第30話 殺人鬼
路地裏に入ると、そこには小さな子供に向けて剣を振り下ろそうとしている人を見つけた。
近くに落ちていた鉄の棒を手に取り、槍投げの様に高速で投擲する。
子供が切断される一歩手前で剣を弾き、相手のバランスを崩させて攻撃を無効化した。
「逃げろ!」
俺は子供に向かって叫ぶが、恐怖に寄って腰が抜けたのか、子供は逃げる素振りが無かった。
何か捨てられた場所なのか、ここでは金属の武器があちこちに転がっていた。
どれも刃が曲がっていたり、欠けていたりとした紛い物だが。
しかし、武器の無い俺に取っては最高の場所なのは間違いない。
「んだぁお前は? ⋯⋯なんでてめぇが居る」
「俺の事を知った風な口振りだな。⋯⋯お前が連続殺人犯だな?」
「だったらどうする?」
「ここで止める」
「正義の味方気取りか?」
「いーや。純粋に胸糞悪いからだ!」
適当に拾った武器は細長い剣だった。どこかレイピアに似ている雰囲気があるのだが、形的に剣だろう。
対して相手は黒い剣。
もしも俺が魔力を外部に放出しながら操れるなら、魔武装して戦えるのだが、ないものねだりは良くない。
武器を大切にしながら戦う。
剣と剣が衝突し、金属音を広く響かせる。
力は互角⋯⋯相手が剣を傾けて流そうとしたので、バックステップで距離を取る。
その際に子供を手に持ち、女性に投げる。
「その子を逃がしてください!」
「わ、分かったわ!」
「逃がす訳ないだろ! 影移動!」
ストン、と殺人鬼の体が落ちる。
姿は見えない⋯⋯だけど気配を感じる。
自分の下を通る時に、剣を影に突き刺す。
「ちぃ!」
影から飛び出て来て距離を取られる。
魔法は基本的になんでも出来ると言う俺の考えが影響してすぐに反応出来た。
昔なら気配は感じても『不可能』だと割り切って無視していただろう。
「なんでこの時期にここまでの反応が⋯⋯誰だ。メインストーリーを早めたバカ野郎は」
「何言ってんだ?」
「成程。お前はNPCのままか。仕方ない。今日は見逃してや⋯⋯」
「
夜空から月明かりに照らされて降って来る人が殺人鬼に金色の刃を振るう。
夜なのにも関わらず、煌めく金色の閃光。
それをひらりと避けた殺人鬼。
「キンジロウさん!」
「お前はユウキ。丁度良い協力してくれ!」
「分かりました!」
キンジロウさんが参戦し、殺人鬼と近接で撃ち合う。
武器の性能、剣術の技能、それらがほぼ同等である。
だが、明確な違いがある。あの二人の場合、キンジロウさんは確実に勝てない。
人を殺す事を躊躇わない刃と人を殺す事を躊躇う刃では、圧倒的に前者の方が強い。
「サーバーアクセス」
使えそうな魔法を探る。
「ちぃ、流石にピンチか」
「ここでは移動系スキルは使えない。その結界を張ったからな!
金色のオーラを纏うキンジロウさん。
「うぜぇ。
対して相手はどす黒いオーラを纏う。
剣と剣が衝突するが、刃は触れ合って居なかった。
オーラとオーラがぶつかり合っているのだ。
魔力、魔覇を体に纏って戦っている様だ。
そう考えると、二人の実力は俺の知る限り最高レベルなのかもしれない。
「見つけた。チャージレーザー!
魔法陣が正面に展開され、そこに向かって魔力が体内から抜けて集まって行く。
本来の力よりも弱めて、周囲に被害が出ない用に気を配る。
持っている武器を逆手持ちに切り替えて投擲出来る構えを取る。
「すぅぅぅぅ」
息を吐きながら殺人鬼に集中する。
神経を研ぎ澄まし、この一撃を確実に失敗しない様にする。
「キンジロウさん!」
「了解!
相手を拘束する。
「ナイスです。
武器を投擲し、それがチャージレーザーの魔法陣を通過し、一筋の光と成って突き進む。
俺はキンジロウさんとは違い、相手を殺す事を厭わない。
だからこそ、正確な狙いで放てる。それに、狙撃には自信がある。最近はしてないが。
「
黒い稲妻が拘束魔法の内側に展開され、レーザーと撃ち合う。
激しい火花と眩しい光を放ちながらも、俺もキンジロウさんも目を離さない。
「ゲホゲホ、なんでこんなに強ぇんだ。今の時期はまだ、自暴自棄の時間だろ!」
「やはり硬いな。畳み掛ける! あいつは
「良く分かりませんが、良くない事は分かりました。サーバーアクセス、サンダーハチェット」
虚空から魔法陣が展開され、そこから電気の塊の手斧が生成され浮遊する。
キンジロウさんと殺人鬼が打ち合っている所に向かって放つ。
回転しながら突き進むハチェットを確認したキンジロウさんは強く殺人鬼を弾いて怯ませる。
だが、殺人鬼は重心等が適当なまま、体を動かしてそれを避ける。
「なんつー動きだよ」
「もう辞めた。辞めだ辞め、先にお前を殺す!」
一瞬で肉薄して来た殺人鬼は首を狙って黒い剣を突き出す。
掠っても終わると直感で判断した俺は大きくステップして避ける。
攻撃した直後の隙を狙ってキンジロウさんが攻撃するが、先程と同じ人物とは思えない速度で移動して避けて接近して来た。
「ぬっ!」
攻撃を避けて反撃の拳を振るう。
その際に魔力を集中させる。出来るだけ、多く。
「がはっ!」
横っ腹を殴り、吹き飛ばす。
集中させた右拳は少しだけ青色に成っていた。
魔力を多く集中させると肌の色が変わる様だ。
集中を切ると全身に魔力が巡る感覚と共に肌の色が戻る。
「つっ」
だが、さっきのパンチは割と本気で殴った。
その拳の力は自分が想像するよりも遥かに強いのだが、相手はそれを加味していた。
何故かは分からんが、相手は俺の実力を冷静に分析している。
その為、殴りと共に反撃して来た毒を右手に受けた。
ヒリヒリする感覚と共に右手に力が入らない。
「ぺっ」
血を吐き出す殺人鬼。その足取りはフラフラしたモノだ。
「流石に二対一は不利だな。アディオス!」
「逃がすか!」
だが、キンジロウさんは止まり俺を心配そうに見る。
「速く! このまま逃がす訳にはいかない!」
「分かった! 超加速!」
右手が痛てぇ。
しかもこの毒、針か何かで血管に直接流された。
このままだと全身に毒が回る。
「速く、出血しないと、毒が回る前に」
魔力を集中させろ。少しでも毒の進行を遅らせろ。
部屋に戻って腕輪の中にある解毒剤を飲むんだ。
「なんだよ、この毒⋯⋯人間に、使う、毒じゃない、だろ」
既に意識が朦朧とする。
流石に毒の回りが速い。
「やばっ」
俺の意識は途中で途切れた。
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