第21話 輝く偶像
季節は秋になりかけて、この時間だと外気は少し肌寒く感じる。
スラム街ということもあり、街路灯も数が少なく、エリア全体の光量も中心街よりだいぶ寂しい。
それでも今この時点で街一番の明るさを持っているのがあのステージにある照明で、それ以上に輝いているのが彼女だろう。
ステージに立った彼女は本当に光り輝いているように見える。
窓越しだが常連だと思われる人と手を振りあって、それを見た他の人たちも俺も俺もと手を振り、声を出している。
彼女が笑顔で手を振っているのを見て、店内にいるミレさんと大きな男の人が入口や窓を見て、一瞬驚きの表情を浮かべるがお互いに顔を合わせすぐに頷くような仕草をする。
大きな男の人が入口に向かう、扉を開放するのかな、と思っていたらミレさんがこちらに振り返えった。
目があった、ミレさんは笑顔で頷く、それが見えたのとほぼ同時に私は馬車を飛び出した。
ワラワラと入口に向かうお客さんたちに紛れ、店内に入るとステージの見やすさとスポットライトの明るさがより鮮明にわかった。
お客さんたちは彼女のことをどこか神聖なものを見るような眼差しで見上げている。
この『何かが始まる』前の独特な雰囲気、劇場でも味わったことがあるけど、そのときよりも心臓の鼓動が早い。
彼女は一度目を閉じ、そのまま上を向いてスポットライトを浴びる。
ただそれだけなのに絵になる、本当に綺麗だ、水色の髪が揺れる度にライトの照明に反射しているのか、キラキラしている。
魔法の効果なのか、そんな疑問も出てしまうほどに。
それでもこんなにスポットライトが似合う人は劇団員にもいない、もちろん母も含めて。
再び目を開けた彼女は大きく息を吸う、それと同時に私の頭の中にメッセージが流れてきた。
―――――――
7姉妹スキル「エレクトラ」の発動を検知
7姉妹スキル「アルキュオネ」の修得条件提示
「創作家」「カリスマプロデューサー」「空間把握」の発動履歴を確認
7姉妹スキル「アルキュオネ」修得、強制発動
―――――――
ちょ、なに、いきなり。
意図せずに発動したスキルによる突然の高速思考で頭がとても痛い。
そんな中、彼女の横に座った男性が持っている楽器を弾き始め音楽が奏でられる。
伴奏、何だろうこの暖かい曲、気持ちが引き込まれる、思考している影響もあるけど頭痛よりもぼーっとしてきた。
そしてそんな中、彼女の歌が始まった。
ラララー・・・君が笑えば、この世界にもっと幸せが~・・・
あぁ、心地いい歌声、幸せな気持ちが溢れてくる。
日々の笑顔が絶えない賑やかな店内の情景、そしてオーナーだと思われる2人への感謝、お客様への感謝、その気持ちが伝わる。
彼女の心が波のように押し寄せてくる。
効果はわからないけどきっとさっきのスキルは彼女が発動したんだ。
それに引っ張られる形で、私も。
観客は感情が昂ぶり、彼女と同じく笑顔でそれぞれ肩を組み、一緒に口ずさんでいる。
歌の文化がないなんて嘘のような光景だ。
私は歌を聴きながらぼーっとする頭の中で強制発動したスキルの理解、そして歌のイメージが頭の中で構築されるのがはっきりとわかった。
諸々の整理が終わったと思ったとき、カチリ、と頭のどこかでスイッチが入った。
するとスポットライトに照らされた彼女を中心に私が想った歌のイメージがうっすらと投影され始めた。
きっと、この投影されたイメージが私のスキル、あぁ、彼女の歌にぴったりじゃない。
観客は何も疑うことなく、歌と映像を受け入れ、彼女のスキルと私のスキルで聴覚と視覚に最大級の感情の揺さぶりを受けている。
ミレさんを見るとミレさんも涙を流しながら聞いていた。
よく見るとみんな笑顔で目尻に涙が見える。
感情が追い付かないんだ、嬉し過ぎて、楽し過ぎて、幸せ過ぎて。
不意にオッカケ神に言われた言葉を思い出した。
『彼女は神に愛されている』
なるほど、意味としてそのまま受け取るとオッカケ神の寵愛を受けているというのもあるだろう。
ただ、彼女自身だ。
アイドル、前世のアイドルよりも本来のアイドル、偶像としての、神に愛され本人も崇拝される側としての意味。
そして歌が終わると同時に私は意識を失った。
この日、地方都市のスラム街にある一軒の飲食店に世界初の歌姫が誕生した。
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