第6話 巨大人形劇
美術博物館につくと、そこそこの人が集まっていて、その巨大人形を取り囲んでいました。馬の前足から前だけの巨大人形が、大きなクレーンから出ているロープにつるされていました。
木や鉄で作られた骨組みに、ネットが張られ、馬の形になっていました。
いくつものロープが垂れ下がりこれを操って馬を動かすと言うことでしょう、大きさは六七メートルくらでした。
そろそろ日暮れで、だんだんあたりが暗くなって来ました。
多方向からの照明がブルーがかっていてネットで作られた巨大な馬を、青く、美しく、照らし出しました。
それはあまりに美しい光景でした。
いつもの知ってる博物館の中庭とは思えません。
ブルーの光は妖艶に妖しく輝き、その巨大な馬が、ただの馬では無く、まるで神の使いのように見えました。
馬を動かす黒子の人たちが一人一本ロープに手を掛け、スタンバイします。
そして少し離れたところにいる女性が歌い始めます。
それは美しく響いているはずなのに、あまりにせつなく、胸が苦しくなるほどでした。
この人形劇を企画の人形師が大きな人形を抱きかかえ演技を始めます。
美しい衣装を着た盲目のお姫様の人形です。
巨大な馬の大きな、いななきが、あたりに響きます、一人一本のロープに全体重を掛けて、引いているだけなのに、それが合わさると巨大な馬に命が宿ります。
せつない歌声はさらに大きく響きます。
人形師の手により、盲目のお姫様は馬と出会い、そのまわりを走り回ります。
そして馬に気づく、初めは恐る恐る、そしてあたかも馬の優しさに触れたかのようにお姫様は心を開いて行く、それがせつない歌により、あたりの人々に広がって行く。
ただ人形を操っているだけなのに、なぜこんなにもせつないのか。
そして馬とふれあい、お姫様の閉じられていた目が、開きます。
そこから歌は歓喜にあふれ、お姫様は巨大な馬に感謝をするように、馬のまわりを走り回ります。その歓喜はお姫様の「ありがとう」と言う言葉が聞こえるようでした。
馬はいななき、前足と頭を大きく振ります。
それは歓喜その物のようでした。
巨大な馬は、ブルーの光に怪しく輝いていたはずなのに、その馬の歓喜のせいで、優しい光に換わる。
光は歓喜にあふれ、歌声がせつなげに響きますが、決してせつないだけは無く、圧倒的な歓喜に包まれる。
操る人たちは全体重を掛けてロープを操ります。
そして終焉。
歌が止まると、巨大な馬の大きないななきが三つ、そして静寂。
その静寂がどれだけ続いたのか分かりません。
一秒だったのか。
五秒だったのか。
あるいは十秒だったのか。
人形師のありがとうございましたと言う声にその静寂はやぶられ、
あたりは歓声に包まれました。
たった七分の劇なのに、人はこんなにも感動できるんだと初めて知ったときでした。
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