第四話 ロストVSスキン

「早速お出ましかよ!」

 余りの速さに驚きを隠せずにいるロスト。

 この場を凌ぐにはと、人語を喋る合成魔物キメラを製造しようとしていた過程で生まれたもう一体。

「スキン先生よぉ、あんたの戦闘スタイルは知ってるぜ! ──召喚サモン『オーグ』」

 魔法陣から露になった合成魔物キメラ

 ゴブリンと同じ背丈に緑色の肌、八の目に蜘蛛特有の鋏角が生えた口。

 二足歩行でいて右手には棍棒を持っていた。

「なんと! また奇っ怪な合成魔物キメラ。それを吾輩にぶつけてくると?」

「俺の持つ合成魔物キメラの中で一番トリッキーな代物だぜ」

「良かろう!! 吾輩が直々にお手並み拝見と致す。──ふん!」

 スキンは自身が立っていた枝を力いっぱい踏みしめ、拳を構えてオーグ目掛けて飛ぶ。

 すかさず素材となっている蜘蛛型の魔物『デッドリースパイダー』の特性である、蜘蛛の糸を口から吐き、枝に付着させて飛び乗った。

 空を切った拳は地面に当たると抉れ、土などが撒き上がる。

「ふむ、吾輩のスピードに対応するとは中々」

 拳が当たる事なく空ぶったスキンを見下ろして。

「ギャッギャッギャ(ぎひひひ、そんな攻撃当たらない、ない)」

「吾輩の基礎魔術を強化させた『身体強化ブースト(改)』を更に強化したこの魔術を使う時」

 ローブを脱ぎ捨て服までも脱ぎ上裸になると。

 スキンは自身専用に考案した基礎魔術『身体強化』を変化、強化させた魔術。

 中級魔術に値する『爆血オーバーヒート』を使用した。

 手から腕へと赤黒く染まり胸元、胴体に掛けて紋様が現れる。

「な、なんだよそれ……」

「これは吾輩がアカデミー時代に苦節していた頃に編み出した魔術である! 本来その身だけに施す『身体強化』を己の内部と血液にも施し、魔力と血液を消費して爆発的な力と速度を手にする。だがしかし、長時間使っていると血液を完全に失いかねないである」

「そんなもん今使うんじゃねぇよ!」

「吾輩はどんな獲物も全力前進で狩るのみ。例えこの命尽きようとも!! ──ふんっぬ」

 いや、だからってこんな所でそんな凄い魔術使うなよ……。

 ──それに何故服を脱ぐ。

 と、相も変わらず暑苦しいスキンを見て唖然とするロスト。

 再び地を蹴り宙に飛ぶと先程とは比べ物にならない速さで枝を破壊──

 折れた枝から慌てふためいながら落ちたオーグは地面で受身をとり後方に退いた。

 ──枝を足場に切り返したスキンはそのままオーグに向かっていき。

 オーグの腹部にボディブローをかます。

 堪らずオーグは血反吐を吐きながら後方に吹き飛んでいき、なんどか地面に弾かれバウンドして地に伏した。

 やべぇぞ……。 幾らか強すぎだろ! これが上位魔術師なのかよ。

「(生きてるか? オーグ)」

「ギャ……(ギリ、ギリ……ギリ)」

 一撃で立つのがやっとな状態にされてしまったオーグ。

 フラフラになりながらも立ち上がり、今度は背からずりゅり、と左右二本ずつの腕を生やし、計六本の手に。

「頑丈さも一級品であるな、ロスト殿が作り上げたオーグとやらは。この頑丈さはネームを与え、基礎ステータスが向上した恩恵。とは言え、ボロボロな様子」

「(まだいけそうか?)」

「ギャ!(いけるいける!)」

「(それなら──)」

「スキン先生よ! 生体魔術もといい、俺の戦い方はこんなもんじゃないぜ!!」

 何を考えたのかロストは自身に『身体強化ブースと』を使用するとスキンに迫り。

 阻止しようと拳を突き出すタイミングで『魔力障壁ボルグ』で自身を純粋な魔力の円形な壁に覆われ身を守り。

 受けきれなかった魔力障壁ボルグは破れ、微々たるものだが威力の落ちた拳がロストの腹部に触れ、がっちりとスキンの腕を掴み。

「(今だ! やれ!!)」

 もの凄いダメージを受けながらもオーグに指示をだした。

 自身に『身体強化ブースト』を施すと同時に施されていたオーグは直ぐさま接近し。

 宙に舞うと走り接近している最中に拾った少し大ぶりな岩を四つ手にしており。

 スキンの頭目掛けて岩と棍棒を振り下ろす。

 ──頭上に当たったスキンは血を流し二本ほどフラつき後退すると。

「なんのこれしき──」

 頭を振り持ち直したが。

「まだ終わっちゃないぜ!」

 気が付いた時にはオーグにより腕は胴体に密着し、その上から蜘蛛の糸でぐるぐるに巻かれ、倒れないようにスキンの図体を支えていた。

「(──ゴルバト!!)」

「キィ!!(あいさ!!)」

 叫び終えるとロストは咄嗟に耳を塞ぎ、それを見たオーグも強く耳を押さえ。

『サウンドバッド』が使用する魔術『死共音デッドボイス』で大気が震える程のデカい魔力の乗った鳴き声とも言えない音がスキン、ロスト、オーグを襲った。

 耳を塞いでいたが、余りの音に眼前がチカチカし、足取りがフラつくオーグとロスト

 それを直に浴びたスキンは白目を向き泡を吹き、耳から血を流して気絶。

 どうにか勝利を収めたロスト。

「あぁ……、まだ目の前がチカチカする。何か気持ち悪ぃ。──おえぇぇ」


 オーグは木の上から、ゴルバトは反響音エコーを使い、オルロはスキンの臭いを辿り、目的である『魔術鞄マジックバック』を探す。

 ──少しして遠くの方からオルロの「ウォォォォン!」という遠吠えが聞こえ。

 鳴き声が聞こえた方に向かうと、木の根付近に出来た空洞の中に魔術鞄が入っていた。

「やっと見つけたぁぁぁ!!!。お前らでかしたぞ!」

 天高く魔術鞄を掲げ、合成魔物達キメラに褒め言葉を贈った。

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