第7話 護衛完了

「お兄ちゃん凄いよ! 一面の青があんなに広がっている!」


「そうはしゃぐな。めっちゃ目立ってるから!」


 確かに凄いな。


「急いで家に向かいます!」


 ミリアの案内でさっさと向かう。

 本の絵でしか見た事の無かった海だったので、サナがはしゃぐのも理解出来る。

 あれが海。あれが海なんだなぁ。


「あの、お二人共早くしてください」


「「すみません」」


 家⋯⋯屋敷だな。

 うちの国では貴族制度は無かったが、貴族に近い存在や役職は存在していた。

 なんと言う大きさか、噴水に⋯⋯庭広っ!

 これが貴族。見捨てようと考えていた自分を止めてくれたサナに感謝しよう。


「どうしたのお兄ちゃん?」


 屋敷に通されると、使用人の人が来て、ミリアが話をすると、驚いて使用人は走ってどっかに行った。


「廊下は走らない!」


「走らないといけない内容だったのでは?」


「学校の先生かよ⋯⋯」


「お兄ちゃん、うちの学校に走る事を注意する先生は居ないよ」


「そうだな」


 色んな言葉が何故か浮かぶんだよな。良く分からないや。

 そして、一番偉い人が来たのだろう。メイド達が頭を下げた。

 俺もサナも下がる。


「頭を上げて欲しい。我が娘を助けてくれてありがとう。まずは風呂に入ってくれ」


 ミリアに案内されて来た場所。

 男女別で、俺は一人で入る。

 中はまぁ、お風呂と言うよりも浴場だった。

 ま、詳しくは知らんので適当に言ってるが。

 うちの国では水はそこそこ貴重だったので、浸かるとか言う贅沢は無かった。


「暖けー」


 そして上がると、サナと共に広い部屋に案内された。

 そこで席に座り、対面にはミリアとその両親が居た。


「状況を詳しく聞いた。本当にありがとう。それと、盗賊が所持していた物も全てこちらで預かっている。出来れば元の所有者を探して返してやりたい。見つからなければ渡す」


 ⋯⋯めっちゃヤダ。

 ま、ここは善人ぶっとくか。


「わかりました」


「不服そうだね」


「お兄ちゃん⋯⋯」


「すまん⋯⋯」


 どうしてこう、上に立つ人って人の内面を一目で見破るのかね。


「こちらで報酬は用意する。娘やメイドの命を助けてくれたんだ。礼はする」


「すみません。私が我儘を言わなければ護衛の方々の命を⋯⋯」


「あぁ。だが、その責任も背負って成長するんだ。いずれ交渉などは教える予定だった。これは儂のミスだ」


「⋯⋯あの、質問良いですか?」


「ああ」


「貴族が雇う護衛の兵士が魔力保有者一人の盗賊に負けるのか?」


「いえ。他の保有者は兵士達が削ってくれたんです。それで⋯⋯」


「そうでしたか」


 思い出させない様にその話は聞かない様にしていたが、ここで掘り返してしまったか。

 そして、報酬等が整理出来るまで、この屋敷で過ごしていいと言われた。


「「遠慮します」」


「そう遠慮せずに」


「そうよ! まだ私も全然お礼出来てないし、サナちゃんとも話したい! サナちゃんは嫌?」


「嫌、では無いですけど。こんな広い屋敷で寝るなんて、無理です」


「うんうん」


「なら、宿をこちらで手配しよう」


 絶対高価だろ。


「安心してくれ。一般の人が泊まる宿だ」


「ありがとうございます」


「お父様、それでは⋯⋯」


「その方が良いんだよ。こう言う人達はね。それと、謝礼金の一部を先に渡しておく。商業ギルドで身分証を発行しなさい。そしたら残りの金を振り込んでおく。他の国や街でも商業ギルドで引き落とせる。ま、関連国だけだから、そこには注意だ」


「はい。ありがとうございます」


「深くは聞かない。それと、その身なりは目立つから、衣服も揃えなさい。後、武具の購入はまだ待って欲しい。他はこの国を満喫してくれ。地図も用意する」


「何から何まで、感謝します」


「頭を下げないでくれ。娘は、それ以上の宝なんだ。兵士達の葬儀は同席してくれるかね?」


「いえ。我々はそこまで関わっていい人では無いので、それでは」


「ああ。また使者を送るから。そのときは」


「はい」


 そして俺達は地図に示された宿に向かい、荷物を整理する。

 衣服屋に向かって、私服を購入する。


「収納の腕輪没収されちゃったね」


「あぁ。くれると良いなぁ。あれを味わったら大量の荷物を運びたく無くなる」


 そして、色んな場所を巡る。

 腹も減ったので、食事だ。


「うぅ。なんも分からない。何このいくら丼って?」


「サケとかの魚の卵が大量に米に乗ったやつ」


「お兄ちゃん詳しすぎない? 勉強し過ぎでしょ。そもそも魚なんてうちでは流通してないし。皆も⋯⋯あーだめだ。またフラッシュバックして来た」


「外行くか?」


「大丈夫。皆隣で食べてる」


「そっか」


 頭をポンポンと撫でる。

 てか、なんだこの知識? 他の国の料理なんて学んだか?

 俺達が学ぶのは基本的に戦いに関する事だし、他国の事は武器や地形などしか教わって無い筈⋯⋯。

 ま、いっか!


「さば味噌定食にしよ」


「じゃあ、同じので!」


 届き、何で食べるかと思われるが、棒が二本あり、それを使って食べる。


「お兄ちゃん器用すぎない! てか、なんで使えるの?! あ、落ちた」


「ははは! あんたらここのモンじゃないな!」


 酒を飲んでいて人達が絡んで来た。


「箸は他の国では見ねぇだろ。こう、人差し指と中指をこんな感じで、⋯⋯ほれ、後は挟んで食べる。魚はここに骨があっから、こう取り除く。箸は扱いが難しいが、扱える様に成ったらなんだって出来る!」


 色々と教えてくれた。

 帰り道でサナが「いい人達だってねぇ。酒臭かったけど」と言っていた。一発こつく。

 既に月が登っているので、宿に戻って、風呂に入る。


「一緒に入ろー! お兄ちゃん石鹸の使い方知らないでしょ〜教えて貰ったから教えてあげる!」


「え?」


 普通に俺から入り、髪を洗っていた。


「⋯⋯なんで知ってるの! 凄い通り越してキモイよ!」


「いや、知らなくても何となく分かるだろ」


「うん。⋯⋯あれ、もしかしてそれ使った?」


 指さされた物を見て、頭を前に倒して肯定する。


「それボディソープ! 体洗うやーつ! 髪はそれだよ!」


「なんか違うのか?」


「違うよ!(多分)ほらほらー流して、私がお手本を見せてやりましょう〜」


「上機嫌だな」


「ひっさしぶりのふかふかベットだからね」


 枕元にはサナは何時も、友達の形見を置いている。

 俺は先輩達のだ。

 何時も皆一緒に居る。思い出の中にも。

 俺達の敗戦は一方的だった。復讐なんて考えてない。

 ただ、今を生きるので十分だ。

 サナと一緒に朝を迎え、また笑い会えるなら、それで十分だ。


「おやすみ」


「おやすみお兄ちゃん」

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