第11話 イベント開始

 魔道具の練習や魔法の練習をして、そしてイベント会場たる海に向かった。

 海では数日前から漁業が行われて無いらしい。海に近づけなかったのはその為だ。


「あれ? サナじゃん!」


「あれ? ミチカじゃん!」


 サナが宿で話してくれた人だろう。手を振りながらサナに接近して抱き着いていた。


「この人がお兄さん?」


「うん!」


「ミチカ〜、こいつが前に言ってたサナって奴か?」


「うん!」


 ミチカさんの後ろから大剣を持った茶髪の女が進んで来た。

 顔付きがそこら辺の男よりも怖い。と言うか、かなり強いと思う。

 更に後ろには気配を薄めているアサシンがひっそりと居た。

 距離を置いているし、人見知りなのかもしれない。あまり触れない方が良いだろう。


「アタシはキクだ。よろしくな」


 俺は無視してサナに握手を求める。

 サナは快く握手をする。


「かなりの魔力量だな。魔法つかんか?」


「はい!」


 ちなみに俺は両腰にそれぞれ刀を担いで、弓矢を背中に担いでいる。

 水中では銃は意味無いからな。


「サナは今からやる事分かる?」


「ううん」


「なら教えてあげる! まず、10時に成ったら冒険者ギルドのギルドマスターが開始の合図をする。水中の中でも違和感はあるけど自由移動出来る様にする付与魔法を使う人に銀貨2枚渡して付与して貰う。あとは魚を食い荒らす海中の魔物を倒す」


「成程」


「浅い所って言っても、範囲は漁業する所だからね。魔物の数が増えて、ここら辺にも侵入して来るらしい」


 だから毎年なのか。


「サナは強いし、お兄さんはもっと強いんだね?」


「そうだね?」


「だったらさ。まだ駆け出しなのは分かるけど、その、手前側は一体に付き銀貨一枚程度の魔物なんだけど、それらはまだ水中の戦いに慣れて無い人や駆け出しの人達にやらせたいんだ」


「お兄ちゃんは大丈夫?」


「あ、うん」


「ほんと! ありがとう。私達が狙うのは奥の方に居る金貨一枚の魔物。まぁだいたい一体で中型の船を陥没させれる強さだね」


「分かった」


 その後、開会式が終わり、銀貨を払って付与魔法を付与して貰う。

 その後、手前側の魔物の数が減ったのを見計らい進む。海面だろうと海中だろうと関係ない。


「サナはあの人達と組まなくて良かったの?」


「癖があるからね。変にパーティに入ったら逆に足を引っ張っちゃうよ」


「確かに」


 彼女達の胸元に嵌めてあった冒険者登録をしている証、冒険者バッチを見てそう思う。

 彼女達の冒険者ランクは中で一番上の黒星バッチだ。

 パーティでの評価だ。殆どの冒険者はパーティを組んでいる。

 その方が不得意を埋めれるからだ。


 それに彼女達は主に魔物を狩るハンターだ。ソロでは難しいところもあるのだろう。

 だが、今回のイベントでその考えは浅はかだと感じた。


「一気に加速する! ミチカ! 加速魔法を!」


「了解! ヒナミも向かって!」


「うん」


「応答せよ! 我が仲間のスピードを、我が魔力を持って上げよ、マジックエンジン:スピードアップ!」


「うっしゃあ!」


 蒼い輝きを放ち、水中を空を飛ぶ様に高速で移動してすれ違う度に中型の船を一体で陥没させるサメの様な魔物を切り裂いて行く。

 ヒナミと呼ばれたアサシンも短剣で高速で斬って行く。

 しかし、やはり大剣の一撃で一体を倒せるのは凄いと言わざる負えない。


 魔力の部分的強化を行っているのかもしれない。

 倒した魔物の数は限定で配布された腕輪で計測される。

 死体は海中を鮮血で赤くし、浮上する。

 他のベテラン冒険者かハンターか、その人達も順調に倒している。

 だが、それでも彼女達よりも遅い。


「流石はガールズハンターのパーティだ」

「強すぎるだろ」

「あれがハントだけで最速で黒星まで上り詰めた強者か」


 誰かのセリフが耳に入る。

 星は冒険者ギルドの貢献度で向上する。

 ハントだけと言う事は、依頼も何も無くただ魔物を倒して稼ぐ、それだけで黒星。

 魔物に対しては俺達よりも圧倒的にエキスパートだ。


「お兄ちゃん」


「ああ。そろそろやるか。サーバーアクセス、ジェットパック!」


 空中に飛来して海から出る。

 空中で停止する。


「うん。なかなか上達したな」


 弓を構え、矢を番える。

 弓に魔力を通して矢に流れる。

 この矢は魔力を先端に溜める事に寄って貫通力が増す。更に、空気抵抗を極力少なくする効果もある。

 弓の弦は弾く力が大きくなる。


「新型、まさか俺達が使う事になるなんてな。今更か」


 目を閉じて集中する。


「サーバーアクセス、サーチ」


 空間が全方位色覚可能になり、魔物等の区別がしやすくなる。

 深呼吸して意識を集中し、重なる面を見つける。

 そして、放つ。


 パンっと、乾いた空間の振動音が鼓膜を揺らし、矢は閃光となって鰻の様な魔物とサメの様な魔物を同時に貫く。


「貫通力えぐいねぇ」


 これよりも強い物を使う奴らと戦争してたのか⋯⋯。その後も繰り返す様に放つ。

 俺の下ではサナが反対方向で風の刃を放って狩っている。


「と、矢が無くなったか」


 倒せたのは14体か。

 それでもまだまだ魔物は居る。


「さて、魔弓の本気を見せて貰うぞ」


 魔弓、その名を持つこの魔道具の弓は魔力を一点の場所に集中させる事に寄り魔力の矢を形成する。

 そして属性は電気、ぱちぱちと弾く眩しい光の矢を形成する。

 後は魔力が続く限りひたすら放つ。

 狙いを定めて矢を放つのみだ。


 魔物の頭を焼き貫く。

 黄金の閃光が海に向かって雨と成って降り注ぐ。

 矢を形成、すぐに放つ。


「これ一体に付き金貨一枚⋯⋯個体差関係無くそう言う設定なの辛いなぁ」


 金はいくらあっても困らない。


「食料も貰えるらしいし、確かに旅前としては最高のイベントだな」


 俺はこの作業を繰り返し、魔力の矢は魔物を貫いて、時には二体同時に倒す。

 ただ、誰かが戦っている魔物を横取りしない様に気をつけるのが辛い。


「持っと弓術を学ぶべきだったな」


 弓よりも銃だったので、基礎しか学んでない。

 それでも、魔道具の性能にモノを言わせて倒す。


「サナの方もかなり狩ってるな」


 ◆


「はああああ!」


 サナは刀に魔力を流して風を纏わせて魔物を輪切りにしていた。


「付与魔法すっご。めっちゃ海の中動けるじゃん。魔法って便利だなぁ」


 魔力を流して振るい、合わせる様に風の斬撃が魔物に飛来して切り裂く。


「魔力の流れを持っと操れたら、部分強化とか技が使えるけど、そこまでの時間無いし⋯⋯お兄ちゃんよりも数が少なくなりそう」


 サナを呑み込む程の大きさの口を開いて迫り来るサメ型の魔物。

 サナは左手を向ける。


「魔力回廊接続、風の回廊、風槍!」


 風が一方方向に流れを作り、それが伸びてサメを貫く。


「まだ魔法は慣れないな。お兄ちゃんすぐに扱えすぎなんだよ」


 サナはまだ単純な魔法しか使えなかった。


「⋯⋯この力よりも強い力と戦って来たんだなぁ。勝ち目ゼロじゃん。⋯⋯集中しよ」

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