第19話 決着

「手伝いますが、私はどうすれば良いですか?」


「ありがたい。基本前衛は守りだ。後は魔法で終わる!」


「分かりました」


 盗賊の手下は合計で五人。

 サナはその一人、小さな斧を両手に持っている人物に高速で接近する。

 アカギは色々な道具を道具ポーチから取り出し投げる。

 相手の攻撃を躱しながら動きを予測し道具を投げ相手の攻撃を制限する。粘着液の瓶、痺れ粉袋などの相手の動きを妨げる物だ。

 大盾使いは相手の攻撃を受け止め反撃をする。


 魔法士は長い詠唱をしている。

 回復魔法士と言えば、踊りながら応援していた。


「皆頑張〜」


「戦闘中⋯⋯ん?」


 サナが止まる。自身の体が少し軽く成ったのだ。


(もしかしなくても支援魔法バフマジックだよね? あんな風でも使えるんだぁ。凄)


 斧を高速で振るわれても、ノールックで殺気を読んで避ける。

 一瞬で低姿勢の構えを取り、刀を抜く。

 斧の振り下ろしと合わせ、鞘を利用した強攻撃に寄って無理矢理弾く。

 弾かれた相手はバランスを崩して足元の注意が疎かになり、そこを狙って蹴って転ばせる。


「皆離れろ!」


 アカギが叫び、サナが大きくステップを後ろに踏んで距離を取る。


「雷豪紫龍!」


 魔法士の背後に魔法陣が展開され、そこから四つの龍が出現する。

 バチバチと紫色の稲妻の塊の龍は盗賊を喰らい呑み込む。


「えっぐ」


 盗賊達が点滅し、断末魔に近い絶叫を聞きながらサナの額から冷や汗が出る。

 4人の盗賊達は黒焦げでギリギリ命がある状態に成った。


(これが青星の全力って事? ミチカの全力の底が見えないな〜それにキクさんも)


「残り一人を追う!」


 ほぼ壊滅した仲間を見て一目散に逃げた盗賊をアカギは追うと言う。

 レンジャーで機動力の高いアカギ。だが、彼の戦闘スタイルは基本的に待ち伏せの罠嵌めと罠等の看破。つまり、正面でのタイマンでは分が悪いと言える。しかし、実力差でそこは問題無いと言った風である。

 だからこそ、サナは自分から出る。


「いや、私が行く」


 前方に重心を倒して低姿勢を取り、鞘に左手を掛けて右手をゆっくり近づける。

 目を瞑り神経を集中させる。

 ライハから習った抜刀術の構えだが、知らない人は当然「何やってんだこいつ」状態。

 アカギが痺れを切らして走り出そうとしたが、回復魔法士が遮る。何か期待するかのような目をしている。

 逃げた盗賊の素早さは高いようで、既に200メートルは離れていた。

 靴の魔道具と強化魔法等による加速を使っているみたいである。


「秘剣・天の川」


 地面に亀裂を生み出す程の踏み込みで力を0から100へとし加速する。

 一歩ステップを踏む度に更に加速し、僅か三秒で盗賊の背後を取った。


「ハッ!」


 刀を抜いて一閃させる。銀色の雷の如き閃光が鮮血を散らす。

 殺しはしなかった。アキレス腱を切って動けない様にしたのだ。

 その程度の傷なら回復魔法で即回復可能なので何も問題ない。


「いでえええ!」


「⋯⋯ダメダメ。サナダメよ。殺しちゃダメ」


 自分に言いかせる。殺してはダメだと。

 荷物を引く様に引っ張って行く。

 ユウキの方を見ると攻撃の雨が降り、土煙が大きく立っていた。


「お兄ちゃん⋯⋯」


 ◆


「器用だなおい!」


 降り注がれた棒を利用して上へと上がり、カイラに向かって銃口を向ける。

 既に魔力を流して能力を発動させてレールガンの力を使う。

 再び二本の閃光がカイラを襲う。空中での回避は簡単では無く、ほぼゼロ距離の射撃だが、カイラは多節棍で防いだ。


「これを狙っていたか!」


 多節棍の棒を繋げている鎖を狙って放たれた弾丸は見事に鎖を破壊した。

 真ん中の棒が降って来るので弾く。そのままハンドガンを腰のホルダーに収納し剣を抜き突き出す。

 顔を横に倒され躱され、頬を掠め切りカイラと共に着地する。


「これじゃただの棒じゃねぇか」


 棒を捨てるカイラは格闘技の構え取る。俺はハンドガンを構える。


「知ってると思うが、魔力を外界に放出して操るのを魔技⋯⋯まぁ技だな。そしてな、魔力を外界に出してそれを固める様に操ると、こんな事も出来るんだ」


「なんじゃそりゃ」


「魔武装って奴だ」


 カイラは拳から腕を覆い隠す様に魔力を放出して固める。

 グローブの様に魔力を纏っているのである。


「攻撃力が上がるだけでは無く、防御も出来る。そんなチンケな銃で貫けるかな!」


「くそ!」


 レールガンのチャージをしたいが、相手がそれを許してくれない。

 肉薄され振り降ろされる拳からは殺気が神経を撫でる様に感じる。

 確実な死がその拳一つに詰まっていた。

 だが、カイラの格闘技は大して上手くは無い。

 余裕を持って後ろに躱せ──。


「がっ」


 直接命中した訳じゃないが、衝撃波に寄って飛ばされた。

 拳一振りで大地を砕いた。


 多節棍での連撃も少しばかり大地を凹ませていたが、さっきのパンチは比べ物には成らない。


「魔力って良いよなぁ。こんなに強くなれる。なんでウチは利用しようとは考えなかったのか不思議で堪らない」


 魔力を纏った手を開いたり閉じたりしている。

 魔力を内部から集中させる事に寄って身体能力が底上げされ、外部に纏わせる事で鎧や篭手にも成る。

 確かに、これ程便利で汎用性の高いエネルギーは体には無い⋯⋯事も無い。

 内功、外功だ。だが、武術のソレと魔力とでは性質も性能も違う。

 カイラが全てをマスターしたと成ると⋯⋯今はどう打開するかを考えよう。


内功チャクラと魔力を合わせる事が出来れば、もっと汎用性が上がるんだがなぁ」


「出来ないってか」


「難しいだけだ。それよりも、ほら撃ってみろよ」


「言われなくても」


 時間稼ぎをして、レールガンの機能を使って放つ。

 だが、何も無い空中で止まった。


「ガハハハハ! 魔力を外界に瞬間的に固めて放つ、魔覇って奴の応用。お前の攻撃はもう効かない。それじゃ、ライハが命を懸けてまで守ろうとした息子ちゃんを⋯⋯壊すぜ!」


「くっ!」


 魔力に寄って普段の拳寄りもリーチが全然長い。

 しかも、受け流しが出来るかも不安であり、防ぐ事はまず無理だ。

 気功を利用した攻撃はして来なくても、魔力を利用した攻撃はして来る。

 大きく余裕を持って避けるしか、俺に出来る事は無い。


「体力が減って行き、一撃でも当たれば死ぬ! 何処まで耐えれるかなぁ!」


 俺も、アイツの様に出来れば。

 だけど、躱す事に全神経を掛けているので魔力制御まで出来ない。


「⋯⋯ッ!」


 頬を掠る。


「お兄ちゃん!」


「⋯⋯ナイスだサナ!」


 全力で横に大きくステップ。


「⋯⋯まずい!」


 カイラも走るが、それよりも速く俺はサナが投げてくれた狙撃銃を受け取る。

 鍛冶師に頼んで特別に造って貰った狙撃銃。

 設計図は俺が書いた。

 あまり狙撃銃は売られていなかったのだ。弾丸が必要なのと大きさ等の条件から、冒険者に取っては弓等の方が重宝されるらしい。

 だけど、俺はやっぱりこっちの方が好きだ。


「行くぜ。バレットM82!」


「対物ライフルか!」


「もう終わりだ!」


 魔力を流せば吸い付くさんとし向こうから魔力を吸って来る。

 俺とサナは魔力量が多いらしい。それを利用した構造。

 魔力を一度流せば満腹に成るまで高速で吸うのだ。

 鍛冶師のおやっさんがこれを渡した時の苦笑いを今でも覚えている。


「遊び過ぎなんだよカイラ! 今まで虐げ殺めた生命に対して謝罪しながら閻魔の前で土下座しな!」


 狙撃銃の銃口からカイラに向かって徐々に小さくなる魔法陣が展開される。

 銃本体からは稲妻が走る。レールガン機能だ。


「バレットツインマジック、シューティングバレット!」


「グッ!」


 光の様な魔法の弾丸が俺の胸元に命中する。

 だが、止まらない! 止まる訳にはいかない!


「あああああああああ!」


 一瞬、時が止まったかのような錯覚に陥る。

 引き金を引いた瞬間に空気が激しく振動し、反動に寄ってかなり離れた地面に俺は落とされた。

 弾丸の着弾地点からは大爆発が起こっていた。

 竜車の運転手が怯えているのが見える。


「つっ」


「大丈夫ですか?」


「大丈夫だったら立ってる」


「今回復しますね」


「助かります」


 回復して貰い、サナがカイラの近くに寄っていたので隣に立つ。

 熱き龍のメンバーは五人の盗賊達を縛り荷台に詰めていた。


「お兄ちゃん⋯⋯」


「⋯⋯」


 俺は何も言わずサナの肩に手を乗せた。

 カイラの遺体は炭となってその場に崩れた。

 弾丸が貫いた後は無かった。途中で軌道を変えたのだろう。


「⋯⋯貰っとくぞ」


 ただ、そんな中、たった一つ綺麗に残っていたペンダントを俺は取る。


「行くぞサナ」


「うん」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る