第3話 薫の知らない昴の顔。
俺はさておき、父さんと母さんは挨拶、立ち振る舞い、そして子供達の勉強まで見れてしまい存在感もなにも凄かった。
女性陣どころか酔った鷲雄さんまで父さんと母さんの馴れ初めを気にしてしまい、「このような場で話す事ではありませんが簡単になら」と言って父さんと母さんが説明をした。
父さんと母さんがようやく和解をして今が新婚気分とだけ聞いていた鷲雄さんは爺ちゃんのワガママと沖田さんの遺骨の件で始まり、20年間義務と責任だけだった夫婦をしていた父さんと母さんの話を聞いて涙を拭いながら「それなのにウチに来てくれたんですか!?知ってたらマグロ一匹買ってたのに!!」と言い出す。
鷲雄さんは本気でやりかねない。
勉強の話はそのまま鷲雄さんの子供達、正宗くんと宗光くんが教えてと来たが沖田塾の対象年齢を超えていて母さんより俺向きだったので説明をする。
正宗くんと宗光くんが「わかる」「ありがとう薫くん」と言うとひばりさんが「はぁぁ、凄いわ薫くん。塾とかは?」と聞いてくる。
俺は母さんを見て「母さんに教わってたから特には…」と言い、驚かれてしまう中、顔の暗い麗華さんが気になって話を聞くとそろそろ受験を意識する年齢なのだが勉強は苦手で話にならないと言う。
「それなら何が苦手かだけ薫が見てあげなさい」
母さんに言われた俺も「うん。バーベキューのお礼とかだね」と言って一つずつ確認していくと基礎と応用の間がうまく行っていないようだった。
「これとこれは同じ問題なんだよ。ここを見て」
「え?そうなの?」
麗華さんは勉強が嫌いというよりわからないことに向き合うのが嫌な感じがした。
そしてオーバーキル4は、楽しくなった貴子さんが酒を飲んで泣きながら父さんの横に座ってしまった事だ。
貴子さんは割り込むように父さんの横に座って「昴ちゃん!嬉しいよ」と言う。
父さんは優しく微笑んで「本当、嬉しい時の息遣いだね」と返す。
半ベソというか今日も使い終わった箱ティッシュたちの山を作りながら貴子さんはお酒を飲んでは父さんに話しかける。
「来てくれてありがとう!」
「ううん。本当に去年は薫がありがとう。それに年始からお邪魔してごめんね」
「ううん。もうお正月が来る度に悲しい事を思い出さなくなって嬉しいよ!」
そう言った貴子さんは父さんの腕に抱きついた。
一瞬場が凍り付いた気がしたがそれは俺だけだった。
父さんは困り顔で「ダメだよ亀川」と注意すると貴子さんは涙をボロボロと流しながら「だって、だって…!本当あの時はお正月に初詣とか年越しそばとか考えていたのにさ!」と言うと更に泣きはじめてしまい、鷲雄さんが「美空さん、済まない。本来旦那さんの事で奥さんに言うのはおかしな話だが、今日だけ大目に見てやってくれませんか?」と謝ると母さんは余裕の笑みで「ええ。昴さん、きちんとお別れもできないで散々貴子さんを泣かせてしまったのだから今日くらい仕方ないわよ。それにきっとお酒抜けて知ったら反省してごめんなさいのメールが沢山来るわよ」と言う。
よく見ると麗華さんがムービーを撮っていて、母さんの言質を得た所で、写真を撮って「後で見せようっと」と笑う。麗華さんは勉強が少し分かった事で気持ちは晴れやかになっていたようで表情も明るい。
母さんが了承をした事で父さんは困り顔で「亀川、今だけだよ?本当は酔っていてもダメなやつだからね?」と注意をすると貴子さんは嬉しそうに父さんの腕に力を入れて「うん!うん!ごめんね昴ちゃん、ごめんね美空さん、龍輝もごめん」と言った。
この瞬間、龍輝さんがキレて暴れた。
まあよく我慢してたなと思うが、挨拶、勉強、会話と立つ瀬がなかった龍輝さんは今の貴子さんの謝罪にキレた。
支離滅裂な怒りの言葉達を要約すると「も」が良くなかったらしい。
1番に旦那たる自分に謝れと言っている。
そして父さんに喧嘩腰で「お前も同じ目に遭って笑ってられるか?」と言い、母さんに「お願いします!俺の横で飲んでください!」と言った瞬間…約1年ぶりに無感情の母さんが出てきて「お断りします」と冷たい目で睨み付けていた。
まだ暖かかった場は一瞬で凍り付いた。
そう、懐かしい鶴田家の空気になっていた。
そっとひばりさんが「薫くん…まさか…」と聞いてきて俺が頷くと「昴ちゃんさんってその中で19年もやってきたの?凄い愛だ」と驚く。
「美空さん、ごめんね。大丈夫だから」
父さんはそう言うと貴子さんに「亀川、離すよ」と言って貴子さんから離れると立ち上がって「龍輝さん。気分を害してしまったようですみません」と父さんは頭を下げた。
そして「悪いのは酔って泣いているからと受け入れてキチンと断らなかった俺です」と続けて貴子さんまで庇った時にずっと黙っていた貴子さんのお父さんが「龍輝、お前の負けだ。座れ」とドスのきいた声で言った。
普段なら貴子さんと龍輝さんが喧嘩になってもこれで収まったがこの日はオーバーキルの連続で龍輝さん限界だったのだろう。
「オヤジ!ダメです!腹の虫が収まりません!」と言った龍輝さんは貴子さんに近づいて「貴子!そこから離れろ!」と手を伸ばしたが父さんが「その手はダメです。きっと亀川が怪我をします」と言って手を止める。貴子さんは状況がよく分かっていないのか動かない。
父さんってば物怖じしないのなと思っていた。
その理由は、まだ父さんが困り笑顔だったからだ。
父さんに止められてワナワナと震えた龍輝さんは「なら同じ思いしてみろ!」と言って母さんに手を伸ばそうとした。
俺は震えた。
父さんの事を何も知らなかった。
父さんの仕事を知らなかった。
後で聞いたがどうしても半分現場仕事で血の気の多い連中と働いていると度胸だけはついてしまうと言っていたし、「俺は美空さんと薫を幸せにしなきゃいけないから逃げられなかったしね」と言って困り笑顔を見せていた。
血の気の多い連中とやらがどんな奴かを知らないが父さんは龍輝さんの腕を掴むと「やめろ、俺に文句があるなら俺に言え、俺の妻を巻き込むな。自分の妻に八つ当たりをするな」と圧を放ちながら言った。
この落とし所がどうなるのか見ていたら龍輝さんはとんでもない手に出た。
空いている手でタバコに火をつけて父さんに向けて煙を吹こうとした。
それを慌てて制止して、更に殴ったのは鷲雄さんだった。
「テメェ龍輝。何をした?昴ちゃんさんに何しようとした?クソみたいな真似してまで勝ちたいのか?お前言ったろ!貴子の笑顔が1番だって!だから望みは少ないがアタックして見ろって背中押してやったんだろうが!」
「あ…アニキ…、俺…貴子が1番です…だから…」
震える声で必死に弁明をする龍輝さんに鷲尾さんは「嘘言うな。1番は1番でも1番になりたいだけだろ?笑顔が1番の龍輝を思い出せ。とりあえず頭冷やしてこい」とそう言って龍輝さんを追い出した。
麗華さんはスマホ片手に「よっしゃ!」とガッツポーズで「昴ちゃんさん強い!薫くんは?」と聞いてきたが俺は実のところ父さんにガクブルだったので壊れたように首を横に振るしか出来なかった。
父さんは場の空気を悪くしたからと帰る事にした。
貴子さんはこの騒ぎの中で眠っていて何もわかってなかった。
どうやら父さんに抱き着いて龍輝さんを怒らせた所らへんで眠っていたようだった。
父さんはこれを幸いとした。
「折角のお正月にすみませんでした。それに片付けも何もせずに来てご馳走をいただくだけで申し訳ない」
そう謝ると亀川家からは逆に謝られ、龍輝さんのタバコ攻撃について心配された。
「あはは、職場でもそう言う奴らは居ましたから慣れました。少しなら平気です」
そう答えた父さんは母さんがデレる前は一人で隠れて薬を飲んで、それでも駄目だと医者のお世話になっていたらしい。
母さんはその事を知らなかったらしく、聞きながらショックで泣いてしまった。
父さんは母さんを見た後で亀川家の皆を見て「妻も落ち込んじゃったので帰ります」と言った。
「さあ美空さん帰ろう」
「はい。ごめんなさい昴さん」
父さんは貴子さんを起こすと貴子さんは「あれ?寝てた?いつの間に?なんで昴ちゃんの席で?昨日張り切りすぎたからかな?」と寝ぼけながら照れていた。
貴子さんが落ち着いた所で「ありがとう亀川。もう帰るね」と言うと一瞬で表情が暗くなった貴子さんは「え!?なんで!?」と言う。
「これ以上お邪魔すると遅くなっちゃうし、ごめんね。ちょっと美空さんの調子も良くなさそうだからさ」
この言葉に貴子さんが母さんを見ると母さんは父さんが知らない所で苦手なタバコで苦しんでいた事実からショックを受けていて顔色が悪いので「あ、本当だ。美空さん大丈夫?」と言って駆け寄る。母さんは優しく微笑み返して「ええ、ありがとう貴子さん」と言う。
「亀川も、酔ってもハメを外しちゃダメだよ?」
「私はそこまで酔わないもん。あの騙され合コンの日くらいしか記憶無くした事ないよ」
…と言うことは今日が2回目だったと。そう思う俺と同じ事を思った父さんは「そう?」と言った後で「そっか。また連絡するね」と言って微笑むと俺に「薫も長居しないで適度な時間で帰ること、キチンと1番お手伝いするんだよ」と言った。
一緒に帰る気になって居た俺は「え?父さん?」と聞き返すと「俺と美空さんが帰って薫まで帰ったら亀川が拗ねちゃうだろ?今だって悲しい時の息遣いなんだ。もう少しお邪魔させてもらいなさい」と言い、父さんは引き止められても丁寧に断りを入れて帰って行った。
この後はまあ地獄だった。
一つ目は母さんが父さんに苦労をかけていた事を謝り続けて父さんが「美空さん、2人の初詣をしましょう」と誘って有名なお寺に初詣に行って人混みを理由にコレでもかとくっついて、2人で出店でイチャイチャしてその写真が事あるごとに俺のスマホに届く。
これが家ならまだ呆れるだけで済んだが、今も「出店の焼き鳥、高いけど折角だからって食べてるのよ」なんて夫婦で焼き鳥片手のラブラブ写メが入る俺が居るのは、帰り損なった亀川家で、そんな亀川家は大荒れだった。
折角楽しく飲んでいた鷲雄さん達は龍輝さんのせいで酒が不味くなったと怒り狂い、何も知らずに寝ていたはずの貴子さんには麗華さんがムービーに収めていて全てを見せた。
最初は酔った貴子さんが父さんの腕に抱きついたムービーで「え!?やだ!何これ!?これで美空さん怒っちゃったんじゃない!?謝らなきゃ」と慌てるが、母さんの言葉を聞いて「あれ?怒ってない」と言ったところに麗華さんが「お母さん、ツーショット写真欲しい?」と聞く。
「え!?写真もあるの!?欲しい!」と言って滅多に見れないらしい笑顔で「わぁ、昴ちゃんとの写真、覚えてないし私泣き顔だけど初めてだから嬉しいよ」と喜んだ貴子さんだったが「お母さん、天国から地獄」と言って龍輝さんのキレたムービーを再生した。
貴子さんは見たことのない顔でブチギレた。
正直怖かった。
だが父さんが眠ってる貴子さんから離れて守った所で「昴ちゃん」と頬を染めた。
一緒にムービーを見ていたひばりさんとお母さんは「昴ちゃんさんは紳士的だよねー、龍輝にも頭下げてたもんね」「あれは相当仕事で揉まれた男よね」と言って父さんが頭を下げた所を褒めたりしている。
そして母さんを守った所で貴子さんは惚れ惚れした顔をした直後にブチギレた。
「龍輝!?昴ちゃんにタバコ攻撃!?何やってんの!?」と怒った貴子さんはすぐに泣きそうな顔で「ごめんね薫くん!!」と謝ってくるのだが俺の心配は父さんじゃない。
父さんには母さんが居る。
「いえ、大丈夫です。俺はそれより龍輝さんが心配なんですけど…」
そう言ったがガン無視されて俺は皿洗いを名乗り出て7時半に亀川家をあとにした。
玄関で麗華さんから「帰るまでに龍輝に絡まれたら迷わずケーサツだよ!」と応援された。
麗華さん…、君はどこまでいくつもりだろうか?
貴子さんは専業主婦。
もう少し龍輝さんに感謝があってもいいと思う。
そんな事を想いながらも闇討ちが怖いので明るい大通りを歩く俺に父さんからは「まだ居るかな?亀川をよろしく」と入り、母さんからは「見て!2人で選んで破魔矢買っちゃった!」と新たな父さんとのツーショットが入ってきた。
俺はとりあえず色んな物に疲れた。
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