてないし、父さんはなんかお正月に3人で親戚以外のお家にお邪魔するのが初だからってなんか調べ始めたよ」と返してくれた。



クリスマスパーティーに間に合った鷲雄叔父さんはお母さんから話を聞いて「マジかよ。麗華、お手柄だ。あの暗い貴子はダメだ。よし、牛だ。薫くんの肉不足を補う為に牛を一頭買って招くぞ」と意気込み、お父さんは「え!?正月に亀川家の敷居を跨ぐだと?」とご不満だったがお母さんから「え?やなら家でテレビ見ながらビール飲んでれば?高い奴買っていいよ」とお金を渡されかけて「俺だって亀川家のお正月に出るよ!」と返されていた。


この後は凄かった。

お母さんはお父さんがヤキモチを妬かないように31日にならないとやらなかった大掃除を26日に終わらせて27日からは亀川家の大掃除を手伝っ…主導した。

普段ならやらないソファの下まで掃除をして大きな埃を見つけたり、タバコの臭いを徹底排除するとリビングの壁から天井まで拭きあげた。


そして昔鷲雄叔父さんの部屋だった跡地に手書きで「喫煙所」と書いてリビングでタバコを吸わないように徹底をした。お爺ちゃんは癖でタバコに手を伸ばすとお母さんから「お父さん!鷲雄の部屋行って!」と言われていた。


そして28日は筋肉痛で「龍輝…背中押して、麗華、腕揉んでと言って「貴子…無理すんなって」「お母さん、大丈夫?」と言いながら私達は20分マッサージをするとお母さんは湿布やら塗り薬を全身に貼ったり塗ったりして栗きんとんを作っていた。


お母さんはキチンとお父さんが文句を言わないようにうちの年越しも元旦もちゃんとやった。

お父さんは年越しそばを食べて、元旦のおせちを見た時に「これだよ。俺が夢見た正月!よし!初詣行こうぜ!」と言った。



バカじゃないかと思った。

食べろよ。

だからガサツだし昴ちゃんさんに勝てないんだ。



お母さんは「はぁ?食べないの?ならもう作らないよ?」とお父さんを怒っていた。


「な…なんでだよ!?お前、出店嫌いだったか!?」

お父さんは何もわかっていない。

もう一度言う。

だから昴ちゃんさんに勝てないんだ。



そして事件は3日の日に起きた。

まあ起きるだろうなと思っていた。

お母さんは2日の夜には亀川の家に前乗りをした。私はお母さんから直々に「龍輝係を頼めないかな?アイツってばヤキモチ妬くからさ」と言われて「いいよ」と言ってもうヤキモチを妬くお父さんにビールを飲ませて「新春のお笑い番組なら一緒に見てあげる」と言ってコレでもかとビールを注ぐ。


「くぅ〜、麗華の入れてくれた酒はうめぇ!」と喜んでヘベレケになったお父さんは「お前も来年受験だろ?」だの「去年は散々だった」だの「お前の彼氏は俺が認めた奴だ」だの言ってくれたが我慢をした。


特に言うが、散々な去年にしたのは全部お父さんが原因だ。

商店街で喧嘩してお母さんを突き飛ばして薫くんがお母さんを助けるミラクルを発生させなければお母さんはきっと今も暗かった。


「ほら、正月からやめてよね。飲みなよ。飲まないと温くなるしまだ冷蔵庫にあるよ?」

「お…おう」


こうして酔い潰れたお父さんの写メをお母さんに送って「マジキツい」と送ったら「ごめんね!」と返ってきた。


いいよ。お母さんの笑顔はずっと見ていたいもん。



そして3日の朝は二日酔いで始まったお父さんが行きたくない気持ちといない所で楽しまれたくない気持ちに苦しみながら亀川家に着くと1時間して昴ちゃんさん達は来た。


お母さんは筋肉痛なんてなんのその。飛んできて泣いて喜ぶ。


私は薫くんと美空さんにお礼を言った。


ここからは昴ちゃんさんの…鶴田家の独壇場だった。


お土産は大昔にお母さんから教えてもらっていた物を取り揃えてくる。

お母さんはとりあえず昴ちゃんさんと話したくて話題のない日は家族の紹介をしていたらしい。

そして同じくお母さんが初恋の相手だった昴ちゃんさんはお母さんの言葉を全て覚えていてお婆ちゃんとひばりおばさんにカステラ、鷲雄叔父さんとお爺ちゃん男性陣に焼酎、そしてお母さんにイチゴ大福、後は私達にバームクーヘンとかマドレーヌの入ったお菓子とお年玉をくれた。


臨時収入万歳。


そして昴ちゃんさん無双は止まらない。

出されたご馳走を満遍なく感謝しながら食べて鷲雄叔父さんのハイペースに付き合ってお酒を飲む。既にひばりおばさんの旦那さんは戦列を離れてスヤスヤと寝ている。


喜ぶ鷲雄叔父さんにご馳走が美味しくてつい進んでますと優しい言葉まで言う。


ここで昴ちゃんさんは「亀川、栗きんとん貰うね。うん。美味しいね。甘過ぎないからお酒を飲みながらでも美味しいよ」と言いお母さんは真っ赤に照れて泣きかけながら「本当!良かったよぉ」と言った。


ちなみにお父さんは「酒飲みながら食えねえよ」と言って未だに栗きんとんは食べていない。


だからこうなったんだぞ?

そう言いたくなった。


もしかしたら昴ちゃんさんはお酒と食べる栗きんとんが苦手かも知れないが、昴ちゃんさんなら顔に出さずに喜んで食べると思った。



この後、中一の虎徹が薫くんに勉強を見てもらう。中一なら美空さんだと言って美空さんが勉強をみると私とおバカツインタワーの虎徹なのにわかるようになる。


虎徹は「あれ?わかる?なんで?」と言って喜び、美空さんからは「この後も同じ問題が続くわ、今のやり方を右上にメモして。そう、それを見ながらやってみて。虎徹くんは分からなかったのよね?半分出来たら偉いわ。間違えた所はまた一緒に何を間違えたか調べましょうね」と言われたら残り9問中7問を正解し、間違えた所もすぐに間違いを見つけられていた。


ここで美空さんが塾講師をしていた事、その塾の先生が初恋の人で夢がなくなって死んでしまっていて、昴ちゃんさんと結婚したのもその人のためで、不純だからと昴ちゃんさんに心を開かなかった事を教えてくれた。鷲雄叔父さんはそこまで聞いていなくて初耳だった事とようやく昴ちゃんさんと相思相愛のラブラブになれたのに亀川家まで来てくれた事に申し訳ないと言い出してマグロを一匹買っておけば良かったと言い出した。


マグロか…、舟盛り食べたいから来年も来てほしいな。


ここで栗きんとんの一件から嬉しすぎて「私飲んじゃう!」と飲んだお母さんが見たことのない酔い方をした。

嬉しいと言いながら昴ちゃんさんの左側に座って喜んで腕に抱きついた。


私はすぐにムービーを撮っておいたし、鷲雄叔父さんが美空さんに謝って美空さんは冬が来る度に悲しい思いを繰り返していたお母さんを今日だけはと受け入れてくれた。

それは一応お母さんは普段はキチンと超えちゃダメな所を弁えているからだろう。


だがここでお父さんがキレた。

なんでも謝る順番が違うのとついで謝罪だったという内容だった。


小さいなお父さん。


ここで昴ちゃんさんはキチンと自分だけが悪いと言ってお父さんに頭を下げたがお父さんは謝られたいのではなく昴ちゃんさんに恥を書かせたい、勝ちたい一心で美空さんに八つ当たりしようとして凍りつくような声と眼差しを喰らう。


出鼻をくじかれたお父さんがお母さんに手を出そうとした時に昴ちゃんさんはキチンとお母さんを守り、美空さんに危害が及そうな時には威圧しながらお父さんを撃退した。


私は勿論ムービーを撮る。

そこにはバッチリと負けられないと卑怯にもタバコ攻撃をしようとしたお父さんが鷲雄叔父さんに殴られて追い出されたところまで入る。


お父さんと鷲雄叔父さんの会話に気になる事があったがそれはまた今度聞けばいい。

問題は昴ちゃんさん達が責任を感じて帰り、薫くんも遅くなるからと帰った後だった。


お母さんは「もう龍輝とは無理かなぁ」と言い出した。


よっしゃ!

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