第二話 人語を理解する合成魔物

 自宅にある魔物に関する書籍を読み漁り。

 少しでも高い知能がある狼型の魔物『ヴォルフ』や、緑色の肌をした小鬼型の魔物『ゴブリン』などを下級魔術『魔力鎖バインド』を用意て拘束し捕獲テイム

 捕獲テイムした魔物を解体しては返り血を浴びながら素体となる魔物石コアを収穫、二体の魔物の魔物石と肉体の一部を使い合成を繰り返す。

 ロストの中で上手くいったものとそうでない研究成果を分け、暗号化して記録。

 それらを繰り返すこと、十時間以上が経過していた。

「だぁぁぁ!! 上手くいかねぇ。そもそも人語なんか話せるようになるのかよ、魔物同士の合成で」

 ロストは分かっていた。

 どうすれば人語を話せ、理解出来る合成魔物キメラを簡単に製造出来るのか。

 それは人間と魔物の合成、言わば禁忌として扱われる魔術の一つだ。

 禁忌の魔術は魔術師の中で暗黙のルールとしてやってはならない、これからの使用を禁じた二種類ある。

 人間と魔物の合成は前者にあたる。

「禁忌の魔術しかねぇかなぁ……。いや、それだけはダメだ! 利用出来るものは利用する、って言っても、人の道を外れる事だけは」

 ため息混じりに息を吐き、床に散らばった書籍や研究道具の中に座り込んでは頭を搔き。

「今何時だ? 懐中時計は──」

 そんな事を囁くと、床に付いていた手に何かがコツン、と当たった。

 当たった場所を確認すると、そこには自身で先程製造した合成魔物。

 考える頭が二つあればそこそこ頭の良いの出来んじゃね? という安易な考えから生まれた、狼の頭を二つ生やした合成魔物が懐中時計を咥え持っていた。

「お前が持ってきてくれたのか?」

 ロストの問い掛けに答えるようにして。

「──ウォン!」

 ──ん? まさかと思うけど、こいつ、俺の言ってる事が分かるのか?

「先ず試しに──、お座り。お手。伏せ」

 流れる様に指示をだしてみると、全てをスムーズにこなしロストを見上げながら尻尾を揺らす。

 ──あとはそうだな。

 生体を扱うという事で設備していた訓練室に共に歩いて向かい。

 部屋に入るなり。

「元の素材であるヴォルフと言えば、基礎魔術の『身体強化ブースト』が使えたはず」

 その言葉に反応したのか、命令される前に『身体強化』を使ってみせた。

「マジかよ、お前!! 俺の言葉が分かるのか!」

「ウォン!!」

 喜んでいるのが嬉しいのか、はしゃぎ尻尾を振りながらロストの周りをぐるぐると回る。

「人語を喋る合成魔物は出来なかったが、は出来た! 今度はこいつで試験に挑んでやる」

 と、ガッツポーズをとるロスト。

「あとはお前に名前をやらないとな。そうだなぁ、二つの狼の顔……。あっ! 『オルロ』にしよう」

 名前が気に入ったのか、オルロは「ウォォォォン!!」と、高らかに遠吠えをした。


 ──一週間後

 再試験の為にアカデミーに顔を出していたロスト。

 前回と同じくして、眼前には『アルバス』と『マーブル』が。

「遂にこの時がきたぜ! 卒業再試験日。アルバス先生、見ていてくれよ! これが人語を理解する合成魔物だ!! ──召喚サモン『オルロ』」

 突き出した掌の下、床に魔法陣が出現し、オルロが姿を露わにする。

「ほう……、それが人語を理解する合成魔物キメラか」

「なんだかこっちまでドキドキしますね、アルバス先生!」

「先ずはお座り、お手、伏せ」

 流れる様に躾られた犬が当然の様にやる基本的な芸を見せ。

「──その程度か?」

「まだまだ! オルロ、『身体強化ブースト』!!」

「ウォォォォン!」

「おぉ!! すごい、すごいですよ、ちゃんと指示に従って──」

「それだけじゃないぜ? この一週間、俺の製造した合成魔物キメラと訓練してる中で気が付いただ!」

「なに!? 魔物は魔術を使える奴が少なく、一つでも使えたら珍しいというのに」

「だけどこいつは合成によって二種類の魔術を行使出来るようになったんだ! それに他の合成魔物キメラでは複数の魔術を行使する個体もいれば、強力な魔術へと変化する個体もいた。加えて複数の特性持ちもな!!」

 狼の合成魔物は二本の顔を生やしている。

 片方は『身体強化ブースト』を扱える魔物であるヴォルフ。

 だがもう片方はヴォルフに似ているが、実の所違う狼型の魔物。

 ヴォルフは毛並みが灰色に近い黒であるのに対して、もう片方の狼型の魔物『カゲロウ』は黒い毛並み。

 そんな二体の魔物が合成された事で毛並みは黒色のグラデーション。

 ──そして、扱える魔術は。

「今度は『影槍シャドースピア』!!」

 オルロ自身の影が蠢きだし、鋭利な槍のように影が宙に伸びて。

「──ちょ、お前!」

「──ひぇぇぇ」

 伸びた影は試験監督であるアルバス、マーブルに襲い掛かり。

 二人は咄嗟に基礎魔術である『魔力障壁ボルグ」で自身を覆うように円形の障壁を出す事で防いだ。

 アルバスはわなわなと、身体を震わせ。

「ロースートー!! お前はもっと周りを見てから魔術を使え! 危うく俺達二人が串刺しになる所だっただろ!!!」

「──ごめーん。でも、どうだよ、今回の合成魔物キメラは」

「あぁ、合格だ。 今回はちゃんと言う事を聞く魔物のようだな。それに二つの魔術も扱え、前回のようにネーム持ち。文句なしの合格だよ。改めておめでとう、ロスト。アカデミー卒業だ! 今日から『下位魔術師』となる。魔術師となったその証、このローブを」

 ロストは手渡された十字架に炎に包まれた鳥『フェニックス』の描かれた国の紋章エンブレムが背にあるローブに腕を通すと。

「俺も遂に今日から魔術師……。三年間のアカデミー生活は長かった」

「アカデミー卒業したのは良いが、精進していけよ、ロスト。大賢者になるんだろ?」

「あぁ、俺はいつか偉大な大賢者になってやるさ!」

「それと忘れるなよ? 三日後には魔術師としての活動が始まるからな。──これに集まる場所書いてあるから」

 と、アルバスから一枚の手紙を手渡された。

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