第3話 まちぶせ
次の年の八月の初め。
あなたは私に会いに来た。
というか待ち伏せをされましたね。
私は夏休みなのをいいことに友達の家に遊びに行く途中でした。
誰かが私の後ろから体当たりをしてきました。
私は怒ったように
「おい」と振り向くとそこにはキラキラした笑顔のあなたが立っていました。
「あっ、や、やあ」と驚いたように言うと、あなたはうれしそうに
「やっと会えた。お久しぶり」と言いました。
「よくここを通るってわかったね」
「わからないわよ。この辺を通るかなと思って、ずーとずーとまっていたの」
「俺を」
「うん」
「いつから」
「朝から」
「朝から待っていたの」と私は驚いたように言うと、あなたは本当にうれしそうに笑っていましたね。
「もう昼過ぎだよ、ていうかじゃあ昼ご飯食べていないよね」
「うんおなかペコペコ」
「そうだね」
「どこか行くの」とあなたがいうので、私は思わず首を横に振ってしまいました。
これから行くはずになっている友達の顔は全然浮かびませんでした。
また向こうも自分の家にいるので、私が来ないからといて特に困ることもなかったと思います。
「じゃあうちにおいでよ」とあなたは言うと。
私の手を引っ張っていきました。
あなたの家は、本当に私の家から目と鼻の先にありました。
割と大きな家ですが、普段は歳のいったおじさんとおばさんが住んでいる静かな家です。
年代的にまったくかぶらないので、まったく接点がありませんでした。
だからこんなに近くにいるのに、まったく気付きませんでした。
「パパ―。パパ―。ただいま」と言いながらあなたは私の手を引きながら家に入っていきました。
「あっ、やっと帰ってきた。お前はお昼も食べないで、どこをほっつき歩いていたんだ」と言って、これまた見たこ事のないおじさんが出てきました。
それがあなたのお父様でした。
あなたは私の手を引いたまま、私の名前をいいました。
するとあなたのお父様はすぐにわかったようで。
「ああ。噂はかねがね。さあ上がって、上がってと言って」
あれよあれよといううちに、私はあなたの家でお昼ご飯を食べることになってしまいました。
実際あなたのお家はあなたのお家ではないというのがよくわかりました。
そこは、あなたのお母様のご実家で、あなたはなんとカナダのトロントの住んでいらっしゃるとのこと、夏の間だけ、お母様のご実家のこの街に来ている。
だからあなたとは夏にしか会うことが出来ない。
こんな言い方をするとあなたは気を悪くするかもしれませんが、あえて言わせていただくと、私にとってあなたは
「夏の恋人」
だったのです。
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