中立国ニューラルまでの道中

 


 翌日、玄関で僕とお兄ちゃんはお母さん達と向き合っていた。



「フィグラ、ちゃんと気をつけて行きなさい」


「そうだぞ?フィレットが居るとはいえな」


「それはどういう意味だよ…父さん」


「フィグラ様、どうかお元気で」


「…リリさんだけおかしくない?あれ?別に一生会えないとかそういうわけじゃないよね?」


「冗談です。きっと試験は行けます」


「…もちろん!」


「じゃあそろそろ行こうかフィグラ」


「うん!」



 学院がある国、中立国ニューラルへ。そして、世界最大の広さを誇る国へ。





 ◆




 出発して数時間(体感)、何も起きないね!!天気がいい!



「…暇だな〜」


「ははっ。まぁ…平和なのはいいことだからね」


「そうだけどぉ…」


「ゆっくり行こう。…おや、フィグラ?」


「んー?」



 なんだろうと思ってお兄ちゃんの方を見ると目つきがいつもの目と違って真剣な目だった。


「この道を北と仮定して、北東方向およそ264メトル先に魔物1体。丘の向こうだね」


「やっぱり凄い索敵能力…」



 お兄ちゃんの凄いところはこの索敵範囲の広さだ。限界は僕も知らない。あっ、メトルってのは日本で言うメートルだね。センチやキロとかその辺りは表現方法同じだったのは驚いた記憶がある。



 お兄ちゃんが言った魔物というのは日本で有名なラノベに出てくる魔物とほぼ同じような生き物。だけど、あれよりもっと醜い。



「スキルのお陰だよ。…さて、どうする?」


「倒した方がいいと思う。危険だからね」


「じゃあ、行こっか」



 そう言って僕とお兄ちゃんは魔物がいるところへと駆け出した。




 丘を越えてやがて見えてきたのはお兄ちゃんが言っていた一匹の魔物だった。んー、がたいが良くて小さな角が2本頭に生えている。小さな布切れしか纏っておらず大丈夫なのかと思う。



「あれは、珍しいオーガ君だね。ここら辺じゃあまり見かけないからはぐれ魔物って所か。布切れしか纏ってないからね」


「布切れしか纏ってないならはぐれ魔物なの?」


「まぁ、これはオーガとか魔物にしては比較的知性があるやつに通用するやつなんだけどね。

 オーガは集団で群れをなして生活をするんだよ。群れのオーガは全体に布切れではなく布を纏っていて、ものによっては鎧とか纏っているオーガもいる。だけど、あれを見た感じ布切れというより千切られた布って感じがするんだよね〜。そこから考えると、群れから追いやられた魔物だと思う」


「わー、長文だー。…コホン。なるほど、勉強になったよ」


「まぁ、どうせ学院で学ぶからね。僕が倒そうかい?」


「ううん」



 僕は死神スキルを発動させ右手に真っ黒な大鎌を出現させる。



「僕がやるよ」



 そして、死神とは違うあるスキルを発動させる。


 "不動"スキル。このスキルを使うと心が動揺しなくなる便利なスキルだ。

 僕は怖がりだからね、オーガとか見ると足がすくんでしまうかもしれないからね…


 このスキルは便利だけど欠点もある。それは、動揺しなくなる…つまり心が動じなくなるせいでどんなに大きな事が起きても「ふぅん…だから?」ってなる。気をつけないと大変なことになる気がする。



「…フィグラ」


「なに?」


「今の君は、僕のフィグラなのかい?」


「別にお兄ちゃんのものじゃないんだけど。…僕は僕だよ」


「…そうか。僕から言わせてもらうけど、今のフィグラはなんか僕の知ってるフィグラじゃない気がするんだよね」


「…そっか。まぁ、無理しないようにね」


「うん、行ってくるよ」



 お兄ちゃんに一言言って僕は気配を消す。死神スキルの副効果?的なやつだね。気配の遮断や魔力の遮断などなどなど…



 僕は気配を消したまま素早くオーガの背後へと近づく。



(こっちには気づいてない様子。いける)



 ドスン、ドスンとオーガが歩くたびに音が鳴る。


 近くで見るとオーガの体には傷跡があるのが分かる。お兄ちゃんが言っていたように仲間から追いやられたんだね。


 僕は大鎌を片手に持ち直しオーガのうなじに向けて息を吐くような自然的な動作で大鎌を振るう。

 刀身がうなじを通過した瞬間…オーガの体がガクンッと崩れ落ちた。それと同時に真っ黒な大鎌が一瞬だけボウッと赤く光ったような気がした。



「……終わりっと」



 地面に倒れ伏したオーガの死体を横目にそう呟く。同時に死神スキルと不動スキルを解除する。



「……フィグラ、今のはなんだい?」


「あっ、お兄ちゃん。今のはスキルの力だよ」


「スキル…か。ユニークスキルかい?」


「そうだよー。死神スキルだね」



 僕がそう答えるとお兄ちゃんは苦笑して小声で「流石…神の名を冠するスキルだけあるね」と呟いていた。


 死神…死の神。この世界では死神っていうのは悪い神や恐ろしい神ではなく良い神らしい。詳しくは知らないけどお兄ちゃんからそう教わった。



「…さて、と。このオーガどうするつもりかい?」


「…さぁ?」


「さぁ?って…まぁ、魔石だけ回収しようか」


「了解!」



 魔石ってのは、魔物の体内にのみ生まれるエネルギーの塊だね!大きさによるけど高く売れるよ!


 お兄ちゃんから解体用のナイフを受け取って魔石を探す。



「魔石どこかな〜?」


「…ねぇ、フィグラ?笑顔でオーガの体内をぐちゃぐちゃ言わせながら魔石を探しているのを周りから見ると完全にヤバい人だよ?」






 〜〜〜〜〜



 フィグラとフィレットが中立国ニューラルへ出発して数時間後の事…


 アルド村にて、一人の少女がアルド村の領主であるアルフレッド家へ訪問していた。



「えっと…言いにくいんだけど、フィグラはフィレットと一緒に中立国ニューラルにある学院に試験を受けに行ったわ」



 フィグラの母であるシリカ・アルフレッドは少女に対して申し訳なさそうに言う。それを聞いた少女さ愕然とした。



「と…と言うことは、遊べないって事なんですか?」


「ごめんねぇ、久しぶりに遊べたのに」


「だ、大丈夫です。っ!もしフィグラが学院に入学したら」


「そうねぇ、最低でも数ヶ月は遊べないんじゃないかしら?」


「がーーん……フィグラと遊べない……そ、それだけは避けなきゃ」



 がっくりと項垂れる少女を見てシリカは思案顔をする。



「うーん、流石に可哀想よねぇ…なら、あなたも学院に試験を受けに行く?」


「で、でも学院がある所まで私一人では」


「そこが問題なのよね……よし、私に任せておきなさい!必ずなんとかしてみせるわ」


「っ!いいんですか!?」


「えぇ、もちろんよ。だけど、その代わり条件があるの」


「どのような条件で、ですか?」


「ふふっ、それはね?――――」

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