第31話 新たな人生の始まり

「ぅ、頭が」


 ゆっくりと視界が明るくなる。明る過ぎて風景が上手く見えない。

 失明した訳じゃなさそうで良かった。


「お兄ちゃん! なんで武器持たずに行ったのよおおお!」


 いきなりサナが抱き着いて来る。女性が離れた位置から安堵している。

 解毒剤を投与したのだろう、注射の跡がある。

 なんとか助かった様だ。


「⋯⋯こんなタイミングで言うのはなんですが、そろそろおいとまします」


「そうですか。あ、武器を⋯⋯」


「いえ、持っていてください。その、ちょっと恥ずかしい言い方ですが、新しい道を歩む為に、心機一転しようと思います。なので、それは昔の自分として、貴方にお渡します。今から、私は生まれ変わります」


「そうですか」


「ユウキ、サナ、私に名前をくれませんか? 本当に自分は名前が無いんですよ」


 俺とサナは目を合わせる。

 サナが抱き着いたまま目を閉じ、俺に体を預ける。

 それは俺に一任すると言う事だ。

 だから考える。


「⋯⋯ヨツキ、夜と月を合わせて、ヨツキ」


「お兄ちゃん、ちょっとダサくない?」


「ありがとうございます。私は今から、ヨツキです。お金を返しに来ます。それでは、また会いましょう」


「ああ」


「短い間だったけど、楽しかったよ!」


「私もです」


 そして、この部屋には俺達だけになる。

 まだ少し腕に力が入らないが、問題ないだろう。

 剣を振るう訳じゃない。


 場所を移動させて山の麓の森林に来ている。

 そこでとある魔物を探す。

 森林の中を自由に駆け回り、果実を溜め込む習性のある魔物、ルットモンキーである。

 ルットモンキーを倒し、巣に溜め込んだ果実を持ち帰る依頼である。

 依頼、そして俺達は灰星、そこまで強い魔物では無い。

 俺はバレットを構える。魔力は流さない。

 離れた場所から一方的に狙撃する。


「やっぱり、弱く軟弱な魔物なら、鉛玉で十分だな」


「そうだね〜。人間に近い相手なら十分だけど、強い魔物や人間相手だと⋯⋯」


「意味無いな。やっぱり、注ぐ魔力量を調節出来る対物ライフルを作って貰うか」


「今後の事を考えるなら、ありだと思うよ。私達は人間相手がメインじゃないからね。⋯⋯お兄ちゃん」


「なんだ?」


 動き回るルットモンキーに一発も外さずに倒して行く。

 頭を撃ち抜けば倒せる。ライフルを頭に受けても耐える魔物とは違う。


「何焦ってるの?」


「別に、焦ってないよ」


「いや焦ってるね。何時もなら剣で戦う筈だよ。それを遠距離からの狙撃で終わらせてる。自分の射撃能力の確認と練習の為に来たんじゃないの?」


「⋯⋯」


「昨日、殺人鬼と戦ったんだよね。⋯⋯焦る程に強いの?」


 俺は一度言葉を止めた。


「⋯⋯剣術だけで見たらサナの敵じゃない」


「だけ?」


「ああ。腕力等は俺と同等かそれ以上、サナじゃ力負けする可能性もある。それだけじゃない。魔力制御の力、それが圧倒的に違い過ぎる。俺もサナもまだ、ある程度一部に集中させる事が出来る程度にしか成長してない。外部に出して操る事は出来ない」


「相手はそれが出来ると」


「あぁ。そして、キンジロウさんも。ただ、刃の重みが違ったね。殺す刃と正義の刃って例えが良いかな? 対人戦なら前者の方が強い」


「なるほどねぇ。武技だけなら勝てる⋯⋯だけど、魔力ありだと負ける、か」


「正確には国内だな。相手も国を相手にする気は無いのか、あまり周囲を破壊する技は使わない。俺達も使えない。そうなると、やっぱり魔力制御の技量が大きいんだ。しかも、あっちは強化魔法を複数使える可能性がある」


「⋯⋯殺すの?」


 俺は考える。

 新聞の情報では殺人鬼は千人近い人数を殺しているらしい。

 きっと殺されても文句は無いだろう。

 だけど、そんなにあっさりと殺す事を考えて良いんだろうか。今更だと思うけどさ。


「いや、殺さず捕まえる。後は国がどうにかするだろ」


「十中八九死刑だろうねぇ」


「だろうな。それ以外有り得ない」


 巣の周囲に居るルットモンキー達を排除し、俺達は巣に向かって行く。

 その時に俺はハンドガンを両手に構える。

 サナが呆れた笑みを浮かべる。


「分かりやすいなぁ」


 巣から残りのルットモンキーが出て来て、俺達の姿を見て叫ぶ。

 その瞳は殺意に染まっている。

 巣から投擲道具の石を取り出して放って来る。

 そのスピードはとても速く、空気との摩擦で燃え上がる。

 スピードだけで燃え上がる速度では無いので、何かしらの魔法的な何かを使っているのだろう。

 それとも石自体がそう言う性質なのか。


「魔力を込めなくても破壊は可能か」


 石は狙いさえしっかりとしていたら破壊出来た。

 もう片方のハンドガンで本体を狙って放ったのだが、耐えられた。


「ハンドガンの火力じゃ、魔力を込めないとダメなのか」


「脳天撃たれて生きてるとか、ほんと化け物だなぁ」


「今更だろ」


 サナが駆ける。

 巣から次々とルットモンキーが出て来て、俺はハンドガンに魔力を流して行く。

 最大まで込める必要は無い。二秒くらいで十分だろう。

 サナが前衛と成り、相手のヘイトを集めて移動を制限させる。

 時に倒して、足さばきで躱している。相手の攻撃は基本的に投擲か腕での薙ぎ払いだ。

 得意な受け流しの反撃が出来ないサナは避ける事に徹する。


「サナ!」


「⋯⋯おっけ!」


 二発の弾丸を放ち、サナが体を曲げて弾丸を避け、そのまま弾丸はルットモンキーを貫く。

 魔力の込めた弾丸はそのまま貫通し、一発で二体以上を倒した。

 鮮血が飛び交い、倒れる。

 それにより相手にどよめきが生まれ、その隙を狙ってサナが一気に攻める。

 魔力を流して風の刃を生み出し、火力を上げて切り刻む。

 そして一分の戦闘の元、殲滅した。


「討伐、完了」


「だな。⋯⋯解体が大変そうだ」


 巣の中には沢山の果実があった。

 それを鞄に詰め込んで行き、死体も解体して入れる。

 予想報酬としては銀貨62枚と銅貨21枚だろうか。

 ルットモンキーの肉は食材にも成らないので買い取って貰えない。

 なので、乾燥させて俺達で使う事にする。


 結果的に報酬は銀貨58枚と銅貨41枚であった。

 特注で武器を頼むなら最低でも金貨を使う。

 取り敢えず、この報酬は貯金か小物か薬でも買っておく。


「サナは何か武器頼まなくて良かったの?」


「貰ったこの刀で当分は十分だよ。それに、散財は良くないしね。もう貰った大金も残り二割だしね〜」


「狙撃銃には出来る限り性能を上げたいんだよ」


「分かってるよ〜」


 にしても、もう夜か。

 殺人鬼の活動時間は夜だ。


「お兄ちゃん、私達は旅人であり冒険者だよ。この国の事は騎士達の役目。それに、黒星のキンジロウさんが動いているなら、私達は目立たない様に潜むのが良いよ」


「⋯⋯孤児院の事に首を突っ込んだサナに言われるとわ」


「成長?したのだよ。お兄ちゃん、今度は私も戦う。だから、一人で行動させないよ」


「だな。俺一人で戦っても、国外ならともかく国内では分からない。お前の力が絶対に必要だ。見つけたら、すぐに行動出来る様に、寝ている時も腕輪は着けておくか」


「だね」

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る