その日の夜

 



「…これは、また……熊を狩ってきたのか」


「ぜぇ、ぜぇ…う、うん…はぁ」



 お父さんが僕が運んできた熊を見てそう言ってきた。


 流石にあの距離を運ぶのはキツイ…



「…怪我はないようだが、やっぱりどうやって傷もつけずにこの熊を倒してるんだ?」



 お父さんが熊の死体を見ながら首を傾げてる。



「秘密…けほっ…だよ?」


「フィグラは休んでいろ。疲れただろ?そうだ

 リリ!いーー」


「お呼びですか?」


「うぉ!?驚かせないでくれ…」


「失礼しました」



 お父さんがそう言っているけど…僕も、いつ来たのか分からなかった。



「フィグラ様。汗をかいているではありませんか。お湯を沸かしておりますのでご入浴なされますか?」


「んー…入る!」



 僕の家にはお風呂…といっても木で作られたやつだけど…まぁ、そんなのがある。それに水を入れて魔道具と呼ばれるやつで水を温めてお湯にするんだって。その魔道具も地味に高いらしいけどお母さん曰く、「フィグラのために買ったのよ?あと、あの子のためよ」らしい。

 ちなみにお母さんが、言ったあの子とは、僕のお兄ちゃんだ。名前はフィレットお兄ちゃんで、年齢は13歳で既に学院に通っている。

 寮生活らしくてたまにしか帰ってこない……でも、僕の誕生日には帰ってくるかな?



「かしこまりました。では、行くとしましょう」


「あっ!うん!」



 リリさんについて行く。…リリさん、何やら嬉しそうというか、足取りが軽いっていうか…なんでなんだろう。



 原因はお風呂場に行ってすぐに分かった。




「では、フィグラ様。私が隅々まで綺麗にしてあげます」



 手をワキワキ?させながら僕の服を脱がそうとしてくるリリさん改めて変態メイドさんに、僕は声を大にして言う。



「っ!!早く出てって!!!」




 ◆




「…なぁ、フィグラ。なんでリリはこんなに落ち込んでいるんだ?」



 僕が狩ってきた熊のお肉の料理が並んでいる楽しい晩御飯時。


 ずーーん……と擬音がつきそうな感じで黙々とご飯を食べているリリさんを横目にお父さんがそう聞いてきた。



「言いたくない」


「そうか…」


「ふふっ、きっとリリがフィグラに何かしようとして拒絶でもされたのよ」



 流石僕のお母さんだ。


 ちなみに、あの後リリさんを叩き出して僕は入ってこないかドキドキしながら入浴した。



「どうかしら?リリ、当たっているかしら」


「…はい」


「フィグラは可愛いから仕方ないわ。私はなんとも思ってないわよ?」


「欲に負けました…」



 欲…



「その辺にしとけ。今日はフィグラが狩った熊なんだから」


「えぇ、そうね」



 お父さんが若干引き攣った笑いを浮かべながらそう言った。



 …熊肉、美味しいんだけど顎が疲れるんだよねー。んぐんぐ……あっ、そーいえば。



「お父さん」


「ん?なんだ」


「僕ね、前にお父さんが言っていた学院に行こうかなって思ってるんだ」


「本当か!よし、早速明日手続きをしに行こう」


「え、あ…明日?」


「そうだ。来月の4ノ月、12ノ日に入学式というものがあって、前日までなら手続きを受け試験を受けることができる」


「試験?」



 まさか勉強じゃないよね?無理だよ?



「軽い知識と戦闘の試験だ」



 ……え、終わった。



「そ、その知識って?」


「大陸や地方の名前、王様の名前や国の名前、他にも魔法関係だな」


「……僕、無理だよ」


「そんな事ないぞ。仮に勉強の方がダメでも戦闘の方でいい点を取れたら入学はできるしな」


「っ!!」



 よし、勉強は諦めて戦闘……戦闘って言っても誰と戦えばいいんだろう?



「あと、これは試験とは関係ないが人数は多いだろうな」


「人数?…あっ、僕と同じように試験を受ける人?」


「そうだ。今月のいつからだったか……9ノ日から一斉に入学申し込み、そこから試験が始まっているはすだ。つまり、その日からさっき言った12ノ日までは試験を受ける人が全ての大陸から来るからな」


「全てなの?この……大陸からじゃなくて?」


「今、中央大陸の名前出てこなかっただろ」


「……」



 だって…分からなかったもん。いいじゃん!別に!



「…まぁいい。この中央大陸からじゃなくて東西南北、全ての大陸に合わせてさらに向こうの大陸からも人が来るからな」


「えぇー!そんなに!?」


「それだけフィグラが受けようとして、フィレットが入学した学院の知名度が凄いっていうわけだ」


「じゃあ、入学出来る人は凄いんだね」


「そうだが、案外簡単に入学出来るぞ」


「え、そうなの?だって、流石に一度に入れる人って言っても限度があるよね?」


「あの学院はとても広くてな…それこそ、王様が住む王城より広い。分野別に分かれているんだ。例えば、戦闘系が得意なら戦闘に関する分野、頭脳系が得意なら指揮や学者などの分野。さらにそこから細かく分かれていくから人数制限はあってないようなものだ」



 …どういうこと?



「じゃあ、一回で…5000人とか入るの?」


「入るぞ。時間は簡単で、余程の馬鹿かヤバいやつじゃない限り確定で合格だ。

 確か過去最高が何人だったか…シリカ、覚えているか?」


「うーん…確か数万だっけ?全部の分野が埋まって学院が設立して以来初めてとか言われていたわよ」


「そういうわけだ」



 数万?どういう土地の使い方をして、どんな建物を作って、何百人もの教師を雇っているんだろう…その中の一人ってめっちゃあれだね。あれ、そう普通だね。



「まぁ、詳しいことはフィレットに聞け。フィグラの誕生日にこっちに帰ってくるって聞いたから」


「っほんと!?」



 やった、フィレットお兄ちゃんが帰ってくる!



「ふふふ、フィグラは本当にフィレットの事が好きよね」


「だって優しいお兄ちゃんだもん」



 優しくて、強くお兄ちゃん。…あっ、あと、僕が初めて性癖を歪ませちゃったのもあるね!なんか、そんな感じがした。


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