滅んだ国の元軍人兄妹冒険譚〜魔王レベルの魔力保有者は自由に異世界冒険を満喫する〜

ネリムZ

第1話 始まり

 戦争と言うのはなんだろうか。ただ争って、命を削り合い、結果意味の無い戦いになる。

 俺から見たら、ただの地獄だった。

 俺達の使う武器は所謂『旧式』である。

 そして、ごく稀に人間は『魔力』と呼ばれる特別なエネルギーを持つ。

 そんな魔力を使って扱う武器を『新型』或いは『魔道具』と呼ぶ。

 そんな俺も魔力を持って生まれた。だが、我が国は魔力を嫌い、魔力を使った発展はしていない。

 故に、新型の武器は無い。


 そして、今相手にしているのは、新型が発展し、最強の国となった相手だった。


「なんだよ、あれ」


 誰が発した言葉かは分からない。

 目の前に居るのを一言で表せば『巨人』である。目の前と言っても、とても遠くに居る。

 しかし、はっきりと見える。そんぐらいに大きい。

 そんな巨人が大きな口を開けて、そこに魔力を溜めて放って来た。

 それが、地獄の始まりだった。


「やば──」


 一瞬の光が全てを覆い尽くす。大地を溶かし、空気を振動させる。

 そして、積み重ねた経験も、築き上げた信頼も、憧れの先輩達も、大切な友達も、そして家族も失った可能性がある、そんな一瞬だった。


 ◆


 一夜にして俺達の国は終わった。

 たった一つの兵器により。

 何とか生き残った俺は生き残りの仲間を探している。

 衝撃波だけで気絶したので、辺りには死体が転がっていた。

 そう言いたかった。

 確かに死体はあるが、少し歩けば、抉れた大地が広がっていた。死体すら残らない一撃。殆どの死体は無いと思う。


「誰か! 誰か起きてないか!」


 俺の叫びに反応してくれる人は居ない。


 待て! 今回の戦には妹も来ている。

 違う部隊で、まだ新人だから後ろの部隊だ。


「はぁはぁ。ユウキ!」


「テオ!」


 テオ、俺の友人である。

 仲間の亡骸を見て、嫌な顔をする。今更死体を見ても、悲しみは来ても吐き気は来ない。


「なんだよ、アレ! 皆、あんなので、クソ!」


「⋯⋯生き残りを探そう」


「だな。ユウキはあっちを見てくれ」


「ああ」


 そして次々に生き残りが出て来る。

 兵器の攻撃を諸に受けず、衝撃波だけの人達だったのだろう。


「お兄ちゃん!」


「のわ!」


 後ろから飛びつかれた。

 死体の上に倒れそうになるが、それはダメなので、必死に耐える。

 涙を流しながら妹が喜んでいる。

 銀髪の前髪から覗く目は腫れている。


「ミアちゃんも、アヤちゃんも。皆、みんなああ!」


「サナ! 大丈夫、大丈夫だから」


 流石に隊長レベルの人達は居なかった。中心に居たので、諸に攻撃を受けたのだろう。

 取り敢えず、国に戻ると言う選択肢を取った。

 だが、見てしまったのはおぞましいモノだった。

 サナが膝から崩れ落ちる。

 予想はしていたさ。違うな。予想以上だ。だけど、やはり見ると辛いな。


「俺達の国には魔力持ちが生まれる事は本当に稀だ。そして、あいつらが望むのは魔力保有者。持たざる者は用無し、ゴミは処分される⋯⋯そう言う事か、クソっ!」


 老人赤ちゃん関係なく、殺されている国の姿だった。

 中に入って俺達が向かうのは王城である。


 王城を探索して仲間の一人が報告する。


「陛下は秘密の道から逃げていたよ」


「お兄ちゃん、私達の王様はクズだね」


「皆我が身が一番だ。そう責めるな」


 サナの頭に手を乗せる。怒りの顔は簡単には緩まなかった。

 そして、残った武器を掻き集め、各々の道を考える。

 家族を失った者は泣き叫び、友を失った人も泣き叫ぶ。

 俺も例に漏れず、泣いた。


 死んだ人を弔った後、また来る可能性があり、俺達は歩みを進める事にする。


「テオはどうすんの?」


「東の方に、従兄弟が住んでる村があるんだ。一応そこに向かう予定。ユウキ、お前らそう言うの居ないだろ? 俺と来ないか?」


「サナはどうする?」


「お兄ちゃんに任せるよ」


「そっか。ごめん。俺は違う場所に向かう」


「どこに行くんだ?」


「全ての生命が平和に暮らすって言う、理想郷アルカディア


「おとぎ話じゃねぇか」


「どうせ行先は無い。それに、お邪魔したら確実に俺らは迷惑だ。友にそんな迷惑は掛けられない。じゃ、また会おう」


「ああ。ちゃんと生きろよ」


 そして、俺達は宛のない旅を始める。


 ◆


 あれから何日経ったのだろうか?

 今は川で体を洗いながら服も洗っている。

 武器は剣とナイフとライフル、弾は120発って所だ。

 基本的に剣で獣を倒して、研石できちんと手入れする。


「お兄ちゃんに髪を洗って貰うの好きー」


「そっか」


 最初の方は暗い顔で毎晩泣いていたサナもだいぶ落ち着いて、笑顔が出る様に成った。それでもどこか、寂しそうだ。

 と言う俺も心のどこかで夢では無いのか、そう考えている。

 旅を通して、心が癒えると良いな。

 サナの裸を見ても何も思わない。妹だしね。


「にしても、旅にその体は不便じゃないか?」


「胸を削ぎ落とせと?!」


 それから串に肉を刺して、焼いて頃合いを見て食べる。

 肉汁しか味が無く、正直不味い。


「魔力持ちって言っても、所詮は体の作りが強固に成っただけか」


 サナも一応魔力持ちだ。

 判別方法は雑だがな。幼い頃から体が丈夫だったりと、魔力持ちは普通ではないのだ。

 例えば俺の黒髪、これは俺にだけ出た特徴だ。

 黒い目もそう。両親の顔は知らないので、遺伝かもしれんがな。


『おおお』


「「ッ!」」


 武器を持って木陰に隠れる。

 木々を倒しながら現れる大きな二足歩行の豚、魔物の『オーク』!

 初めて見たけど、めっちゃ大きい。

 鼻をヒクヒクさせながら俺達が泊まっていたテントを見る。

 不味いな。豚は鼻が良い。


 魔物は獣が魔力を持って生まれた姿だ。

 そして、魔物と魔物が交配して新たな魔物を生む。当然、環境に寄って魔物は進化を遂げる。


 オークはでっかい棍棒を持っている。

 ライフルは一丁で、今は俺が持っている。

 弾は確か二発装填されている筈。きちんとリロードしておけば良かった!


 妹にジェスチャーで合図を送る。

 背後から回り込んで相手の注意を集めてくれ、と。

 そしてどう受け取ったのか、大きく顔を倒してオークに向かって進む。


「へ?」


「行くぞぉ!」


「違ううう!」


 剣を抜いてオークへと肉薄するサナ。

 棍棒が空気を潰しながら振り下ろされ、それを髪一重で避ける。


 危なかっしいな。


 ライフルを構えて照準を合わせる。

 狙いは頭一発だ。


 サナが剣で攻撃し、返り血を受けない様に止まらない。

 横払いで振るわれる棍棒は跳躍で避ける。

 魔力持ちだから出来る、超高いジャンプだ。


「今だよお兄ちゃん!」


「サンキューサナ!」


 引き金を引いて、バンと言う乾いた音を響かせて、オークの頭を撃ち抜く。

 脳天一発だ。

 今は亡き、俺の憧れの先輩の一人から教わった銃撃の技術は高いと思う。

 だから、こんな土壇場でも見事に狙い通りに命中させる事が出来た。


「え」


「へ?」


 魔物は、魔力持ち。魔力持ちは強靭だ。

 そして、脳天を撃たれても、死なないらしい。

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