第32話 金次郎
俺は平凡な社会人だった。通勤途中で事故にあい死亡した。
そして、俺は違う世界へと転生したのだ。
最初の方は驚愕とワクワクでいっぱいだったが、後々残した家族達の事が心配に成った。相手は心配してくれているか疑問だが。
最初は単なる違う世界だと思ったが、途中から違うと分かった。
この世界には魔法と言うのが存在する。二歳の時に魔力を自覚して、様々な魔法を覚えた。
最初は魔法を使うのにも一苦労だったが、楽しみさや現実逃避も兼ねて沢山練習した。
練習すると驚く程に魔法の扱いが上手く成るので楽しかった。
そして、さらに途中から気づいたのだが、この世界は俺の知っているゲームの世界だと。
最初に判明した原因はモンスターだ。
この世の魔物と呼ばれるモンスター達とそのゲームのモンスターのデザインが酷似していた。
攻撃方法などもだ。
そこで、鏡を見る。そこに反射して映るのは当然、俺。
だが、それは前世とは全く似てない。
親が違うのだから当然だと思うのだが、それだけじゃない。
その姿は、そのゲームで使っていたアバターそっくりなのだ。
その時ようやく、ゲームの世界に転生したと分かった。
自分の知っている国は無く、知っているダンジョンは少なく、だがスキル名を叫べば使える。
そして、人は死ぬ。
親、親戚、友達、全てがモンスターに寄って殺された。
スキル、魔法、魔力、それらの才能を持ち合わせた俺だけが生き残った。
辛い日々。
近くに当然の様に居た存在が一瞬で消える喪失感。
一度死のうかとも考えた。だけど、無理だった。怖く、そして他の思いも芽生えた。
他にも俺のような目にあっている人が居ると考え、守りたいと思った。
辛い事を知っているから、それを少しでも減らそうと考えた。
それだけの力が今の俺にはあるから。それだけの知識が今の俺にはあるから。
誰かに与えられた力でも構わない。
人を守れるなら、幸せを守れるなら、なんだって構わない。
俺は同じ様にこっちの世界に転生して来た者を探した。
きっと他にも居るから。⋯⋯でも、簡単には見つからない。
知っている国名が無いから、ストーリーがどうなっているのか分からない。
それでも必死に生きて守って居たら、最悪の存在に出会ったんだ。
今では強い装備も揃えて敵無しの状態、そんな時に俺は初めての転生者と出会った。
仲間が増えた⋯⋯そう思っていた。
だが、相手は違った。
人を簡単に殺し、殺しを快楽として楽しむ狂人。
許せなかった。
人の幸せを潰してまで快楽を得ようとするそいつを。
この世界はゲームの中に似ているが、ゲームでは無く現実だ。
NPCだろうとこの世界では生きている人間だ。
死んだら復活は出来ない。
いや、正確には違う。
特定の条件が成立していたら、俺は死者を蘇らせれる。
だが、その条件を揃えるのに、狂人の殺り方と噛み合わない。
あいつの剣は即死させた相手の血を吸収し成長する。
そして、一定数の血液が無い場合、蘇生は不可能になる。
余計に憤怒する。
何処までも追い掛けて、そして止めると決めた。
だが、俺は弱かった。
倒せるタイミングで、最後の最後で殺すのを躊躇った。
怖かったから。
自分の手で人の命を終わらせる事がとても怖かった。
精神的に弱い俺。だけど、相手を止めたいと言う気持ちもある。
これ以上の被害は出してはダメだ。
だけど、やっぱり口では「殺す」と言えても行動に起こせない。
不甲斐ない。弱い自分が嫌いだ。
ソロで冒険者ランクの最高に位置する黒星を得ても、嬉しくない。
俺はたった一人の殺戮マシーンを倒せない弱い人間だ。
モンスターはいくらでも殺せても、人間はどんな奴だろうと殺せない。
何時しか、俺はこの世界で貰った名前を捨て、前世の名前を使っていた。
金次郎、その名を使っていた。
きっとまだ前世の俺が居て、この世界とは違う存在だと示す為に使っているのだろう。
もう、当時の記憶はあやふやだ。
だが、最近驚きの事が起きた。
メインストーリーに大きく関わる重要人物のNPC、ユウキと出会ったのだ。
知らない名前の国で出会った。
だが、それよりも驚きなのは俺の知っているユウキと性格が全く違う事だった。
国を滅ぼした相手に復讐する為に力を求め旅を続ける孤独の少年。
プレイヤーに対してはアバターの特徴で呼び、名前なんて呼ばない。敬語なんて持っての他だ。
自分さえ良ければそれで良い性格で、主人公であるプレイヤーと共に成長して行くNPC。
彼を推しにする人は本当に多い。
だからこそ、彼の裏設定と言うか、真の設定が驚愕だった。
ラスボスとの戦いは驚きの連発だった。
そして、今のユウキはどうだろうか。
俺の知っているユウキでは無い。
復讐に燃える孤独の人間では無い。
人生を謳歌して、人に敬語を使え、名前もきちんと呼ぶ、普通の人間だ。
しかも、隣には可愛い女の子が立っている。
妹だと聞いて驚いた。
この世界はゲームであってゲームでは無い現実だ。
だからこそ、そこら辺の違いはあっても問題ない⋯⋯と思いたい。
妹の存在はゲームでのユウキの設定と矛盾するのだ。
だからこそ分からない。
妹って言うのは多分間違ってない。だってアイツと似ているから。
だけど、それだったら、あの子も大きな責務を背負っている。
辛い現実が待っている。そう思うと悲しくなる。
だけど、俺と彼らは関係ない。
知っているストーリーと掛け離れていても関係ない。
今、俺がやるべき事は同郷の狂人を止める事だ。
ユウキの今が幸せならそれで良いだろう。無理してストーリーに戻す必要は無い。それがユウキの為だ。
狂人はスキルの特性上夜を基本的に活動時間としている。
そして、アイツを長く追い掛けていた俺だから分かる事もある。
アイツは見つけた獲物は絶対に最後まで追い掛けて仕留める。
つまり、狙いは子供。
俺は陰ながらその子を護衛している。
すぐさまアイツが来ても守れる様に。
前回はユウキや誰かの協力があったから追い詰める事が出来た。
だけど、最後のところで結界の範囲外に逃げられて、逃亡を許してしまった。
だが、次はそうは行かない。
俺はアイツを止める義務がある。責任がある。
同じ転生者としての責務が俺にはある。
ストーリーなんて関係ない。俺には俺の運命や責任があり、ユウキにも運命や責任がある。
人の生きる道に口出しは無用だ。
次こそ、決着を付ける。
その為の準備は完璧に終わった。
次は、問題ない。
俺の準備に問題は無かった。
問題だったのは、子供が標的だと言う決めつけだったのだ。
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