第6話 エルフ

「流石にこれは聞いてねぇぇぇ!」


 体長四メートルと言ったところだろうか?

 そのぐらいの巨体の魔物が襲って来ている。

 二足歩行で手があまり発達していない、本とかでも良く出て来る魔物、地龍だ。

 必死に逃げているが、追い付かれるのも時間の問題か?


「お!」


 幸か不幸か、目の前に崖があった。

 俺はその崖に向かって高く跳び、落下する。

 ギリギリまで近くに来ていた地龍は大きさ故か、止まる事が出来ず落ち着く。その際に俺と目が合う。


「ばいばーい」


 俺は崖のでっぱりに剣を支えにして落ちない様にしていた。

 後は崖を蹴って、上へと跳躍して着地したら終わりだ。


 一時期はどうなるかと思ったが、一件落着だ。

 さて、水を探しいに行こうかな。


「凄い凄い」


 パチパチパチ、と拍手する音が聞こえる。

 その方向を探り見渡すと、木の上に腰掛ける緑髪の女性が居た。

 その顔は面白い物を発見した時の昔のサナに似ている感じがした。

 つまり、子供っぽい。


「よいしょ」


 スタッと綺麗に地面に着地する。

 奇妙な事にその女性は靴を履いておらず、裸足だった。

 顔の方を見ると、滅多に見かけない様な綺麗な顔立ちで、その瞳は太陽に照らされた草原の様な色合い。

 だが、綺麗な顔や目よりも一番目を引くのは顔の横に付いている、耳だった。

 先端に行く程尖っていて長い。

 伝承にあるエルフそっくりの特徴をしていた。


 そしてこの森にはエルフが住んでいる。

 成らば、確実にこの子はエルフだろう。


 剣をすぐにでも抜ける様に構えを取り警戒する。

 エルフは人を嫌っている。すぐに襲われても反撃出来る体勢はキープして行く。


「あーそんなに警戒しなくて良いよ。私は人にすぐに攻撃する野蛮なエルフじゃないから」


「⋯⋯」


「本当に攻撃しないってば! ほら、武器無いでしょ!」


 確かに、暗器を隠している感じも無い。そして、エルフの目線は俺の目を見ており、敵意も殺気も感じない。

 だが、俺よりも彼女の方が圧倒的な強者で、殺気等を隠している可能性がある。


「ねぇ、聞いてる? 何時まで警戒しているの?」


「俺の憧れた人の一人から教わった言葉がある。夜を共にしてない相手は信ずるな。ちなみに意味は、近くで寝れる様な相手じゃないのは信じるなって意味だ」


「びっくりした。急にエッチなセリフを言ったかと思った」


「んな訳あるか」


「ん〜じゃあ、どうしたら無害で可憐で美しいエルフさんだって認めてくれる?」


「⋯⋯近くに水源はあるか?」


「こっち」


 離れて行くエルフを見ながら、思考する。

 相手の歩き方等から見て、俺を警戒している素振りはありながらも、素人だ。

 まだ俺の事を完全に問題無い人だとは思って無いらしい。

 なのにわざわざ案内してくれると言うのか?

 信頼関係を築いて何の意味があるのやら。


 構えを解いて、俺はエルフに付いて行く。

 向かった先には半透明の流れる川があった。

 旅の最中では見る事も無かった程にとても綺麗だ。


「すげぇ」


 見惚れて唖然とするレベルには綺麗な川だった。

 流れる音、揺れる水、それでいて透き通り中が良く見える。


「ふふん。エルフは自然を愛するんだよ! だから、こんな風に綺麗なの! 魔物に荒らされても、しっかりと治す。森も川も、全部全部、自然だから。それを管理し守るのが私達の役目」


「貰って良いのか?」


「困った時はお互い様。また会って、困ってたら助けてね。あ、他の人達にはバレない様にね」


 人差し指を自分の口に持って行き、ウィンクするエルフ。多分ウィンク。両目閉じてるけど。


「ありがとう。まじで助かる」


 俺は言われた通りに収納の新型がバレない様にしている。

 なので、カバンから水筒を取り出す。

 革で作られた水筒だ。本当はガラス製が良かったのだが、既に無かった。

 一つ一つ一本の紐で繋げて、それを川に流す。

 一度で複数個溜まるので、この方が効率が良い。


「よし。本当にありがとう。助かった」


「いえいえ。一人で来たの?」


「いや。今はとある貴族の護衛をしながら、妹と旅をしている」


「目的とかはあるの?」


「まぁあ、一応は国を放棄した陛下を探しにだね」


「一応?」


 俺は荷物を纏め、来た方向や太陽の位置を確認して、帰り道を想定する。

 道が定まったら、後は進むだけだ。


「本当にありがとう。ここに近寄れるか分かんないし、また会えるかは分からないけど、いずれ会ったらなんでも言ってくれ。それじゃ」


「うん。じゃあねぇ」


 手を振りながら俺は皆の元へ向かった。


 帰ると、サナとミリアが仲良く談笑していた。

 その光景を見た俺は当然立ち止まる。と言うかびっくりし過ぎて体が動かない。

 これが金縛りってやつだろうか。


「あ、お兄ちゃんおかえり。大丈夫だった?」


「あぁ、問題無い」


 頭を撫でながら大丈夫だと宣言する。

 そして、皆にそれぞれ水を配り、再び移動を再開する。

 エルフとの会話的に、やはり本来は敵対関係にあるのだろう。

 今回はたまたま良いエルフに会えたようだ。

 この出会いには感謝だな。すぐに水も見つかったし。


 それから数日後、ボロボロのメイド達と、同じようにみすぼらしく成った貴族を連れた、古き軍服を着た元軍人兄妹が水の都【アクア】を訪れた。

 海と連結したその都市は水を通した文明、魔道具が発展していた。

 盛んな他の大陸や島国との貿易、そして漁業。

 海が近くに無い国出身だととても珍しい光景。

 ガラス細工が進んでおり、色んな所でガラスが見れ、それは窓等の、一般家庭の家からお店まで、幅広く利用されていた。

 そんな中で、みすぼらしい集団が行く場所とは──。

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