第2話 懐かしの対人戦

「なんで死なないのよ!」


「知るか!」


 テントの近くで暴れられるのは嫌だ。

 少し離した所で戦いたい。俺に注意が向き、追い掛けて来る。

 地響きが俺の心臓の鼓動を加速させる。


「お兄ちゃんに近づくなぁ! 豚がああ!」


「サナ!」


 オークの背中を深く切り付けるが、それで怒りを買ったようで、棍棒を振るわれる。

 しかし、サナも俺と同じ元軍人だ。

 確かに、サナはまだ新人だ。

 しかし、俺と同じ師匠の筈。そして、我が師は尊敬に当たる程に、強かった。

 戦争により、理不尽の武器、新型の武器に寄って技術なんて関係ない圧倒的な物量でこの世を去った。

 しかし、対人戦では同等に戦っていた姿を俺は見た事がある。

 だから、そんな技術を教わった人を俺は信用している。

 サナも、信用している。

 だから、俺がやるべき事は、弾の装填だ。


 残り一発で確実にオークを倒す。

 相手は怪物だが、それでも血が流れた生命体だ。

 勝てる!


「舐めるな豚がぁ!」


 水龍天願流、受け流し反撃を得意する剣技をサナは一番得意とする。

 大きな棍棒の勢いを受け流して弱め、弾く。

 だが、木々をへし折りながら吹き飛ばされたが、生きている事は確かだ。


「死ねや!」


 少し舐めてたよ、魔物ってのを。

 だが、これで流石に沈むだろ。


 オークの真上へと跳ぶ。

 頭の中心を狙って、引き金を引く。

 乾いた音が響き、肉を貫き骨を砕き、脳を貫いた。

 噴水のようにプシューと赤い液体が広がる。

 目から光を失ったオークが倒れ、その上に着地する。


 返り血が全身に掛かる。

 服は戦争時の物、所謂軍服だ。血を良く弾くが、体はそうはいかない。

 粘り着く様な液体と臭い、また体を洗わないとな。


 俺はサナの所に向かう。

 かなり吹き飛ばされたが、魔力持ちで体も丈夫、受け身も取っているだろうし、生きている。


「サナ、大丈夫か?」


「大丈夫に見えるなら、目の交換をオススメするよ」


「大丈夫だな」


「はは。無茶しちゃった。皆が見えた。手を振ってた」


「⋯⋯」


「皆、元気にしてるかな?」


「俺達が戦争で死ねたなら、光栄な事だろ。きっと皆栄誉ある死だと、満足してるよ」


 サナの顔が下がる。


「そんな訳無いよ。あんなのは戦争じゃない。一方的な虐殺だよ。なんで、戦争なんて、してたんだろうね」


「なら、目的変更だな」


「え?」


「逃げた陛下を探して、なんで戦争なんて始めたんだって、聞いてやろうぜ」


「⋯⋯そう、だね」


 それからオークの解体をしたのだが、大変だった。皮が固くて解体用ナイフじゃ刃が通らなく、剣で代用した。

 オークの肉は豚肉と何一つ変わらなかったが、少し体が回復が早く感じた。

 それと骨は少しだけ持って行く。


「これが噂の」


「魔石、だっけ?」


 魔物の心臓には魔石と呼ばれる、魔力を秘めた石がある。

 魔物の魔石は純粋魔石と呼ばれ、魔力の塊だ。

 洞窟等には魔力が長い時を掛けて固まった鉱石があったりする。

 同じ様に魔石である。


 大きなリュックを持ち、移動を再開する。

 弾も最大まで入れたので、前回よりも安心して戦える。

 進んで行くと、人の気配を感じたので隠れる。


「へへ、良い物が手に入ったな!」


「そうだなボス! 貴族様は良いよな〜こんな魔道具を沢山持ってて」


「そうだな。だから、俺らが奪って有効活用すんだよ。おめぇら、売るもんと使うもん、分けとけ。後、拐ったその貴族の娘には絶対に手を出すなよ。メイドとかには構わんがな」


 そんな会話が聞こえる。

 盗賊? だよな。

 しかし、言い方的に新型が使えそうだな。

 サナと小声で話す。


「どうする? 俺は生きる事を優先したいが」


「あんなの聞いてほっとけないよ。恩を売って魔道具を正式に貰って使い方を教えて貰おう!」


「流石は我が妹」


「ま、本当はメイドさん達が心配なんだけどね。同じ女として」


 軍人としての人助けの考えは無い。

 元々俺達の世代では軍人イコール戦争の兵士だ。

 国を守り、敵を屠るのが俺達の役目。


 ただ、先輩方から口酸っぱく言われて、人助けの考えはある。

 ただ、今率先してやれる余裕は本当は無い。

 今すぐ見て見ぬふりをして逃げたい。

 口ではこう言うサナ、後者が本音だ。

 人が苦しむのが見てられないのだろう。


 盗賊の人数は12人、多いのか少ないのかも分からない。

 俺達の近くには居なかったからな。

 俺が知らないだけかもしれないけど。


 銃を構え、ボスと言われた男の頭を狙う。

 不意打ちだろうが関係ないね。


 しかし、俺達は驚愕の光景を見る。

 ボスが腕輪をして、手を伸ばすと、虚空から光が現れて肉が出て来たのだ。


「アイテムボックス?」


「お兄ちゃん知ってるの?」


「いや、知らない。気にするな」


 言葉が咄嗟に出たが、今は関係ない。

 あれは欲しい。これからの旅に持ってこいの最高の道具じゃないか。

 大きなリュックを持つ必要も無くなる。


「ボスの頭を撃ち抜いたら、一気に駆けろ」


「うん」


「四人奥に行ったよな? 多分、あっちに人質が居る。俺が正面で人を引き付けるから、その隙に逃がせ。そしたら戻って来い」


「分かった」


「行くぞ。3、2」


「1」


「行け!」


 引き金を引いてボスの頭を撃ち抜く。

 しかし、流石は魔力持ちと言うところか、ギリギリで反応して避けた。

 ただ、片目は潰れたがな。


「誰だ貴様あああ!」


「お怒りの所悪いけど、君達を拘束或いは全滅させて頂くよ」


「やれぇ!」


 ここに居るのは八人。

 ボス含めての八人、そして奥からも来ると考えると⋯⋯拘束なんて甘い考えは出来ないな。


 ボスが剣を鞘から抜いて、電気を纏わせる。

 新型だ。

 他の奴らはどうだ?

 ⋯⋯今の所ボス以外に魔力持ちは居ないみたいだな。

 司令塔をさっさと倒そうと思ったが、周りから潰すのもありだった。


「殺れ!」


『おおおお!』


 訓練された俺達とは違い、本能に生きるこいつら、連携が成ってない。

 連携が上手くないと、倒せない。

 特に魔力持ちと魔力無しでの身体能力の差は本当に激しい。


 ライフルを後ろに向けて、後ろの敵を撃つ。

 生死は考えてない。ただ動きを鈍くする為に撃った。

 俺の腕前では、気配だけで撃つと正確に頭を撃つ事は出来ない。

 今回はたまたまだな。残り七人。


「気をつけろ。見ずに撃った。相当の手練だ。それにその服装、なんで国を守る人間がこんな場所に居る! 俺達の噂を聞きつけて派遣された、そんな事は言わねぇよな。一人で来てんのに」


 一人だと? サナはバレない様に回り込んだのか。

 良い判断だ。


 ボスが俺へと接近して来る。

 魔力持ちじゃないのなら、危険なのはボスだけだ。

 他の雑魚は敵ですら無い。


「最近は魔力兵器しか見てなかったから、新鮮だよ!」


 対人戦はな!

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