01-10
俺は魔術を使う。
当然、俺が使えるのは回復魔術だけだ。
『──
『
『
『
俺は思った。
あの夢喰いの力を止めるには、まず皆の目を覚ますことが第一だ。
おそらくあの眠りの魔術は、悪魔らしい闇属性の魔術。対して俺の持つ聖属性とは、闇の対極である光、その上位属性である。つまり闇属性の存在に対する特効薬だ。
皆に聖属性の魔力を
そして直後──
躱されていたナイフが突き刺さり、その影の身体を食い破る。ああ、今日の俺は冴えてる。地面に倒れていた、娼婦たちに客人たちが……皆一斉に、むくりと目を覚まし始めたのだ。
「……な、なんだ……俺たち、たしかさっきまで……」
「ううん……嘘、私寝ちゃってたの……?」
「ま、魔物……? どうしてこんなところに……ッ!?」
……俺の魔術で目を覚ましたやつらが、悲鳴をあげて塔から逃げ出していく。そんな中で、形勢は再びヴァレーへと傾いた。その連撃が影の身体を喰らいつくし、また
「シュガー様……ッ! ありがとうございます!」
すでに、
「きゃっ……」
──俺は、見つける。
逃げ出そうとしたやつらの中で、たったひとり、足をもつれさせた娼婦だ。
……分裂?
「…………ぁ……」
声は出なかった。咄嗟にヴァレーにそれを教えようとしても、俺はダメだった。喉の奥で突っかかったように、自分の声が出てこない。
だから俺は──走った。
咄嗟に身体が動いていた。
「えっ、ちょっと……シュガー様っ!?」
ああ、馬鹿か。俺が乗っ取られても同じだろうが。
死にたくないって自分で思ってるはずなのに、娼婦をかばうように、俺は彼女と
その影の身体が、俺に触れた。
『──警告:精神の致命的損傷』
『生命維持機能の停止を確認』
……くらり。
ほんの一瞬の目眩がする。
『
『
『
その直後、俺の視界は晴れていた。
『──警告:肉体の再構成に際し、体内に異物を確認』
『構造分析……
だが、妙だ。意識ははっきりしていた。
俺の精神は死んでいないし、憑依なんてされている様子もない。それに──
『──肉体構造を最適化』
『──精神構造を最適化』
『
『
『精神・肉体を再構成します』
──目の前の
まるで身体の半分を
「し、シュガー様……今の、って……」
「…………」
俺は考える。もしかして……聖属性?
悪魔に有効だってことは知っていたけど……まさか、こんなに効果があったなんて。触れるだけで身体の半分が消し飛ぶとは、なんて敏感なんだ。
俺は生まれもった自分の才能に感謝した。回復魔術しか使えないなんて卑下していたけど、悪魔の憑依に対してこんな便利な耐性があるなんて……まぁそもそも、悪魔とやり合う機会なんて、人生でせいぜい一度きりだと思うけど。
「諞台セ晢シ……蜀崎ゥヲ陦……ッ!」
──何かの間違いだ。
まるでそう言うかのように
また、
呑み込むように──深い闇が、押し寄せてくる。
『──警告:精神の致命的損傷』
『生命維持機能の停止を確認』
……くらり。
また、一瞬の目眩。視界の明滅。
『
『
『
けれど、俺の視界は晴れていく。
『──警告:肉体の再構成に際し、体内に異物を確認』
『構造分析……
『──肉体構造を最適化』
『──精神構造を最適化』
『
『
『精神・肉体を再構成します』
そして──
何の悲鳴もなく、抵抗もなく──煙のように散る。俺はただ、何もせずにそこに立っていただけだ。悪魔が勝手に自滅しただけ。まぁ、言ってしまえばそれだけなんだけど、それでも……
「…………助け、られて……良かった」
……変に会話をするのも嫌で、俺は転んだ娼婦の顔も見ず、手で払うようにして逃げるよう促す。彼女は「ありがとうございます」と震えた声で言うと、他の客と同じように、そのまま塔から消えていった。
「シュガー様! こっちは終わりました!」
同じく、ヴァレーの方も済んだようだった。
やや焦った様子で駆けてくる。
「ええと、シュガー様は……だ、大丈夫そうですね……?」
……自分でも驚くほど、何の問題もない。
向こうに残っていた
俺は頷き、同時にヴァレーにも回復魔術をかけてやった。
見た感じ、傷は追っていないけど……絶対に疲労はしているだろうから。俺の回復魔術は、気持ち程度に疲れが取れると評判だ。
『──
『
『
ヴァレーは、その大きな金色の目をぱちりと瞬かせ、そして顔を上げる。
「シュガー様……ありがとう」
にい、と目を細め、大きな口で笑った。
うん、まぁ、それは良いとして。
ところで……そろそろ俺の家に案内してもらえない?
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