第12話 厄災クラス、アイランドタートル

「な、なぁミチカ」


「なに、キク」


「あの魔法、ミチカなら何分持つ」


「空中で綺麗に完全停止して、魔弓で魔力の矢を放つ⋯⋯空中停止なんて高度な魔法、かなりの魔力消費だ。私なら⋯⋯全快で二分」


「それをもう六分もやってんのか」


「ああ」


 ガールズハンターのパーティメンバー全員がユウキが行っている空中で停止し、矢をひたすら放ち倒す行動を見ていた。

 雨のように降り注ぐ光の矢は幻想的であり、海面に反射して鳥籠を作っていた。

 ガールズハンターだけではない。他の冒険者達も全員が見惚れていた。


「サナの話が正しいなら、アイツが魔法を会得したのはつい最近。それでアレだけの制御が出来るなんて、天性の才能があるんだ。しかも、それに似合う膨大の魔力。神は二物も与えている。魔法士なら、誰でも弟子にしたいと思う人物だ」


「黒い髪に黒い瞳。もしもそれが魔力の影響だとするのなら⋯⋯」


「正しく童話の魔王だね」


「⋯⋯」


「悔しいのは分かるよ。特にキクは男には負けたくないモンね。私もあんな新参者に魔法で負けたくない。戻ろう。あの二人に魔物が奪われる」


「ああそうだな!」


 そんな二人は波が上がった所を見る。

 緑色の大きな甲羅が見えていた。その大きさは異常である。


「アイランドタートル!」


「あの大きさはまだ子供。大陸に居座られたら【アクア】は再起不能になる」


「優先度はアイツだな。国が滅ぶ」


 アイランドタートル、亀型の魔物。

 大人になるとその名の通り背中が島の様に成る。

 その島に実る果物は濃厚な魔力を秘めており、魔力保有者にとっては楽園となる。

 大きな恵みを齎す反面、子供のアイランドタートルは様々な物を大量に食う。


 大人は食事を必要としない身体構造だが、子供は逆に大量の食事で栄養を得るのだ。

 海の魔物や魚を大量に食う時もあれば、陸に上がり全てを貪る時もある。

 本来なら、親の背中で育つ魔物だ。

 しかし、今は一体。


「親が寿命で死んで、こっちに流れたか」


「或いは大量の餌を追って来たか」


「どちらにせよ、倒すしかない。アイツに協力を仰ぐ。ミチカはサナにその事を伝えてくれ」


「分かった。他の冒険者にも伝える」


「頼む。アイツのお陰で海の魔物はだいぶ減ったし、あっちに人数を出来るだけ割きたい」


「分かってる」


 子供のアイランドタートルが親の元を離れると、親から発せられるホルモンが無いので気性がとても荒い。

 攻撃的であり、少しでも刺激を与えれば暴れてしまうのだ。

 陸に近いこの場所に居座るだけでも漁業に支障が出たり、陸に出たら全てが食われて終わる。


「話は聞いたけど、そんなにやばいんですか? 貴女方なら倒せると思うのですが」


「お前は無知過ぎるな! 魔物の勉強をしたらどうだ! あれはアイランドタートル。子供だろうと国を一つ滅ぼす事の可能な厄災クラスの魔物だ」


「それが何で大陸付近に?」


「知るか! 大量の餌を追って来た可能性が高いが、その場合は親も動く。島が見えないなら親が居ない。あの魔物は寿命が短いからな。もう居ない可能性がある」


「もしも居た場合は?」


「⋯⋯子を殺された親がどうなるか、ある程度予測出来るだろ。大丈夫。見えないなら殺っても問題無い」


「なんか世知辛いですね」


「どうでも良い。アイツの甲羅は硬すぎる。セオリー通り内部に魔法を打ち込んで倒す。その為にまずは外に顔を出させる」


「協力します。どうすれば良いんですか?」


「魔法士達が魔法を当てやすく向きを固定し、成る可く海の上に居させる。近接がやる事はこれだけで良い。弓矢なんて意味無いからな」


「分かりました」


 ユウキは二本の刀を抜く。


「ん? 行くぞ!」


「はい!」


 瞬時に動けるのはこの二人。

 他の冒険者も行こうとするが、やはりスピードが違った。


(速いなこの男。しかも、初めての付与魔法だろうにここまで体を動かせるのか? 妹も同じか。兄妹揃って戦闘の天才だな)


 近づくに連れ、亀の全容が明らかになる。

 体全体が大きく、頭の位置は深い場所にあった。


「生後5年ってところか」


「あの大きさで五歳⋯⋯世の中凄い魔物が多いんですね」


「当たり前だ。アイツの大人は天災クラスの魔物だ。神話クラスの一歩手前とも呼ばれている。ま、大人のアイランドタートルが暴れる時なんざ、目視出来る範囲で子供が殺された場合か自分が殺されそうに成った時だけだけど」


「そうなんですね」


「そろそろ潜るぞ。下から攻撃して浮上させる」


「はい」


 二人は下に高速で潜り、アイランドタートルの懐に入り込む。

 キクは大剣を背中の鞘に入れる。


「フゥゥゥ。はああああああ!」


 魔力を拳に込め、腹を殴る。

 魔力がアイランドタートルに与える衝撃を一点に集中させ、魔力に寄って強化された拳はアイランドタートルを少し上に上げた。


「やっぱ硬いな。おらああああ!」


 連撃を放って上げて行くが、周囲に魔法陣が浮かぶ。


「ちぃ。魔法使うよなぁ」


 腹を蹴飛ばしてより深く潜り、放たれた魔法を避ける。

 自分に危害を与えたモノを先に攻撃する。アイランドタートルの顔がキクに向く。

 口に青色の魔力が溜まって行く。


「一回上がるか」


 キクは浮上してその攻撃を躱す。海面が大きく波が起こり、道のような線が出来る。

 一方ユウキは何も出来ないで居た。

 刀での連撃も、魔力を流して光と闇を纏わせた刀でも、傷は付かないし上げる事も出来なかった。


「キクさんは拳で上げてたけど、俺魔力での集中強化出来ないからな。強化魔法は無いし⋯⋯参ったな。⋯⋯仕方ない。サナを呼ぶか」


 サナを呼んで二人は二人だけの作戦を考えた。

 一方タートルの方には既に複数の冒険者が集まり、数人でヘイトを稼ぎ、魔法を防ぎ、キクが殴れやすい環境を作っていた。


 アイランドタートルが咆哮し、周囲を破壊するレーザー砲を口から放つ。

 数十人の魔法士が防御魔法で踏ん張る。

 その間、攻撃を担当している魔法士達は儀式魔法の準備をしていた。

 特定の道具を利用した魔法である。


「皆さん離れてください!」


 そんな中、アイランドタートルの中心の真下にサナが躍り出る。

 刀を鞘から抜いてアイランドタートルに向ける。


「あ? 流石にそんな余裕なんて⋯⋯お前達! 離れるぞ。ここは自分の言う事を聞いてもらう!」


 実力が広く回っており、信用されているキクの言う事を聞かない人はこの場に誰も居なかった。


「魔力回廊接続」


 刀に魔力を集中させる。その量は目視可能な程に膨れ上がっていた。

 冒険者は皆が魔力保有者、その異様さは気づいてい。

 魔力を集中させるだけで目視可能など無いからだ。

 魔法陣、魔法は見えても魔力の流れが目視可能なまでに膨れ上がる事は無い。


「風の回廊」


 その異様さは冒険者だけではなく魔物であるアイランドタートルも気づく。

 危機感を感じるが、それと同時に『良質な餌』と言う考えが出て来る。

 図体の大きさ故に動きが遅く、振り向くのに時間が掛かる。

 そして、サナが魔法を放つ。


「暴風天翔砲!」


 激しく大きな竜巻が上へと登る。それはアイランドタートルを呑み込み上げて行く。

 その光景を見た冒険者は全員が唖然とし、魔法士は共に漠然とする。

 質量等が大きいアイランドタートルを呑み込み空まで打ち上げる魔法は儀式魔法クラス。

 それを一人で行った事に魔法士達は皆が皆、思考が追いついて無かった。ただ、ミチカは興奮気味に笑っていた。


「はは。まじで魔王なんじゃないか?」


 キクは苦笑いを浮かべる。


「お兄ちゃん!」


 ほぼ全ての魔力を使ったサナは意識が朦朧とする。


「ナイスガッツ」


「キクさん。少し、背中を預けて良いですか?」


「ああ。取り敢えず魔力回復薬マナポーションやるから、飲んどけ」


「ありがとうございます」


 そして、空に浮かび上がったアイランドタートルの隣に並ぶ一人の男が居た。

 右手を向け、右腕を支える様に左手を備えるその男は叫ぶ。


「サーバーアクセス。全てを破壊し、絶望と混沌を与えよ、爆弾の皇帝ツァーリ・ボンバキャノン!」

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