第22話 再会
心地よい風と人肌の温もりを感じる。
「うぅ~ん」
廻りではざわざわした声が聞こえる、うるさい。
うっすらと覚醒はしているものの私は寝返りを打ちつつ、その幸せな温もりをより近くで感じたくてそのまま抱きしめる。
「う、わぁ」
手には柔らかい感触が、顔にはサラサラとした何かが触れる。
なんだろう、少し目を開けてみる。
「お、おはよう」
目の前には青い髪の彼女がいた。
「お、お、お、」
その彼女に膝枕をされ、抱きしめたまま、挨拶を返せないどころか「お」しか言えずに固まる私。
「アルテス、セレネさんですよ」
ミレさんの声が背中から聞こえる。
「お、おはよう、セレネ!」
私は一気に覚醒してその場で立ち上がる。
セレネはゆっくりと起き上がると笑顔で答える。
「おはよう、アルテス」
立ち上がると自分がどこにいるのかがわかった。
フロアの真ん中、ステージに近いテーブルに寝かせられていたようだ。
お客様たちからも安堵の視線を貰えるけど、これはとても恥ずかしいわね。
お店の人がお客様たちに事情を説明して帰すまで休憩室で休んでいてくれ、とのことでセレネの先導で移動する私たち。
休憩室は簡易ベッドとテーブルとイスがワンセットあるだけの部屋だったので、私がベッドに横たわるとセレネがベッド脇にイスを動かし、そこに座って引き続き傍にいてくれた。
しばらくすると扉からノック音が響く。
「はーい」
セレネが扉に向かうと、ミレさんが入ってきた。
私が起き上がろうとすると寝たままでいいと制止されたのでそのままでいると、ミレさんが経緯の説明をしてくれた。
歌によって全員が恍惚としている中、終わったと同時にセレネが意識を失って、ステージ上で倒れ、観客側でも少女が倒れたと店内が軽くパニックになったようだ。
動かしたらまずいということで2人とも寝かせていたら先にセレネが起きて、ミレさんが私のことを「セレネに会いに来た姪」と伝えてくれ、そのあとはセレネが看病してくれていたとのこと。
思い返せばスキルが自発的な発動じゃなかったからなのか、それともセレネのスキルが強すぎたからなのか、確かにあの時の意識の混濁具合は異常だった。
ミレさんはもう少しで全員帰ると思うからもう少し待ってるようにと言い残し、部屋から去っていった。
休憩室でセレネと2人。
「看病してくれて、本当にありがとう、セレネ。貴女に会えてよかった」
改めて私はお礼を伝える。
「ううん、こちらこそ、アルテス、ボクもキミに会えてよかった」
そう言って手を繋いでくるセレネ。
私は顔が赤くなってないか心配だったけど、具体的な話は避け、伝えることだけ伝えよう。
「これからいっぱいお話ししよう、私たちはそうしないといけないと思う」
私がそう言うとセレネは何かを察したように強く頷いてくれた。
「うん、いっぱいお話ししよう」
それからは呼ばれる時間まで歌の話やこの店の話を聞いたりした。
セレネと私の体調が大丈夫なのを確認した後、お客さんが帰ったフロアに戻る。
テーブルにはミレさん、この店のオーナーのクレイさんとスレイさん、セレネ、そして私の並びで席に着いた。
「色々驚いたが、まずはミレヴァさん、今回は来てくれてありがとう、そしてセレネのお披露目が出来て本当によかった」
「いえいえ、私も来てよかった、大変すばらしく、貴重な体験をさせていただきました」
そう言ってミレさんとオーナーのクレイさんとスレイさんが笑顔で握手をした。
「さて、セー坊、いやセレネ、初めてなのによく歌ってくれたな、本当に感動したよ」
「セレネ嬢、本当に素晴らしかった、貴女の初めてのステージで伴奏ができたことを一生誇るよ」
2人はそれぞれセレネに声をかける。
セレネは嬉しそうに笑っている、いい顔するなぁ。
するとクレイさんがこちらを向いた。
「アルテスさんもよくここまで来てくれた、きっと君も力を貸してくれたんだろう?」
そう言われてもなんて答えればいいかわからないけど、とりあえず。
「セレネの力があったからこそですよ」
と答えておく。
大きく頷いたクレイさんはミレさんに向き直る。
一瞬の間があき、ミレさんを見据えるクレイさんが何かしら葛藤したように感じた。
スレイさんも同様に緊張感が増した気がする。
「ミレヴァさん、セレネを中央都市に連れて行ってくれねぇか」
突然の言葉にセレネが立ち上がる。
「な、なんでだよ、聞いてないよ!ボクはここにいたい」
クレイさんはセレネを見ない、それを見てスレイさんが話す。
「クレイ、話すぞ」
クレイさんは何も言わない、それを肯定と捉えたのかスレイさんはセレネに向き。
「セレネ嬢のばあちゃんから何も聞いてないか?」
スレイさんはセレネに聞く。
「ばあやが、どうしたの?」
セレネは弱弱しく、逆に問いかける。
スレイさんはその姿を見ると立ち上がり、クレイさんに近づく、するとクレイさんは舌打ちをする。
「あれ、セレネ嬢に見せるんだろ」
スレイさんが嗜めるよう話しかける。
するとクレイさんは懐から何かを取り出して、スレイさんに渡すのが見えた。
スレイさんはそれを受け取り、席に戻るとセレネの前に出す。
テーブルの上にはとても綺麗な紙質の封筒が置かれた。
「俺たち宛の手紙だ」
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