第16話 過去の汚点

「お兄ちゃんダメダメね」


「あ、ああ」


 魔法士の子の話を聞いていると、俺の魔法勉強は良く無かったようだ。

 魔法は基本的に応用らしく、基本だけの知識を学んでも意味が無いらしい。

 魔力制御、魔法陣の構築などなど。

 最初に浮かんで来る詠唱はあくまで自分が使い易いと言うだけの基礎らしい。

 複雑過ぎて意味が分からず、上手くまとめれない。

 数人でやる魔法だったりと、魔法にも種類が多く、それらを覚えれる人は尊敬に当たる。


「魔力での戦いは魔力制御が基本か」


「私達じゃ難しいね」


「頑張って鍛えよう。いずれ力押しだけの魔法から抜け出そう!」


「うん! 頑張ろうお兄ちゃん!」


 世の中の魔法士全員に尊敬の念を抱きながら、俺らは進む。


「ユウキの剣はアイランドタートルの甲羅で作ったんだよな?」


「ああ。お陰様で、硬くも軽い。俺は重い方が好きだけど」


「私は軽い方が好きだけどなぁ」


「で、どんくらいのお金が貰えたんですか?」


「ちょ、アカギ!」


「いや。厄災クラスなんて倒す機会も倒せるのも稀過ぎて、値段が付けれないのと、トドメは俺じゃ無いし、そんな訳で貰ったのは甲羅と魔石だよ。肉はあの打ち上げや商業ギルドに流れたね。正直めっちゃありがたかったけどな」


「そう言うのもあるのか。俺らもいずれそう言うのが貰えると良いなぁ。金じゃ無理だから素材で許してくれって。厄災クラスの魔物の肉が食えて、俺は超嬉しかった。ありがとよ」


「感謝は帰ってからガールズハンターのパーティメンバーに言ってくれ。俺らは手伝っただけだ。⋯⋯ただなぁ、あのアイランドタートルの肉硬すぎだろ」


 サナ含め全ての人間が渋い顔をする。

 アイランドタートルの甲羅は確かに硬度が高い。だが、甲羅だけじゃなくて普通に肉も硬いのだ。

 なのに味はほぼ油。料理人が努力してくれていたが、初めての食材なのだろう、苦戦していた。熟練の冒険者は手を出そうとしなかったなぁ。

 キクはガツガツ食ってたけど。魔力回復と言っていた。


「ま、まぁ。魔法士からは喜ばれていたじゃん!」


「いや、ミチカさん含めて全員、これならポーションの方がマシって顔してたぞ」


「⋯⋯」


 相手方のパーティの魔法士達も否定しない。

 そんな他愛の無い会話をして仲良くなった俺らの竜車は止まる。

 運転席からは焦った様な声が響いていた。

 それにすぐに反応したアカギ達は飛び出した。

 俺らも中から覗く。


「竜車か。当たりだなぁ」


「ああ。金持ちが乗ってんだろうなぁ」


 俺とサナは目を見開き、歯を食いしばりすぐに出る。


「護衛対象は中で待っていてください!」


「ええ! 私達だって、伊達に青星掲げている訳ではありませんよ!」


「⋯⋯ああ」


 今まで一度も喋らなかった大盾使いの男が言葉を漏らすのにも驚かない。

 それよりも驚愕の事が目の前で起こっているのだ。

 盗賊達⋯⋯その中で一番装備が派手な男が居る。

 逆に言えば一番強そうだ。

 相手は六人とそこそこ少ない。だが、かなり強敵なのは分かる。


「⋯⋯お前まさか、ユウキじゃねえかぁ! まさかこんな所で会うとわな! ガハハハハ! あぁ? なんでクソ真面目なグループに居たお前がここに居るんだ? あぁ、国が潰れたか! ガハハハハ!」


「ユウキ、知り合いなのか?」


「⋯⋯お兄ちゃん、やっぱり」


「ああ。なんで、何しているんですか、⋯⋯カイラ元上等兵」


 その瞬間、熱き龍のメンバーが全員俺に集中する。


「何してるって? 見て分かんだろ、金稼ぎ」


 そう言ってニヤリと笑うカイラ。

 カイラ元上等兵は屈指の実力者だった。

 しかし、その力を見せびらかし国民を奴隷の様に扱っている事が判明。

 性格の悪さや度々起こした問題行動などにより、国外追放と成った。

 性格のねじ曲がった実力者は国に居ては危険だから。


「アカギ、アイツの事何処まで知ってる?」


「少数精鋭の盗賊グループ。一人平均額は金貨100、ボスだけは金貨200の賞金首だ」


「⋯⋯カイラ! お前は国を追放されてからも、何も反省していなかったのか!」


「おいおい。上に向かって随分偉く成ったなぁガキィ。反省? お前の格好を見たら成功してるかもだがなぁ、分かるかぁ? あんな底辺国を追放された俺の気持ちが? 何処の国にも入れず何も出来ず、村に行けば怪訝にされ邪険にされ、そうなったらもう、盗むしか無いだろ?」


「そんなの悪を正当化する理由には成らない! お前はその人達に正面から向き合おうとしたか!」


「お、良く分かってるじゃねぇか。ちと、手が口よりも先に出たな」


 俺がガチギレして叫んでいる姿に誰もが一歩引いていた。

 だが、サナだけは俺と同じ様に怒りを表していた。


「知らねぇよ! 俺を拒む奴らが悪い! だから全部壊し奪ったんだ! 何が悪い! 何が問題だ!」


「外道が」


 俺は二本の剣を背中の鞘から抜いた。

 そして構える。


「お前をここで止める」


「てめぇに殺れるか? 俺だって強く成ったんだぜ? この新型だって俺にピッタリだ」


 多節棍ヌンチャクを取り出し構えるカイラ。


「良いよなぁこれ。殺さずいくらでも殴れる様に調整出来る。骨が折れても肉がちぎれても血が出ても相手は叫ぶ事しか出来ない! お前もやれば分かるぞ?」


「⋯⋯アカギ、すまないけど、アイツだけは、俺が相手をしたい」


「分かった。だけど、実際相手は強力だ。気を付けてくれ。皆、俺らは手下の相手をするぞ!」


「分かった! だけど、人数不利過ぎない? 私回復専門だよ?」


「そんなの今更、大丈夫。何時もの様に連携すれば」


「その通りだ! 行くぞ!」


 熱き龍達が盗賊達に向かって走って行く。

 もしもカイラが手下達に技術を教えていたら、本当に強敵だ。

 何故なら、カイラは上等兵でありながら実力は最上位の兵長クラスだ。

 性格などの総合評価で上等兵なだけ。

 だけど、さっきの発言や懸賞金の額から、見逃す訳には行かない。

 滅んだとか関係ない。ウチの国の汚点をウチの国の俺らが消す。


「ユウキ、タイマンで俺とやろうってか? そもそも俺の仲間共があんなガキンチョに負けるかよ」


「⋯⋯問題ないと思うぞ」


 もしもカイラが魔道具を完璧に使いこなし魔法も使えるなら⋯⋯熱き龍のメンバー全員掛りでもカイラには勝てない可能性がある。

 カイラと同等に戦っていたのは俺とサナに技術を教えてくれた人達だ。

 つまり、俺達の師と同等の強さ、さらに魔力の使い方を知ったのだからそれ以上。

 厳しい戦いに成るのは間違いない。

 カイラが俺達にゆっくりと接近して、熱き龍達は手下達と戦っている。

 そんな中優雅に歩いて来ている。


「いやぁ。ありがてぇ。ありがてぇよぉ。お前を殺れるなんてよぉ」


「勝てる前提で話すなよ」


「そうかよ。にしても面白れぇ!」


「何が可笑しい!」


「いや、ちょっとな。ガハハ」


「なん⋯⋯」


 俺はサナを手で制す。


「サナは皆の手助けを」


「だけど⋯⋯」


「大丈夫だから。行け!」


「⋯⋯分かった」


 サナは加速して皆の手助けに行った。

 これで本当にタイマンだ。


「覚悟は決まったか? 死ぬ覚悟が?」


「そんなの等の昔に決まってるね」


「そうかよ。ガハッ! ライハの野郎の絶望の表情が脳裏に浮かぶぜぇ!」


「お前がライハ兵長を呼び捨てにするな!」


 過去の上官との戦いがここで始まった。

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