第20話 必要な存在

 馬車の中は静かなモノだった。

 サナは俺にもたれ掛かり、ただ虚空を眺めている。

 誰も口を開かない。


「⋯⋯」


 流石に気まづく、俺はカイラから手にしたペンダントを取り出し眺める。


「それは、アイツが持ってた、やつ?」


「あぁ。ライハさんと俺らしい」


「⋯⋯どう言う事?」


「ライハさんは、ライハ兵長は、俺達の実の母親、らしい」


「そうなんだ」


「あんまり驚かないんだな」


 サナの反応に俺は結構驚いた。

 もう少し驚く内容だと思うのに、サナは平然としていたのだ。


「だって私、ライハさんにめっちゃ似てるもん。それにさ、仲間に向ける目と私達に向ける目が違う気がしてね。お兄ちゃんは盲信的で気づかなかったかもだけどさ」


「⋯⋯」


 ライハさんとサナは言われて見ればかなり似ている。

 金属よりも輝きがある銀色シルバーカラーの髪。髪の毛を長く伸ばし、前髪を耳に掛けている。

 サファイヤの様な碧眼は美しく輝き、それはライハさんも同じだった。

 本当に良く、似ている。


「碧⋯⋯」


 俺は胸元のネックレスを取り出す。

 服の下に隠していたライハさんが15歳の成人にくれたアクセサリーだ。

 当時のサナにも同じのを渡していた。

 俺はカイラの戦いで胸元を魔法で撃ち抜かれたが、生きている。

 このネックレスに吊るされている宝石が守ってくれたのだ。魔法に当たった宝石は輝きを失わずに形も保ったままだ。


 蒼色で海の様に透き通る宝石は『ムーンフラワー』と言う花を模して造られいる。

 それを見たサナが同じ様に胸元から取り出す。

 俺達の一番の宝物。


「ちょ、それ」


「ん?」


 魔法士が唖然とし、落ち着かない指でネックレスを指して来る。

 流石におかしいので落ち着かせて事情を聞く。


「ちょ、それ、貸して」


「あ、うん」


 俺はネックレスを渡す。


「そんな簡単に渡しちゃダメでしょ!」


「なんでだよ!」


 そのまま魔法士は大盾の人に渡す。

 魔法士は軍手をしており、大盾も倣って軍手をしてから受け取る。

 それを覗き混むように見るのは回復魔法士とアカギだ。


「どうしたん?」


「⋯⋯」


 大盾の男は太陽に向けて見たりと色々な角度で見ている。

 そして、冷や汗をかく。


「俺の目はそこまで正確では無い⋯⋯が、俺が見た限りでは間違いなく、オリハルコンだ」


「やっぱりかー」


「「オリハルコン?」」


 俺とサナの反応に先程まで驚いていた四人が「こいつら何言ってんの?」と言う顔をして来る。

 俺とサナは同時に両手を上げ、合わせて一言言う。


「「教えて欲しい」」


「ここはアカギさんが教えよう!」


「あんた賢くないでしょ!」


 魔法士が速攻でツッコミ、一つ咳払いしてから解説する。

 男は俺にネックレスを返してくれ、ペンダントも見たいと言ったので渡した。その時の顔は『簡単に渡すなよ』だった。


「オリハルコンってのは神の鉱石って呼ばれているの! 魔力濃度がかなり濃い場所じゃないと生成しない。そして、その強度は並の魔物や魔法では破壊不可能。生成される環境が環境なだけに、魔力との親和性が高く、どれだけ魔力量が少なくて薄くても、その威力を二倍近くにも引き上げると言われているの! さらに、柔軟性も高く、どんな武器、防具にも使える鉱石なのよ! 超レア! 超超ちょーレア! ⋯⋯だけど、その反面加工出来る職人が少ない」


「そうなんですね」


 深呼吸をしてから再び解説が入る。


「数が少ないから育てるにしても難しいんだよ。オリハルコンは熱にも強い耐性があるから、加工するだけでも一苦労。⋯⋯それでね、オリハルコンを使っているってだけで相当な価値なのに、掌サイズは普通におかしいのよ。オリハルコンの武器や防具って一部にオリハルコンが使われて他は違う素材で造るのよ」


「そうなんだすね」


「そう。この大きさなだけで異常なのに、それをここまで繊細に加工出来る技術⋯⋯君達の国は相当凄い技術者が居たんだね。着いたら鑑定する事をオススメするよ」


 感動した顔をしている魔法士に俺達は苦い顔をする。

 そんな職人なんて知らないからだ。

 貰い物だし。


「このペンダントもオリハルコンだな。全部そう。他の素材は写真だけだな」


 ペンダントを受け取り、俺はサナの方を見る。


「後ろ向けて」


「ん? 分かった」


 サナが俺に背を向ける。

 手を前に回してから後ろに戻し、着ける。


「え?」


「サナが持っていてくれ」


「でも、これお兄ちゃんと⋯⋯」


「だからだよ。サナに持っていて欲しい」


「⋯⋯分かった。大切にするね」


 そこの写真はライハさんと俺。サナが持つ事に寄って三人のペンダントだ。


「ね、そのオリハルコンの形ってなんか意味あるの?」


「ああ、これは⋯⋯確か、第二王女様が育てた新種の花のムーンフラワーです」


「新種かぁ。知らない訳だ。花言葉とか作った?」


「依存」


 再び固まる空気。

 依存⋯⋯悪い言葉だと思われたかもしれない。

 俺は慌てて訂正する。


「あっては成らない関係って意味ね? 太陽は自分で光と熱を放つ⋯⋯そして月は太陽の光を反射して輝く、ムーンフラワーは月明かりにのみ花を咲かせるんだよ。満月の日、そして月明かりが当たる時にしか、この花は咲かない。切り離せない⋯⋯無くては成らない関係を意味しているんだ」


 そう考えると、ライハさんに取って俺達は必要な存在って意味だったのかもしれない。

 そう考えると、考え深いモノがあるな。


 だが、俺の解説に皆の反応は微妙なモノだった。


「太陽の光を反射して月が光るの?」


「⋯⋯ん? あぁ、なんか口から出たんだ。気にしないで欲しい」


 サナに言われてようやく気づいた。

 確かに、そんな伝承なんてない。なんでそんな事を思ったんだろう。


 そう思いながら、空を眺める。

 今宵は満月である。今は昼なので見えないが。


「お兄ちゃんって時々変な事言う頭のおかしい人なので気にしないでください」


「そこまで言う必要ないだろーー」


 サナの頭をグリグリすると、皆笑い、冷えていた空気が暖かく成った。

 やっぱ、旅は楽しくないとな。


「お客さん。そろそろ登りに入りますよ〜。防寒着は来てくださいね〜」


『はーい』


 窓から乗り出して先を見る。

 山を登る道が出来ている。後二時間で目的地の国に到着する。

 山の国【ミンク】に。


「ここに、居るんだね」


「居ないぞ」


「へ?」


「山を超えた先に居るんだ。ここは中間。ま、当分滞在する予定だけどな。のんびり楽しもうぜ」


「⋯⋯うん。そうだね!」


「楽しみだな」


 山の国、または鉱石の国。ミンク。

 鉱山に創られた国であり、鉱脈が幾つかある。

 場所的に食物は輸入に頼っているが、問題無い程に国に金がある。

 ここではドワーフと呼ばれている亜人種が主に住んでおり、彼らは力が強く手先が器用で、鍛治に関してはダントツらしい。

 ここの国で造られる武具は冒険者等の戦いを職にしている人からは誰でも欲しいがる程だと言われている。

 鉱石、武具がメインの国だが、他にも魅力はある。

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