第4話 ミリア・メイ・ウエイトレス

 投げたライフルをサナが捕まえ、ボスに向ける。

 ボスはそれに気づくが、俺の方も見ている。

 どっちを防ぐかの思考を回しているのだろう。


「考えるなら、体を動かせ」


 それは俺が教わった言葉の一つである。

 日光に刀身を晒して反射させて視界を少し奪う。

 それに慌てたボスは剣を振るうが、がむしゃらに振るった剣は当たらないし、サナだって弾を命中させれる。


 脳天を撃ち抜き、着地するサナ。

 ボスはゆっくりと体の動きが止まって行く。


「この、人殺し」


「今更だ」


「悪人、だ。お前、も」


「ああ、そうだな。戦争と殺しには正義は無い。あるのは大義だ」


「がは」


「もう、十分だろ」


 俺はボスの首を落とした。

 結局、全員殺した。殺してしまった。


 ボスから腕輪を取り、剣も受け取って行く。

 後、サナが道具を置いている場所を見つけたらしいので、そこに向かおうとしたら、奥から人が数人やって来る。

 俺達の足元に転がっている惨たらしい光景を見て、立ちくらみを起こしていた。


 俺達は特に何かを話す事もなく、道具を漁る事にした。

 新型の使い方が分からないので、どうしようかと考える。


「てか、この腕輪には収納しなかったんだな」


「一度出したんじゃない? 整理とかそんな感じ」


「だろうな。サナ、どれ貰う?」


「ん〜使い方が分かれば良いんだけどねぇ」


 そんな会話をしていると、メイドに肩を借りながら、近付いてくる気品のある女性が居る。


「あの、それらは元々、我々の護衛をしてくれた兵士の武具です。出来れば返して頂きたいんです。遺産として。勿論、この命、我が身や付き人を助けて下さった報酬として、同じ系統の魔道具等をお渡しします。ですので」


「「⋯⋯」」


 気品ある女性が頭を下げ、それに寄って睨んで来るメイド達。

 俺とサナは互いに目を合わせて、目で会話する。


「分かりました。それで、お住まいは? 出来れば何時頃攫われたのかも教えて欲しいです。それと行先も」


「はい。水の都、アクアです。目的は山の国、ミンクへの貿易の為に、先行して行こうとしてました」


 アクア、ね。

 はは。まじかよ。

 しかもかなりの長距離移動だな。道理で使用人が居る訳だ。

 泊まりだろうし、身の世話をする人は必要だろう。


「攫われたのは、数時間前です」


「そっか。だいたいアクアへ徒歩で行くなら、三週間以上だな」


「お兄ちゃんどうする?」


「お願いします!」


 ま、良いか。

 どうせ陛下を見つけるにも行き先が分からないし、寧ろ大きな国であるアクアなら情報が流れているかもしれない。

 ただ、面倒なのは、本当に徒歩で行くしか無いと言う事だ。

 捜索隊は絶対に組まれない。

 まず、前提としてミンクへとまだ到着してない。

 つまり、襲われた可能性が分からないのに、捜索なんてされない。


「取り敢えず、この腕輪の使い方を教えてくれませんか」


「分からないんですか?」


「はい」


「分かりました。ソレが使えないと物の運びも辛いですからね」


 そして使い方を教えて貰い、盗賊達が得た物を収納して行く。

 中にはこの人達の所有物じゃない物もあった。

 ボスが使っていた剣もその一つだ。

 それは貰っておく。


 遠慮? する訳ないだろ。

 命を助けてあげたんだ。寧ろ、このくらい強欲じゃないと、不安になるだろ。


 夜、メイド達は慣れてないだろうし、ストレスが大きい筈なので、寝て貰う。

 見張りは慣れている俺とサナで交代だ。

 火を見ながら、俺の膝を枕にサナが寝ている。


「寝れないのか?」


 貴族の女性が火を挟んで対面に座る。


「兵士達の遺体は、残っているでしょうか?」


 俺達は一応、この人達が来た道を戻る様にアクアへと向かう予定だ。


「無いな。魔物か獣に食われている」


「そう、ですよね」


「遺品はある。遺族に渡せば良い」


「はい」


「泣かないのか?」


「え」


 俺の発言にポカンとする貴族様。


「目の前で人が死んだんだろ? 怖くて泣かないのか?」


「私に、その資格はあるんでしょうか? 私が無理を言って、先行しなければ、血を流す事は無かった筈です」


「そうだな」


「間接的に死なせた私に、彼らの死を悲しむ資格はあるんでしょうか?」


「知らん」


「その服装は軍人ですよね。戦争は、大変ですか?」


「大変じゃないよ。だって、勝ち目のない戦いに一方的に殺されるだけだから」


 生き残ったのは、相手の射線上から一番外側だったからだ。

 後は魔力のお陰だろう。


「貴方は、泣かないんですか?」


「泣くよ。泣いた。資格なんて関係ない。仕事を全うし、そして死んだ相手は、誰であろうと悲しめば良い。俺の妹は、毎晩泣いたんだ。辛いもんだよ。近くで、友が仲間が上官が死ぬってのは。しかも、死体が残ってない場合もあるんだ。弔う事も許さらず、ただ死んだと言う事実を受け入れるしかない」


「⋯⋯少し、席を外します」


「遠くには行くなよ」


 そして、木陰で貴族様は泣いた。号泣だ。

 声が枯れるまで叫び、ただ懺悔を繰り返す。

 自分がこうしなければ、ああならなかった。そんなのは甘えだ。

 死から目を背けて、たらればで現実から逃げる。

 そんなのよりは、死を受け入れて、泣いて貰う方が、死んだ兵士達も嬉しいだろう。


 俺には気の利いた事は言えないし、今でも報酬の事しか考えてない。

 貴族に媚びを売る必要も無いただの旅人である俺らに上流階級の人達と関わりを持つ必要は無い。

 助けたのも、報酬の為。

 サナは多分、助けたいって思いがあったんだろう。


 生きる為に、犯罪を犯した盗賊達。

 道を踏み外したあいつら。もしも、俺に何かあって、サナが大変な目に会うのなら、俺もあいつらと何ら変わりない事をするかもしらない。

 いずれ、軍人としての誇りを捨てないといけない日が来るかもしれない。


「もう良いのか?」


「はい。少し、身が軽く成りました」


 目を晴らして帰って来た貴族様。


「貴女は強いよ。複数の死を見た人で、それも心を寄せた相手なら、狂っても仕方が無い。だけど、貴女は立ち上がり、前を向いた」


「⋯⋯気の利いた事も言えるんですね」


「もう寝ろ」


「そうします。今日から、よろしくお願いします」


「貴族様が、そう簡単に下々に頭を下げるもんじゃないぞ」


「私の頭一つで、あの人達が国に帰れるのなら、いくらでも下げます。私の今の価値なんて、そのくらいですから」


 アクアの貴族の子供って皆こうなの?

 なんか立派過ぎない?

 ま、後は時間が解決してくれるだろ。

 今回の失敗を活かす事もまた、生きる者の定め。

 学ばないのは愚か者だけだ。

 彼女が成長し、立派な貴族をしていたら、兵士達も「守れて良かった」と浮かばれる筈だ。


「はぁ。独りだと変な事考えるな」


 そして翌日、出発の時となる。


「よろしくお願いします。今更ですが、私は水の都アクアのウエイトレス家の次期当主、ミリア・メイ・ウエイトレスです」


「俺はユウキ。ただの放浪者だ」


「私はサナ。よろしくお願いします!」


 ただ、俺達の態度にメイド達は終始ご立腹の様子だったけど。

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