第17話 亡き母の存在

 ライハ兵長、いやライハさんは俺とサナの親の様な存在だった。

 小さい頃から世話をして貰い、剣術を教えて貰った。

 俺の二刀流はライハさん譲りである。正しくは真似事か。

 そして、ライハさんは戦争で一番功績を上げており、長年軍隊を引っ張っていた。

 俺がもうすぐで防衛戦に参加すると言うタイミングで、悲報を受けたのだ。


 そんな人を、一番尊敬する人を、あの様な外道に気安く呼ばれたくは無い!

 俺とカイラは同時に駆け出し肉薄する。

 カイラの多節棍は真ん中の棒を背中に回し、左右の棒を掴んで突きの連撃を放って来る。

 合わせる様に剣を振るい衝突させるが、俺の力を上手く利用され後ろに飛ばされる。


「ちぃ!」


「どうした力が落ちたんじゃないか!」


 右の棒が伸びて来る。

 一撃でも骨に受けたら大ダメージである為、体を無理矢理捻って躱す。

 地面を滑りながら止まる。


「フゥ」


「お前は怒ると周りが見えなくなる癖が抜けてねぇな」


 カイラの性格はクソで外道だが、戦闘だけに関してはとにかく強い。

 相手の癖、性格、武器、扱い方、それら全てからどの様に攻撃しどのように防ぐのか、全て想定するのだ。

 その思考速度も似合ったモノだ。

 だからこそ、戦いずらい。


「なあユウキ、俺の新型、少しばかり力を見せてやるよ。後輩に自慢してやる」


「俺の先輩に外道は居ない」


 多節棍を回転させて伸ばして来る。

 本来なら届く距離では無い⋯⋯筈なのに伸びて来る。

 予想外の攻撃に反応が少し遅れてしまい、躱すのがコンマ5秒くらい遅れた。

 頬が掠れ、かすり傷が出来る。


「すげぇだろ? 魔力の流し方を工夫すれば伸び方も自由自在。俺の為の武器だと思わないか?」


「だからどうした!」


 肉薄して剣を振るい攻撃する。昔ながらの攻撃は意味が無い。

 だから、今ここで相手の考えを凌駕する攻撃をするしかない。


「ぬるいんだよ」


「ッ!」


 剣を受け流され、俺の体がカイラに晒される。

 それを見逃す筈も無く、左の剣の防御すら間に合わず棒が腹に命中する。


「ぶはっ!」


 ギリギリで芯は外した。だが、内蔵が破裂したと錯覚する様な衝撃と激痛。

 衝撃波に寄って吹き飛ばされ、地面に足が着いて居なかったので自ら飛ぶ事も出来なかった。

 受け流しで見事に翻弄された。


「ゲホゲホ」


 発勁だ。本来気功の所を魔力を使って代用している。お陰で少しばかりダメージは軽減されている。

 痛みが消えない。血が逆流したかのような感覚に苛まれる。

 剣を支えにして立ち上がろうにも手に力が入らない。

 肺が一撃で潰され、回復に時間が掛かる。

 脳に空気が回らず頭が回らない。


「はぁ、いあ」


「タック。弱すぎるだろ。やっぱり、技術面だったら外の奴らは魔力以外はそこまで高くはない。だが、お前は別⋯⋯だが、俺とお前とでは圧倒的な差がある。それはな、魔力制御の練習が出来た時間だ。俺は追放されて二ヶ月で魔力の制御を覚えた。つまり、今日までの鍛錬が可能なんだ。どうだ、過去の仲間に殺される気分は!」


 俺に肉薄して多節棍を振るって来る。


 魔力の制御。魔力を操る為の器官が体内には存在している。

 さっきの技は外部から内部を押し潰す技だ。なら、魔力を操り反対から押せば⋯⋯。


「ぐはっ! あああああああ!」


 無理矢理肺を開いた事に寄って空気が全身に回る反面、内蔵をさらに刺激した事に寄って痛みが増す。

 だけど、それでも痛みに悶えている暇は無い。


 痛みに泣く暇があるのなら、その一秒でも攻撃に使え!


「ああああああ!」


 振るわれる多節棍を防ぐ。受け流し弾く。


「やっぱ、こうじゃないとな! 殺し合いってのは!」


 高速で振るわれる多節棍に合わせて二本の剣を振るう。

 手から抜けそうに成ったら順手持ちから逆手持ちに切り替えすぐに切り返す。

 一回でも多く攻撃する。

 耐えろ。抗え。そして攻めろ!


「あああああああああ!」


「ガハハハハ! お前も少しは成長している様だな!」


 互角の様に見える連撃の攻撃は俺が徐々に押されていた。

 魔力制御がまだ安定しない俺はすぐに魔法が使えない。

 だからこそ、前と同じ戦い方である。

 攻めて倒す戦い方だが、俺達の基本的な戦い方は生きる戦い方だ。


「シィ!」


 バックステップで連激戦から脱出して距離を取る。

 ジリ貧ってレベルじゃない。

 カイラは全く全力を出そうとしていない。

 このままでは勝ち目がゼロだ。


「⋯⋯仕方ない。お前がそのままで行くってなら、俺もこの手を使うしかないな」


 そう言って、カイラは懐から布袋を取り出す。

 そして、中から一つのペンダントを取り出し、蓋を開いて写真を見せて来る。

 そこには、銀髪でまだ若い姿のライハさんと、黒髪の赤ちゃんが抱き合っている姿だった。

 二人で笑い合うその写真はとても戦争を続けている国だとは思えなかった。


「それは⋯⋯」


 俺は刃を下ろす。

 さっきまでの戦意が削がれて行く。国の汚点を掃除しないといけないのに。


「知ってるか? ライハはなぁ、お前らの実の親だよ」


「⋯⋯は?」


「ガハハハハ! なんだその間抜けな顔は! 驚いたか? そうだよなぁ。だって今までは良く世話をしてくれる優しい人、『親代わりの人』だったからな! だが実際は違う。『血の繋がった親』なんだよ!」


「⋯⋯はは。そっか。だから俺達にだけあんなに親切にしていたのか」


 ライハさんは誰にも自分の流派を伝授させなかった。

 だけど、俺とサナには教えていた。

 ⋯⋯そっか。俺達が実の子だから、流派を繋げて行きたかったんだな。

 だけどさ。そうだとしてもさ。


「だからなんだよ」


「あぁん?」


「元々親代わりだったんだ。それが本当の親だろうが関係無いね! ライハ兵長はライハ兵長だ! 尊敬出来る先生だ! 俺らを子供の時から世話をしてくれた親だ! それ以上でもそれ以外でも無い!」


「それを聞けて良かったぜ。本当に。お前らの父親は知らないけどさぁ。ライハだけは、俺が殺したからなぁ!」


「は?」


 俺はカイラが何を言っているのか理解出来なかった。

 ライハ兵長は誰からも尊敬され信頼されていた。

 確かに魔力持ちと言う事で魔力無しの皆からは嫉妬されていた。

 妬まれていた。

 だが、怨まれる様な人では無かった。


 俺は知っている。

 女だからと兵長の座が相応しくないと沢山の反感があったが、実力や指揮能力を示して黙らせた事を。

 女とか関係無い。国民を国を守る為に必死に戦っていた人だ。

 最後まで抗った戦士だ! 誇り高き軍人だ!

 だからこそ、だからこそ!


「なんだよ、それ」


 だからこそ、意味が分からなかった。

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