第5話  人形劇


高校生になった夏。

あなたは例年より少しだけ早く来たことがありました。

小学生の時と違って、父様に連れられてくる、と言うより、ご自分の夏休みに田舎に帰る感覚だったと思います。

当然高校生なので、夏休みの最後に編入するということは無くなり、なかなか他に人間との接触はありませんでした。

今だから告白します。

当時の私は、あなたが私に会うために来てくれていたのかな、なんて思っていました。

いつもは八月の一週くらに来ることが多かったのに、その年は七月の終わりくらいに来たことがありましたね。

「どうしたの、今年は早いね」なんて私はうれしさを覆い隠して尋ねた物です。

「うん。いろいろあって」

「へー」

と言ったとき一つの思いがうかびました。

人形。

そうだ今年は人形だ。



この町は、毎年八月の初めのお祭りに会わせて、人形劇のお祭りを開催します。

期間は短いときで4日から5日、一番長いときは10日くらい開催されます。

この人形劇はすでに何十年という歴史があり、町を挙げてと言うより周辺の町や、村を巻き込んで盛大に開催されます。

この期間だけで、プロ、アマチュア、大人、子供関係なく、2から3百の団体が、500オーバーの公演をします。

当然メインの市の公会堂とかだけでは足りず、周辺の町や村の公会堂、市民センター、学校の体育館さらに路上や仮設テントなど、この期間は本当に人形劇一色になります。

ですから小学生や、中学生の人形劇サークルはもちろん一般の生徒もモギリや整理の手伝いに駆られる一大イベントでした。

私はこのイベントにあなたを連れて行ってあげたいと思いました。

「人形劇に行こう」

あなたはそんな私の言い方に驚いて

「人形劇」という世にも奇妙なイントネーションで聞き返し方をしました。

私は満面の笑顔で、

「そう、人形劇」と答えた。

あなたは知らないと思いますが、それから私の今まで生きてきた中で最も綿密で、難しい計画を立てたのです。

500からの出し物を全て見ることは出来ません。

さらに出し物は幼児向けとか、成人向けとかあります。

時間がかぶれば、見ることは出来ませんし、会場も小さい物まで含めれば三、四十カ所あるので時間がかぶらなくても、移動時間は考えなければなりません。

その計画が重要です。


私はあなたが興味を持ちそうな、海外から来る招待劇団などのチケットをとりました。

海外は人形劇の盛んなヨーロッパが多く、チェコ、ポーランド、フランス、台湾などですが、完全に大人向けのため、子供はおろか大人でも理解出来ないような人形劇もあります。

その日私は、あなたを向かいに行くと、あなたは黄色に様々な花の模様をあしらった夏用のワンピースをきていました。

かわいらしくて、少し戸惑っている私を促してあなたは先に進もうとしていましたね。

私はあわてて後をついてゆきました。

まずはプロ劇団の有料公演でした。

このイベントはその年のワッペンを買うと、それを見せるだけで見ることが出来ますが、それとは別に有料公演もあり、これは大人向けが多かったりします。

まずはそれを見て満足したところで、中央公園の出店が固まっているエリアでたこ焼きと、焼きそばでお昼をとり、中央公園のどん詰まりに設置された大きなテントのでのプログラムを三つ四つ見た後、メインのプログラムです。

フランスから来た劇団の有料公演でしたが、これは失敗でしたね。

市長が見に来ている位なので期待していましたが、難解すぎて、理解出来ませんでした。フランスでは歴史と権威のある人形劇団と言うことですが、そのせいと言うわけではありませが、あまりに難解過ぎて理解出来ませんでした。

そのせいか、なんとなくどんよりとした雰囲気に包まれてしまい、私はあわてて次のプログラムを探します。

時間つなぎの公演というのはいくらでもあります。

何しろ500からの公演があるのですから。

まずは今いるところから近い会場で探します、そして興味を引く物が無ければ、移動できるところで探す。

人形劇と言っても、様々です。

指人形から、糸、針金の操り人形、自らを出演させて人形とたわむれるようなもの、完全に自分を人形にみたてて演技する物、三角や四角の箱を組み合わせて、山や森、そこに生きる動物たちまでも表現するオブジェクトシアターという新たな人形劇など、ありとあらゆる人形劇があります。

とにかく時間を開けないように、片っ端からあなたと人形劇を見て行きました。

そして夕方になり、そろそろ疲れたなと思うころになって、これまた屋台でかき氷なんて食べながら、私は締めは何にすると考えていました。

本当はナイトシアターといって10時11時までの公演もありますが、そこまで連れ回すわけにもいきません。

するとあなたがパンフレットを見ながら、

「これは」と言いました。

それは美術博物館の前庭で行われる巨大人形劇でした。

人形の定義はありません、人間より大きな人形による人形劇もあるのです。

私はそこにあなたを連れてゆくことにしました。


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