第7話 東京
あなたが東京の大学に行くことにしたと連絡をもらって、私はあまりのうれしさに、数日にやけ顔が止まりませんでした。
なぜなら、私も東京の大学に行くことが決まっていたからでした。
でもなかなか世の中うまく行くわけも無く、同じ東京とはいっても住むエリアも、大学も結構離れていました。
それでも会おうと思えば会える位の距離ではあったので、私は、ただ、ただうれしかった。
あなたと、あなたのお父様が来られるとき成田まで迎えに行こうかと思ったほどです。
でも私には東京の地理がぜんぜん分からなかった。
それでもあなたと、あなたのお父様と三人で食事などをする機会があり、私はこんな関係が長く続くと思って疑いませんでした。
事実少なくとも四年間はそうなるだろうと考えていました。
東京で、あなたとあなたのお父様に会うときは本当に緊張しました。
あの時あなたに会ったのは実に三年ぶりくらいでしたね。
あなたに最後にあったのは、あの人形劇を一緒に見た年が最後でしたね。
あれからなんとなくあなたは忙しくなり、なかなか帰ってこれなくなった。
あなたに会えないことは寂しいことだけれど。
あの時の私には、あの巨大人形劇を一緒に見たという思い出がありました。
あの頃の私は、それだけで十分だった。
待ち合わせの場所にあらわれたあなたはコートを来ていた。
それに私は驚きました。
なぜなら私はその時初めて、夏以外の季節にあなたに会ったのです。
そんなこと、ちょっと考えれば分かるのに、
私は春のあなたも、
秋のあなたも、
冬のあなたも知らない。
私の中であなたは夏のイメージ、いえ、夏そのものだったのです。
数日間の手続きや、入学式を終えるとあなたのお父様はカナダに帰って行った。
最後に日のあなたのお父様は私の手を握り、あなたの事をよろしく頼むと、くどいくらいに言われたのを昨日のように思い出します。
とは言っても生活圏が違うあなたとはそういつも会うと言うことは無く、数ヶ月合わない事もしばしばでしたね。
あの頃と違い、夏はあなたはカナダに帰ってしまう。
夏はあなたと一緒に田舎に帰れると勝手に思っていた自分が恥ずかしいくらいでした。
私は意味も分からずあなたを夏の恋人なんて呼んで、その意味を理解出来る年になり、私は本当の意味であなたを夏だけではない恋人にしたいと願っていました。
そう今だからこそ告白します。
そう願っていたのです。
大学を卒業するころになっても、あなたとの関係は、何の進展もありませんでした。
確かに私は無理矢理あなたを連れ出して、映画を見たり、お互いの学園祭に行ったり、ご飯を食べたりしました。
でもそれは友達。
もしくは幼なじみの域を出ることはありませんでした。
恐かったんだと思います。
この一歩を踏み出してしまったら、今の関係すら失ってしまうのでは無いか、今なら誘えばあなたと映画に行くことも、食事をすることも出来る。
でも、その一歩を踏み出してしまったら、もう後には戻れない。
全てを失うくらいなら、今のままでいいのではないか、そんな事を思っていたらあっという間に四年が経っていました。
漠然とした疑問、あなたは卒業したらどうするんだろう。
東京の大学に来た位だから、このまま日本にいるのか。
私は実家から、卒業したら帰って来るようにいわれていました。
あなたはどうするのだろう、このまま日本で就職しないでカナダに戻ってしまうのではないだろうか。
でも、このまま、日本で就職して、日本に住みつづける、それなら私も実家に帰るのでは無く、このまま東京にいる方が良いのでは。
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