第29話 昔の夢
「止めてくれよ、な? な?」
俺は仲間であり友人に向けてハンドガンの銃口を向ける。
相手の頭を狙って。そして、相手は魔力無しである。
俺が負ける要素は一切ない。
「お前は軍の状況などの国家機密を外部に漏らそうとした。当然の裏切り行為であり、我々の様な連携を肝に置く軍に取っては邪魔であり、輪を乱す存在としてここで処す」
「ユウキ、俺達、友達だろ?」
「ああ」
相手は顔を顰める。
「だったら止めてくれよ! 俺は生きたいんだ! お前だって分かってるだろ! 俺達に勝ち目は無い!」
「国を守り民を守り戦い散るのが我々の役目だ。その事を忘れたのか」
「そんなのは洗脳だ! なんで一つしかない自分の命を幼い頃から植え付けられた指名で落とさないといけないんだ!」
「それが我々軍の役目だ」
「役目なんて関係ない! 生きたいと思うのがそんなにおかしいか!」
「おかしくない。俺も生きたいし、大切な人には生きていて欲しい。だが、裏切り行為とは別だ。ケジメはしっかり取れ」
「⋯⋯あぁそうかよ! この
「⋯⋯ッ! お前は、違うと思ってた」
「何がだよ! お前らは俺ら『人間』とは違う! バケモノだろ! 魔物だろ! 俺達と同じ訓練をしたとしても、お前らの強さは異次元だ!」
「俺は、お前の事、友だと、思ってた⋯⋯」
「あぁ滑稽だったよ! お前が裏でなんて言われてるか知ってるか? 知ってるよなぁ! 皆言ってるもんなぁ! 黒の悪魔ユウキ!」
「⋯⋯」
ゆっくりと引き金を引く。
それに気付いた相手もすぐさま懐の銃を抜いて放つ。
「死んでたまるかぁ!」
「遅いよ」
それを近距離から体を仰け反らす形で避け、引き金を引いて一撃で絶命させた。
成る可く痛みを感じさせないように。
相手は目を見開いて、怨念を込めた表情のまま血を床に垂らして赤いジュータンを広げた。
「俺は、今でも友だと思ってる。迷惑かな」
もう、涙も流れない。
国に未来無しと判断し、裏切る者は多い。その度に俺達の部隊がそれぞれ処刑して軍全体、国全体の秩序を守っている。
麻痺してしまったようだ。もう、何も感じない。
いや、少しだけある。
サナにだけは、妹だけには、この役目はやらせない。
◆
「ん?」
目が覚めた。
何時以来だろうか、あの様な夢を見たのは。
今でも鮮明に思い出せる。
処刑を告げた瞬間に逃げられ、それを追い掛けた俺。
相手は徐々に疲れて行ったが、俺は疲れを感じなかった。
確かにバケモノだったのかもしれない⋯⋯だけど、外に出て思う。
いや、身内だけを見ても同じだ。
俺達はバケモノじゃない。ただの人間だ。少し変わった構造をした人間だ。
「俺は、人間、だよな」
裏切り者を殺し、盗賊を殺し、堕ちるところまで堕ちた上官を殺した。
俺は沢山の命を自分の手で消した。なのに感じる、動く感情は無い。
それを本当に人間と言えるのか?
大切な仲間が殆ど死んで、そんな人達が居ながら俺達は国を離れて笑っている。
それを本当に、人間と言えるのか。
「⋯⋯ふぅ。少し、外の空気を吸うか」
この宿の部屋にはベランダが存在する。
この国の建物は全てが鉱石で出来ており、この国特有の建築法を使っており、寒さにも熱にも耐性があり、中に通さない。
部屋は適温が保たれており、マグマが流れたとしても建物が溶ける心配もない。
防音などもしっかりしている。
女性に聞いた。
この国ではマジックアイテムと呼ばれている、魔道具とは少し違う道具があると。
水球がそれに当たる。
ルーン文字と呼ばれる魔力を溜め込む性質の文字を使って製造しているらしい。
覚えなのにも作るのにも困難で、扱える
だが、魔道具と同じ力を魔力が無くても扱えるマジックアイテムの研究、つまるところルーンの研究は今でも継続しているらしい。
ベランダに出ると、女性が月を眺めていた。
月の位置的に今は深夜の三時だろうか。
サナがへそを出し、いびきを出しながら寝ている。なんと言うか、おっさんくさい。
「寝れないの?」
「いや、ちと昔の夢を見てな」
「良い夢じゃなさそうね」
「生憎な。良い夢なら、いくらでも見たいんだけど、そう上手くいかないようだ」
「人はトラウマ等の負の記憶の方が覚えているモノよ。恥ずかしい思い出、辛い思い出とかね」
「確かに」
少し欠けた月を眺め、俺達は会話を交わす。
ただ、深くお互いの事は聞かない。
最近の起こった事から深堀しながら話している。
そうなると、自然的にサナの事が会話の中心となる。だが、女性は急に会話の方向を変えた。
「あんたは、さ。私と君は同じだと言ったけど、やっぱり私と君は違うよ」
「え?」
伸びをして、ベランダに備え付けられている椅子に深く座る。
そして顔を見せない様に大きく首を曲げて空を見上げる。
この国は深夜にも関わらず、色々な店がやっている。だからだろう。光が下から上って来る為に夜空が綺麗に見れない。
星が少ない。
「君は明る過ぎる。それに、殺しは同じって言うけど、違うよ。私の殺しには大義も無い。ただ、教えられ、やるべき事だからやる。金を貰い、組織の命令に従い殺す、殺戮マシーン。それが、私達。だからさ、君と私は違う。私の手は血に染まり過ぎたよ」
俺は何も喋らず、ただ耳を傾けた。
「今でも鼻を掠めるのは殺した人の血の臭い。どんなに高価な物でも安い物でも、口にするの物は全て血の味がする。私は殺しに染まり過ぎた。私は血に浸かり過ぎた。そんな私と、君やサナは明る過ぎる。全くの別物だ。だから、一緒じゃない。殺しは確かに同じかもしれない⋯⋯だけど、私は違うと思う。やっぱり、大⋯⋯いや、正義の殺しとそうじゃない殺しじゃ、違う、違い過ぎるよ」
自嘲気味に笑う女性。
「でもね、だからこそ感謝してるんだ。ターゲットを殺すだけだった私に、温かさをくれて。同類だと言ってくれて。それがね、自分で考えるよりも全然、とっても、嬉しいんだ」
涙を流す女性。その顔を俺に向け、何かを望む目を向ける。
その望むモノを俺は理解出来ない。いや、理解する必要は無いのかもしれない。
きっと、相手は俺が俺らしい意志を持って接してくれる事を期待している。
「違うね。サナはともかく、俺は深く、君と同類だよ。だって、俺は過去に──」
続きを言い掛けた時、遠くから悲鳴が聞こえた。
何かとても薄い音だったが、ギリギリのラインで鼓膜を掠めた。
それは女性も気付いた様で、俺達は考えるよりも先に体を動かしていた。
その場所は路地裏であり、近付く事は出来ても、途中で透明の壁に当たる。
「なんだこれは!」
「護符の結界だよ。魔法陣が刻まれた札。マジックアイテムに分類上は同じだよ。何処かに起動されている札がある筈。それを壊せば⋯⋯」
「そんな時間があるとは思えない。他に方法は?」
「そんな、他に方法なんて⋯⋯ある! 力技で無理矢理こじ開ける事は可能だよ!」
「それが分かれば問題なし!」
武器は持って来てないけど、今の俺なら。
拳を固め、体に流れる魔力を感じ、それを拳に集中させる。
魔武装なんて出来ないけど、キクの様な先輩の姿を見て、そして空いた時間に練習した今なら、多少なりとも魔力を集中させられる。
「おっらああああ!」
拳を固め、結界に向けて突き出した。
今の拳は金剛鉄にも勝る!
魔力を集中させて固めた拳は結界を粉砕した。
出来た穴をそのまま通る。
「うそぉ」
「しゃあああ! 行くぞ!」
「ええ!」
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