第5話 これぞのんびり旅
「はああああ!」
加速して繰り出されるナイフを俺に突き刺すサナ。
横にズレて避けて腕を掴んで薙ぎ倒す。
地面に手を置いて回し蹴りを放って来る。後ろにステップして躱す。
それでもめげずに突き進むサナ。
顔にナイフが突き刺さる寸前に俺は腕を掴んで止める。
「今日は終わり。汗拭いて寝な」
「はーい」
対人戦の訓練を定期的に寝る前にやっている。
今では教わる事は出来ないけど、一緒に教わった技を伸ばす事は出来る。
そんな事をして、夜の警戒に務める。
「ミリア様が見て楽しいですか?」
「いえ。毎日こんな事を?」
「国に務めていた時は毎日ですね」
「軍人が対人戦を学ぶところなんて、初めて見ました。大抵は騎士がやってますから」
騎士は言わば国内の戦力だ。城の守りや門番など。逆に軍人は戦争の戦力。
ミリアから聞いた内容的に、軍人は兵器を使う練習の方が多いらしい。
確かに、戦争では新型を持った人間よりも、兵器の方が圧倒的に強い。
騎士でも軍人でも、下の者の場合は兵士と共通名で呼ぶ事がある。
「魔道具の兵器はやはり、扱うのは難しいですか?」
「分かりません。私自身、魔力を持っていないので」
「そうですか」
ミリアは今でも護衛の人達を失った事を悲しんでいる。
しかし、それでも前に進もうとしていた。
「嫌だぁ! 皆! 止めろおおおおお!」
「サナ!」
悪い夢でも見たのか、サナが騒ぎ出す。
抱き締めて大丈夫だと必死に耳元で囁く。
「はぁはぁ」
「サナ、さん?」
「すみません。サナは時々、悪い夢を見て。俺達が負けたその瞬間を」
「そう、ですか」
そして翌日、移動している時に商業馬車とすれ違う。
お金は盗賊が持っていた奴を使おうかな?
討伐報酬として。
「すみません。野菜をください」
「こりゃあ大人数で。それにその格好⋯⋯少しまけとくよ」
「ありがとうございます」
野菜を購入する。
馬車が去って行った後にミリアが言ってくる。
「亜空間収納の腕輪はあまり人前で使わない方が良いですよ。作るのが難しく、まだ量産出来てないので珍しいのです」
「そうなんですね。ありがとうございます。気をつけます」
魔法と言うのを盗賊は使っていたが、知らなかった。
知識的には知っているらしいが、扱い方などは知らないらしい。
俺達の魔力は盗賊の言い方的に多いらしいが使い方が分からないなら意味が無い。
今は魔道具だけに魔力が使われている。
定期的に出現する獣は狩って、魔物は成る可く無視する様にしている。
そして何日も歩いて、メイドの方に限界が来た。
靴擦れを起こしていた。
「今日は丸一日ここで休みますか」
このまま歩いても効率が悪いしな。
テントの準備をして、近くの安全確認をする。
アクア行きの馬車があれば乗せて貰いたいが、やはり居ないな。
「64⋯⋯65⋯⋯」
サナの筋トレを手伝っている。
俺達は未だにメイドと言葉を交えた事が無い。
態度が悪いのは分かっているが、そこまで嫌悪されなくても。
「100っ!」
サナが暇がするあれば訓練をしている。
あまり過去を思い出さない為に逃げているのだ。
「ようやく半分って所か。まだまだ先は長いなぁ」
「気になっていたんですが、距離が分かるんですか?」
「あぁ。地図は頭に入っているし、方角は太陽の方を見ればすぐに分かる。距離の方も覚えている」
「外交官や護衛の兵士等なら分かりますが、軍人で地図を覚える人って居るんですね」
「普通はそうじゃないのか。俺達は皆そうだよ。これも全部上官達の教えだ。多分、負けた時の逃げ道として教えてくれたって、今では思う。サバイバル術も、全部全部。ミリア様は国に着いたらどうしますか?」
「まずは家に。同伴してください」
「そうですね。報酬も貰わないといけないし」
「そうですね。ユウキさん達はどうするんですか?」
「どうするか、か。サナはどうしたい?」
「123⋯⋯124」
ダメじゃこりゃ。
この先か。
まずはアクアでゆっくりしたい。ゆっくりした後に情報を集めて、違う国を目指す。
俺達の元陛下が何処に逃げたか分からないが、目標にしたからには一度は話さないとな。
ただ、あくまで目標だ。
俺達が生きる目的を失わい為のただの理由付け。
正直、どうでも良い。
生きる目的を作るしか俺達に生きる気力が湧かない。
だから目標を作った。
「観光もありだな」
「え?」
「国に縛られなく成った。自由なんだし、適当にブラブラするさ」
「それでしたら、我が国に⋯⋯」
俺はそのセリフを手で制す。
「俺達は言わば死に損ない。蘇るつもりは無い。自由にやる。だから、それ以上言わないでくれ」
「⋯⋯はい」
そうだな。
一ヶ月、休養して情報を集めて新たな場所に向かう。
「確か、そんな奴らの集まる場所があったな」
「冒険者ギルドですか?」
「そうそうそれ。ギルド。俺達の国は戦争が始まってから皆居なく成ったけど、自由な奴らの集まり。そこに登録して、時々金を稼いで色んな場所を移動する。それも悪かねぇな」
「215⋯⋯216」
「サナさん。大丈夫ですか?」
「問題ないよ。ノルマは千回以上だからね」
腕立てをひたすら繰り返すサナ。その上に乗る俺。
俺達のような魔力持ちは身体能力が化け物になるが、それ以外にも体力や筋肉量も人一倍多くなる。
訓練次第でいくらでも強くなれる。
だけど、新型兵器の前では無力だった。
さて、俺は調理の準備でも始めようかな。
それからまた数日が経過して、あと予定通り行けば三日で到着する予定だ。
街道を通っているので水場が無く、皆水を染み込ませたタオルで体を拭いていた。
しかし、そろそろ水も限界だ。
盗賊が使っていた水も残り少ない。
近くに水源は無いか探すしかない。しかし、ミリア達を連れて探すなんて時間が無駄に掛かる。
ここはサナに任せて、俺は水がある場所を探すか。
近くにある森を探せば川くらいあるだろ。
「サナ、ライフルは成る可く温存しとけよ。新⋯⋯魔道具はいくらでも使って良いからな。俺は水を探して来る」
「分かった。気をつけて」
「当たり前だ」
「帰って来て」
「それこそ当たり前だ」
「ユウキさん。そこの森は⋯⋯」
「⋯⋯大丈夫だろ? 水を探して手に入れて去る。それ以外はしない」
新型の剣を持って、俺は森を突っ走る。
耳を済ませて水の音を見逃さない様にする。
この森は本来人間が入ってはダメな領域だ。
亜人族のエルフ種が住んでいる森。
環境破壊を昔ながらにしていた人間を嫌っているのだ。
成る可く奥に踏み込まない様にしないとな。
後は魔物に会わない様に。
流石に新型があっても、一人では魔物を相手に出来ない⋯⋯と思う。やった事ないし分からんな。取り敢えず気をつけよう。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます