第36話 死刑執行
殺人鬼は数日の尋問等を終え、処刑する日が決まった。
他の国でも騒がせていた事もあり、大々的にやる事と成った。
各国から色んな重役や被害者遺族が国に来訪して来る。
その際に空飛ぶドラゴンかワイバーンか、それを利用した乗り物を見ることが出来た。
驚いたのは、遺族の少なさだ。殺人鬼は世帯ごとに殺戮していた事もあり、遺族の参列が少なかった。
キンジロウさんは長い間殺人鬼を追っていた事もあり、表彰された。
殺人鬼を捕らえたサナも同様に表彰され、殺人鬼に掛けられていた金がキンジロウさんと山分けで配られた。
キンジロウさんはその金を殺人鬼の被害者の御家族等に渡し、サナは孤児院を総括する組合に寄付をした。
一応子供を守った事で俺も少しだけ感謝された。
ま、石化していた俺に報酬と呼べるモノなんて存在しない。
それから処刑する日、俺達はマジマジとその瞬間を見る事と成った。
処刑方法は殺人鬼の残虐性等を加味して、火やぶりの刑と成った。
十字架に吊るされた殺人鬼の下に火が点火され、火が燃え上がって行く。
その光景を見る貴族などは安堵、被害者遺族は歓喜し、なんの被害も無い民主はただの見物で来ていた。
等の殺人鬼は「何故また⋯⋯」と何度も繰り返し小さく呟いていた。
ぱちぱち、と弾ける音を鳴らしながら火は殺人鬼へと近づいて行く。
「ふざけるなあああ! なんで俺がああああ! この世は弱肉強食! 弱い奴が悪いんだああああ!」
確実な死が近づいている事を実感した殺人鬼は叫んだ。
それに向けられる目は冷ややかなモノである。
当然の行いを、殺人鬼はして来たのだ。
『なら、抗うしかないじゃない』
誰が呟いたか分からない。だが、全ての人間にその声が聞こえた。
耳を掠めた音では無く、脳に直接語り掛ける様な音。
刹那、空中を高速で飛来する黒い剣が殺人鬼を貫いた。
殺人鬼を捕らえてから、どこかに消えた黒い剣である。
殺人鬼の血を吸い尽くす様に蠢く。
「やばいよ、お兄ちゃん」
サナは新しく手に入れた魔法を使った事に寄り、ボロボロだ。
見た目こそ大丈夫そうだが、中身がボロボロなのだ。
動ける事も不思議なくらいに。
その原因が、造って貰ったケースに嵌められている小さな苗木かと思われる木である。
正確には魔法だが。
「あぁ。ここからでもジリジリ感じるよ。魔力がね」
こう見えても俺、石化されて必死に解こうと頑張っていたら、割と魔力の扱いが上手く成った。
まだ内部に流す魔力を集中させる事しか出来ないが、上達したのは確かだ。
お陰で、前よりも魔力を敏感に感じる事が出来る。
「ああああああああああ!」
殺人鬼が叫び、徐々に細い体に成って行く。
体の水分が抜けている様だ。
その光景に焦った貴族達が喚き、参列していた中で強者達が処刑場に降りて行く。
その中にはアルティメットバハムートのマスターの姿も見受けられた。
キンジロウさんも降りて行く。
「お兄ちゃんは良いの?」
「俺はここでサポートするよ。サナを一人に出来ない」
「そっか」
新たに用意したバレットを取り出す。これは流す魔力量を調整出来る、二丁のハンドガンと同じ仕組みである。
それを構え、スコープを覗く。
殺人鬼は皮が禿げ、肉が腐り落ちて、髪も全て抜けた。
見た目は完全に骸骨である。
「アンデッドか?」
「だと思うよ」
「なら、弾を変更だな」
普段の弾では意味が無いと思い、変える。
アンデッド等の不死属性に有効な弾である。
教会等の聖者の力が籠った鉱石を利用して造られている。
装填し、魔力を流す。
レールガンの仕組みが動き、弾を加速させて行く。
一方処刑場では、様々な猛者達がその場での連携を行い、攻撃しに向かっていた。
だが、同じ殺人鬼とは思えない程の剣術と魔法で圧倒していた。
キンジロウさんが金色の剣を振るうが、力押しで弾かれ、腹を蹴られていた。
砂ぼこりですぐに見えなく成ったが、僅かに見えたキンジロウさんの鎧は少し砕けていた。
「かなりのパワーアップを果たしている! 気をつけて!」
誰かが叫び、タンクを正面に置いて戦闘が始まる。
始まった直後に一般民衆達は逃げ出していた。
多数が相手にも関わらず一歩も退かない、それどころか、押している殺人鬼。
タンクの丈夫そうな盾も一刀両断し、魔法で殺そうとするが、他の人のカバーで阻止する。
「私の魔法が使えたら⋯⋯」
「ガチめに死ぬから許さんぞ」
「分かってるよ。なんかね、この木もそれを望んでないって分かるし。はぁ、完全回復に三日は掛かるよ」
他の仕組みを発動させる為に魔力を違う場所にも流す。
レールガンの効果を発揮させる場所ともう一つ、属性付与の所に魔力を流す。
アンデッドに最大打点を撃てる様に今は待機だ。
殺人鬼の相手をしている者達は戦線離脱している人も多かった。
胸元に黒星を掲げている人達はまだ余裕がありそう。
キンジロウさんは鎧を脱ぎ捨てて、機動力を活かした戦いをしていたが、吹き飛ばされていた。
それでも、一番殺人鬼のヘイトを集めて戦っていたキンジロウさんは凄い。
「肉体が砕け始めてるね」
「それだけ強大な力を得たんだろ。身に合わぬ力、或いは力に合わぬ生贄のせいか、それで肉体の崩壊が始まったんだろ」
「肉体って寄りも骨体?」
「語呂が悪い」
チャージが終わった。
後は他の人があの場を離れるだけだ。
「サーバーアクセス、
魔法陣が口元に出現する。
「皆さんそこを離れてください! 一発大きいのを入れます!」
それを聞いて、俺の方を見てくる。
狙撃銃の射線上に大型の魔法陣が展開され、殺人鬼に向かって徐々に小さい魔法陣が展開されている。
それを見た人達は一気に離れる。
頃合を見計らい、引き金を引いた。
鼓膜を突き破る様な轟音が響き、弾丸は螺旋を描きながら殺人鬼に向かって突き進む。
そこで見せられたのは超反応。
反応出来ない程のスピードだと思った弾丸に反応して、剣を振るう。
弾丸と剣が衝突する。
「まじかよ」
「お兄ちゃん⋯⋯」
「大丈夫。あの殺人鬼はとても強い。だが、体の崩壊が始まる程には合って無い。時間が経てばどうせ死ぬ。そして、そんな体では受け止められない」
俺の宣言通り、殺人鬼の剣は押され始める。
ジリジリと広く大量の火花を散らして、打ち合う。
だが、その決着は訪れた。
黒い剣に亀裂が入り、パキン、と折れたのだ。
障害が無くなった弾丸はそのまま殺人鬼を貫いて、地面に衝突して小規模の爆発を生み出した。
「少し魔力を込め過ぎたかな?」
「終わったね」
「だな。気配も魔力も感じない。完全に終わったよ、これで」
結局、俺の手で殺したのと変わらないな。
「帰ろう。この事をヨツキに報告しないと」
「だね。人が集まって来る前に行こっか」
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